風車の森、アメリカ旅行 1
地球温暖化が進んでいるのでしょうか。世界中で史上最高の猛暑が記録されています。地球温暖化の主因は温室効果ガスです。温室効果ガス排出を削減するために、飛行機での長距離旅行をやめたという社会学者、ヴェルツ教授の深刻な顔が思い浮かびました。「アメリカを見ずしては世界が見えない」という知人からの言葉を良い口実として、今回、米国行き長距離旅行に踏み切りました。
ニューヨーク市に着いた途端に、長年ベルリンに住む者には慣れていない、湿度の高い暑さに襲われました。ニューヨークは、まさに岩の上に建てられた石の街です。コンクリートの上、ビルの谷間を歩くと、オーブンの中に入ったよう気がしました。超高層ビルの無数の窓には、冷房が設置され、そこから熱風を送り出しています。ニューヨーク市のサウンドは朝方の町に響くこのエアーコンディションの音だと、作曲家である坂本龍一は、あるインタビューに答えていました。地上の猛暑から逃れられるだろうと期待して地下に降りてみると、ひと夏分の熱が既にここには、こもっていました。ホームでブルースを歌う2人のストリート・ミュージシャン。ジョージ・ガーシュウィン作曲の「サマータイム」が実感できたと思っていると、熱風とともに地下鉄が入ってきました。ドアが開き乗客とともに冷気が吹き出てきます。このときほど冷房車がありがたいと感じたことはありませんでした。
冷房の効いたビルの一階ロビーを市民に開放しているところを、マンハッタンではよく見かけました。去年の夏は熱波が襲い、日陰でも気温が40度に達し、市民の多くは冷房のある部屋で扇風機を回し、外出しなかったと聞きました。高い気温と湿度で街全体がサウナ状態になってしまうと、誰でもが休める冷房室は必要性が高いと思いました。
クレーフェ公国からやってきた航海者、ピーター・ミヌイットが、1626年にレナペ族からマンハッタン島をわずかな物品と交換した以前、海に囲まれたマンハッタン島の風土はどうだったのでしょうか。1825年にエリー運河が完成し、アメリカ東部と中西部の水上交通が開通しました。それ以来ニューヨーク市は世界都市として急激に繁栄したそうです。水の自然の流れを完全に変えた大工事でした。アメリカほど自然を征服しようという意思が強い国はないと感心しました。いままで想像出来なかった超高層ビル群の下で、アリのように小さくなった私は、アメリカは巨体だと感じました。
電力消費量の上でもアメリカは大国です。2008年~2011年の統計によると消費量は中国に続き世界で2番目です。3番目の日本と比べてみると、消費量は4倍以上あります。エネルギー使用によって発生するCO2排出量を比較してみると、ここでもアメリカは中国に次ぐ世界第二の排出国です。その量は第三に当たるインドの3倍以上になるそうです。ドイツでは設備の効率化とエネルギーの節約はエネルギー問題を解決する重要な鍵と考えられています。「無限の可能性がある国」と言われるアメリカでは「節減」という言葉は使われていないようです。
エネルギー源が無限にあると信じて造られた都市を後にして、私たちは大自然の驚異のひとつとされているグランド・キャニオン国立公園に向かいました。何百マイルもまっすぐに伸びるハイウェイ。集落、ガソリンスタンドも見当たりません。スピード違反を少しでもするとどこからか、必ず現れると脅かされた、保安官さえもこの地域を見放したのでしょうか。変化があったといえば車の中の温度計だけで、着々と上がっていきました。その無の世界に突然現れたのは1機の風力タービンでした。「風力発電機か?太陽熱のほうが効率がいいのでは」と思った数秒後、10機、50機、150機、数え切れない! 見渡す限り無数の発電機が立っていました。私たちはゴールドラッシュで金をみつけた開拓者のような気分になりました。まさに風車で植林された森でした。ドイツ環境ドキュメンタリーの「第4の革命」ではアメリカの風車が止まっている様子を描写していました。しかし、わたしの目の前の風力タービンは例外なく元気に動いていました。アメリカを見て私は世界の未来を見たのでしょうか。