「配電網を市民の手に」その2 - 電力会社との争い

あきこ / 2016年4月10日

以前、ベルリン市と電力会社ヴァッテンファル社との間に交わされている配電網の営業権の契約満了に際して、「ベルリン市民エネルギー」という市民グループが営業権獲得に動き出したことを書いた。その後、ヴァッテンファル社との営業権契約解約についての報道が途切れていたが、最近、新たな動きが出てきているようだ。

ベルリンの配電網の営業権獲得を目指して「ベルリン市民エネルギー協同組合」が設立されてから、すでに3年以上が経過した。ベルリンでは、配電網と並んでガス事業の営業権の譲渡が行われており、ベルリン市の出資企業である「ベルリン・エネルギー社」が獲得したが、それまでの営業権を持っていたガザック社がこの委譲は無効であると訴え、ベルリン州裁判所が原告の訴えを認めたため、現在委譲をめぐって発注者であるベルリン政府が再度検討している。このような事情があったため、配電網営業権についても、ベルリン州政府内で検討が進められてきたため、事態の進展が遅れていた。

2月半ば、ようやく州政府から営業権委譲に関する第2回目の文書が公表され、そのための入札が再開された。第1回目の入札で、3者が応札者として認定された。現在、営業権を持っているスウェーデンの国営電力会社であるヴァッテンファル社、上述の「ベルリン・エネルギー社」、市民の手による「ベルリン市民エネルギー協同組合」の3者である。

ベルリンの日刊紙「ターゲスシュピーゲル」は2月26日付の記事で、第2回目の文書について初回と比較して「透明性」という表現が著しく減っていると指摘した。初回のものには、「透明な」あるいは「透明性」という単語が7回出てきているが、今回のものには全く言及がないというのだ。数十億ユーロ(数千億円)にも上る営業権に関して、同紙は透明性が欠けていると批判している。入札条件について、「前回は事細かに315項目が挙げられていたが、今回は添付書類に書かれてはいるが州政府は公表していない」と同紙は指摘している。エネルギー経済法は「透明かつ公正な」入札方法を規定しているにもかかわらず、今回のような書面が出てきたことに対し、ターゲスシュピーゲル紙は二つの全く異なった説明を挙げている。一つは営業権発注者であるベルリン州財務省のもので、「裁判所の判断の結果、すべての入札条件は公表できなくなった」という説明である。もう一つは「ベルリン市民エネルギー」のもので、「今回の新しい入札方法は完全にヴァッテンファル社向けのものである。入札方法の公表は州政府にとって不都合なことになる」という説明だ。

第2回目の文書の公表以後、「ベルリン・エネルギー社」は電力会社E.ON社の協力を取り付けており、ベルリンの配電網をめぐって2大電力会社であるヴァッテンファル社とE.ON社が争う様相を呈してきている。この激しい闘いの中で、市民に配電網を取り戻そうとする「ベルリン市民エネルギー」協同組合は、3月14日に400ページにのぼる応札書類をベルリン州政府に提出し、ヴァッテンファル社とは本質的に違う立場を明確にしている。すでに組合員からの資金は1100万ユーロ(約14億円)を超えている。「ベルリン市民エネルギー」は、この資金で配電網を買い取ることで、ベルリン市の負担が軽減されるばかりでなく、営業権による収入がスウェーデンの国営企業であるヴァッテンファル社ではなくベルリン市に入り、さらに今後の電力系統の整備その他の決定権がベルリン市に留まると主張している。

シェーナウ電力会社の強い支援を受けている「ベルリン市民エネルギー」が営業権を獲得できるかどうか、これからも長い道のりが待ち受けている。巨大電力会社がベルリン州政府に対して、今後もロビー活動を続けることは容易に想像がつくが、「ベルリン市民エネルギー」は最終的な決定に至るまでの過程で、電力会社と政府の間に秘密の取り決めが行われていないかどうかを監視する役割も担うことになるのではないだろうか。というのも、入札手続きが凍結されていた間に、ベルリン州財務省が「ベルリンのエネルギー政策に関する対話」を行なったのだが、この対話に参加したのがE.ON社とヴァッテンファル社であったからだ。「ベルリン市民エネルギー」は、この対話に招かれなかったことに対して、ベルリン州政府が入札時に「公正性に欠けていた」として連邦カルテル庁にベルリン州政府の権力乱用を訴えている。このような市民の力が、公権力の監視にもなっていることは心強い。

E.ON社のバックアップを受けたベルリン・エネルギー社、市民力の「ベルリン市民エネルギー」、ヴァッテンファル社による三つどもえの闘いに決着がつくのは、恐らく今年に行われるベルリン州議会選挙の後になると予想されている。

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