「修理しよう!」

池永 記代美 / 2022年12月21日

 

展示「修理しよう」のポスター。STDB/Grafik: BOK +Gärtner

ファスト•フードならぬファスト•ファッションという言葉が聞かれるようになって約20年。流行の服が手軽な値段で買えるようになり、トレンドの服を楽しみたい人には便利な世の中になった。しかし、これらの服の寿命は短い。衣服の世界でも使い捨て文化が広まり、今やアパレル業界は石油産業に次いで世界で二番目に環境に負荷をかける産業になったと言われている。こんなことで、いいのだろうか?

ベルリンのドイツ技術博物館で行われている展示、「修理しよう!浪費せずに、長く使おう」で、20世紀初めにある女性が着ていたキャミソールを見て、思わずそんなことを考えた。生地が擦り切れて薄くなったところなどを細い糸で補強して、ほぼ全体に丁寧に繕いが施してあるのだ。当時、このようなキャミソールは贅沢品だったのだろうが、持ち主がこのキャミソールをとても大切にしていたことが、一目で伝わってきた。ここまで手は込んでいないが、靴下に穴があけば繕い、ワイシャツの襟が擦り切れれば襟返しをするのは、ある時代までは当然のことだった。

ところが、 すさまじい技術の進歩や工業化の発展に伴い、大量生産、大量販売、そしてその結果としての大量破棄社会がやってきた。目まぐるしく変わる流行がそれに拍車をかけ、人々は喜んで新しい物を買うようになり、古い物を大切にすることは時代遅れでカッコ悪く、恥ずかしいことの様に受け止められるようになった。 昔は電話機を買い換えることなどほとんどなかったが、今、ドイツ人は平均して3年に一度、 新しいスマートフォンを買っているそうだ。 その結果、ドイツの平均的な4人家族世帯は、1年間に76kgの家電機器を捨てているという。会場入り口付近に展示されている電化製品などのガラクタを積み上げたオブジェは、それを可視化したものだ。その隣には、遠目には青色と緑色が美しいが、近寄って見れば、半導体などの電子部品をつなぎ合わせて作ったことがわかる地球儀が紹介されている。材料は全て、廃棄物から得たそうだ。

美しい地球儀だが、廃棄物の電子部品で作られている。実際に地球もゴミの山に埋もれていると言えそうだ。SDTB/Foto:C.Kirchner

 

「気候変動は私たち全員にとって、今、 最も重要な課題であるのに、ミュージアムはあまりこの課題に取り組んできませんでした。 それではいけないと、私たちは考えました」と、技術博物館のヨアヒム•ブロイニンガー館長は、展示開始の前日、12月6日に行われたオープニング式典で「修理しよう!」の展示を企画した背景を語った。そして、「この展示が、資源やエネルギーを無駄遣いする使い捨て社会から脱却する道を見つけるのに役立てば嬉しい」と、希望を述べた。

この展示の主なターゲットは子供連れの家族や、学校の生徒たちだ。狙いは子供たちに修理の意義だけでなく楽しさも伝え、修理に必要な知識や能力を身につけてもらうことだという。展示会場には大きな靴下やボタンのモデルが置いてあり、どのように繕ったり取り付けたりするのがいいか、子供たちは自分で試すことができる。色々なネジを取り付けた台では、ドライバーにも種類があり、どのネジにどのドライバーを使うべきかが学べるようになっている。修理をすることで、子供たちは物がどんな仕組みでできているかを理解することができるし、 物作りの楽しさを経験することになるかもしれない。

ところが最近の電化製品などは、すっぽり容器に覆われていて、自分で 分解できなくなっている物が多い。スマートフォンがその良い例だが、故障すれば、高いお金をとる専門業者に直してもらうか、 新しい物を購入するしかない。おまけに、商品を購入した人でも仕様書を手に入れることができなかったり、交換用に必要な部品が作られていなかったり、そうした部品は専属の業者にしか販売しないという決まりがあったりして、消費者が自分で修理することができないこともある。これは、修理されるより新しい商品を買ってもらった方が、メーカーは利益をあげることができるし、技術を盗まれるリスクも防げるからだ、そして、こうした状況を「仕方ない」と大半の人が受け止めているのが現状だ。しかし、この展示は、修理する権利を求めるアメリカなどでの運動を紹介し、消費者には「修理する権利」があることを教えてくれる。

ガラクタのオブジェを観察するレムケ連邦環境保護相(中央)。自転車のタイヤのパンクぐらいは自分で直すそうだ。

展示「修理しよう!」を後援する連邦環境・自然保護・原子力安全•消費者保護省のシュテフィ•レムケ相はオープニング式典の挨拶で、「多くの資源を使っているのに、使い捨てや寿命の短い商品がたくさんあります。それらを次々に買い換える消費社会のメンタリティーを変えなければなりません」と訴え、「そのためには政治が有効な規則を作ることも大切ですが、消費者も政治やメーカーに、修理可能な商品を作るよう働きかけてください」と呼びかけた。そうした声に応じて、素人にも分解、修理が可能なスマートフォンが実際に誕生したのは喜ばしい成功例で、もちろんこのスマートフォンも会場で展示されている。

技術博物館が企画したものだがこの展示では、修理の歴史を振り返るコーナーや、手足が切断されても自分で再生する能力を持つ両生類のメキシコサンショウウオを例に、自然界の“修理”を学ぶコーナーがあり、修理に関わる幅広い分野について学ぶことができる。 また、修理は文化や芸術でもあり、修理により価値が高まるものとして日本の伝統的な技法である金継ぎも紹介されている。金継ぎは割れたりヒビが入ったりした陶磁器を、漆を使って接着し、仕上げに金粉で装飾するというものだが、物を大切にする良い文化の例として、ドイツでは数年前から注目されている。このコーナーのオーディオガイドでは、ベルリン在住で「金継ぎベルリン」創設者の豊田智子さんによる金継ぎの説明も聞くことができる。

この展示の行われている期間、生徒たちのために、自転車や日常の生活用品の修理の仕方を教えるワークショップが開かれるという。また一般見学者のためにも月に一度、修理カフェがオープンする。修理したいが、そのための知識や道具がない人も、専門家のアドバイスを受けながら、修理の方法が学べるという。気候変動と聞くと課題が大きすぎて、個人の無力さを感じることがあるが、この展示を見て、物を大切にして資源やエネルギーの無駄遣いをなくすという、日々の生活の中のささやかな努力が大切なことを、改めて強く感じた。

関連情報:ドイツ技術博物館 「修理しよう!浪費せずに長く使おう(“Reparieren! Verwenden statt verschwenden”)』 2022年12月7日から2023年9月3日まで。

おもちゃの車で修理を習う子供たち。「修理しよう!」の展示期間中、ワークショップや修理カフェも設けられる。自分で修理できないものがあれば、捨てる前に相談に行ってはどうだろうか?SDTB/Foto:Gattendorf

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