世界の動きについていけない日本 — 完全に置いてきぼり
この3月末、ドイツ政府の招待に応じて、世界約60ヵ国から政府代表者やエネルギーの専門家、経済界からの出席者など900人あまりがベルリンの外務省に集まった。世界が直面している気候変動とエネルギー問題に対する答えとしての世界規模のエネルギー転換について二日間わたり対話を交わすことが目的で、会議の名称も「ベルリン、エネルギー転換に向けての対話」。
挨拶に当たり主催者であるドイツのフランク=ワルター・シュタインマイヤー連邦外相は、「世界各地での危機が止まない今日、(エネルギー転換によるエネルギーの自立は)安全保障問題とも関わりがある」と語り、「また、エネルギー転換はドイツにとって『月着陸プロジェクト』でもある」と述べた。外相は更に、お互いに協力しあう、広範囲地域における「エネルギー連合」の必要性についても強調した。同じく主催者であるジグマ・ガブリエル連邦経済・エネルギー相は「安全でクリーンなエネルギーはドイツではもはや環境問題ではなく経済問題になっている。ドイツはエネルギー転換を通して、環境保護と雇用が相反するものではないことを証明したい」と話し、「原発関連の雇用者数は最高時でも3万人だったが、現在再生可能エネルギー関連の雇用者数は30万人を越している」、「ドイツが経済的にも成功してはじめて、他の国にもエネルギー転換を勧めることができる」と続けた。
会議に出席したバーバラ・ヘンドリックス連邦環境相は「ドイツは再生可能エネルギーの開発に沢山の費用を費やしましたが、皆さんはそれを払う必要はありません」と述べ、ドイツの技術開発や数多くの実例が価格の低下をもたらした太陽光パネルや、性能の向上した風力発電装置に触れ、「将来的に世界中で誰でもが安価で入手できるエネルギーを提供することにドイツは貢献したい」と話した。
世界的に著名な経済学者であるジェレミー・リフキン氏はスピーチで、「ドイツはエネルギー転換に成功すると確信している。エネルギー転換の鍵は再生可能エネルギーとエネルギーの効率化の両政策にある」と力強く語った。そして「エネルギー転換のための技術と資金は世界に存在する。何を優先するかが問題だ。2世代以内に全ての(この会議の参加者の)国でエネルギー転換が出来るはずだ」と強調した。
ドイツのフラウンホーファー・ソーラーエネルギーシステムズ研究所(ISE)のアイケ・ヴェーバー教授は、「ひと昔前には太陽光発電のための市場を形成する必要があった。ソーラー発電は今では第二のゴールドラッシュになっている」と語り、蓄電装置も同じで、近い将来に大量の電力がごく安く蓄えられるようになると予測する。同氏は「エネルギー転換は経済の加速器で、チャンスを逃すのは愚かだ」とも付け加えた。スウェーデンのチャルマーズ科学技術大学のトーマス・コーベリエル教授も同じように、蓄電装置が10年以内に現在より7割程度安くなるだろうと予測している。
パネルに参加したノルウェーのビョルゲ・ブレンデ外相は「我々は気候変動を経験し、それに対して行動できる最初の世代である」と参加者に語り掛け、行動の必要性を強調した。中国エネルギー管轄庁のリウ・キー(Liu Qi)副長官は、太陽光と風の強い同国西部の砂漠地域で再生可能電力を生産することが貧困対策になっていると報告した。そこで作られた電力が送電網を通し東部の工業地帯に送られているからだ。また、アルジェリアのユセフ・ユスフィー エネルギー相は、気温が摂氏55度を超えるとソーラーパネルの性能が落ちること、また砂漠の砂がパネルを覆う問題なども提示した。
この会議では、数々のスピーチやパネルディスカッションを通し、当初エネルギー転換に少々懐疑的だった国からの参加者も含め、最終的には大多数が「エネルギー転換は可能である」という共通の印象を持つことができたようだった。そしてスウェーデンのエネルギー・環境省政務次官は、「どの国も単独ではエネルギー転換は実現できない」と強調し、「気候変動は世界規模で起きているのだから、エネルギー転換も世界規模で達成しよう」と呼びかけた時には、多くの賛同を得た。
各国からはこの他、大臣だけでもデンマーク外相、チェコ通商相、クェート石油相、スロベニア・インフラ相、アラブ首長国連邦、チリ、ルーマニアのエネルギー相などが参加していた。それぞれの国が環境保護とエネルギー問題をいかに重要視しているかが理解できる。そして参加者は、他国の学者や経済界、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)、国際エネルギー機関(IEA)、世界貿易機関(WTO)などの国際機関の代表らとも活発に経験談や意見を交換する場を持った。
ところで、この会議への日本の参加・貢献はどうなっていただろうか? 答えは残念ながらゼロに近い。主催者側の話しによると、例えば中国からの参加者は50人近くもいたそうだ。彼らが独自の通訳を駆使して英語で行われたスピーチや討論に熱心に耳を傾けていた様子は誰の目にも映った。これに対し日本人の影は薄かった。参加者は約10人強で、しかもその中で一番大きかったグループは、在ベルリン日本大使館の館員たちのようだった。国民総生産世界第3位で、大きな原発事故も起こした日本は、エネルギー転換に興味がないのだろうか。世界が一体となって地球の将来について語っているのに、日本が送った政府代表は経済産業省の役人一人だった。日本は原発や、温暖化ガスを発生する火力発電などにこれからも固執し、世界の動きについていけないのではないだろうか。日本は完全に置いてきぼりになっているのではないだろうか、と会議終了後ふと気が付き、悲しくなった。