新年のご挨拶

編集室 / 2023年1月1日

明けましておめでとうございます。 昨年は、コロナ禍が収まらないうちに、ヨーロッパで戦争が始まるという、大変な年となりました。新しい年が皆様にとって、全ての面でより良い年になることを、心よりお祈り申し上げます。

Flickr:©️pandeira

2022年は、我々が昨年の新年の挨拶で望んだのとは、まるで違う年になってしまいました。その主な原因は、間違いなくロシアのウクライナ侵攻です。ドイツは毎年年末に「今年の言葉」を選びます。2022年はそれが「時代の転換点」でした。この侵略戦争のために、ドイツで幾つもの重大な政策の転換があったからです。

その一つはまず、ドイツが戦闘地域への武器輸出禁止を覆し、ウクライナに武器を提供したことです。そして、国の軍備を強化するために、軍事予算を大幅に拡大したこともあります。

もう一つの大きな変化は、エネルギー政策の転換でした。ドイツは化石燃料の輸入を、異常なほどまでロシアに依存していました。 そのために、以前にはロシアからパイプラインで送られて来ていた大量の天然ガスの代替として液化天然ガス(LNG)を受け入れるために、北海やバルト海の沿岸に急ピッチでターミナルを建設し、LNG 輸出国と購入契約を結ぶ必要がありました。LNGはパイプラインで送られてくる天然ガスに比べて、環境への負担がずっと大きくなります。

ドイツ政府は、冬場に電力が足りなくなる危険があるとして、気候への悪影響が大きいので発電を既に停止させていた石炭、特に褐炭火力発電所の再稼働を許すようにしました。そして10月には、2022年末に決まっていたドイツの脱原発を、この冬を安全に超すためにと、2023年4月まで延期すると決定せざるを得ませんでした。

ドイツは2011年の福島第一原発事故を機に、完全な脱原発決定をしました。そのことはまた、私たちがこの「みどりの1kWh」 を立ち上げる動機となった事柄です。2022年末までに脱原発が完了されないのは大変残念です。社会民主党、緑の党、そして自由民主党の3党で構成するドイツの現連立政権のメンバーである自由民主党の中からは、「まだ稼働しているドイツに残る3基の原発を4月以降も停止せず稼働を続けるべきだ」とする声が、だんだん大きく聞こえてきます。野党のキリスト教民主・社会同盟からも、「ドイツの原発を停止することが間違いであることは、近い将来明白になるだろう」などという声が上がっています。世論調査でも、ドイツの原発維持を推す人たちが増えているそうです。

しかし、原発から放出される放射性物質の危険は減っていません。ロシアのウクライナ侵略戦争では、ウクライナに多数ある原発が「固定された原子爆弾 」とも言われます。原発から出る廃棄物の最終処理場の目処は、ドイツでもまだ立っていません。あるメディアは先ごろ、「それが見つかるのは60年ぐらい先だろう」と報道していました。そして原発は、信頼できる発電所でもありません。というのは、2022年の夏、フランスでは河川の水位の低下や水温の上昇のために、また故障や点検のために、同国の約半数の原発が停止してしまい、ドイツなど近隣国からの多量の電力の輸入が必要となったのです。

過去11年間、私はドイツの脱原発が完了するまで、このサイトに執筆しようと考えていたのですが、残念ながら原発の終わりは、この国でもぼやけてきてしまいました。ただ、昨年80歳になり、執筆の作業がだんだん厳しくなってしまったので、私はこの新年のご挨拶と同時に、皆様にお別れをお伝えしようと思います。11年の長い間、拙い文章をお読みくださり、ありがとうございました。しかし、このサイトは今後も続く予定なので、どうぞこれからも時々目を通していただきたいと思います。私も、また何か書きたくなるかもしれません。どうぞ宜しくお願い致します。

最後に、ドイツの電力消費に占める再生可能電力の割合が、ドイツ全国エネルギー・水利経済連盟(BDEW)の速報によると、2022年には1年前の42%から47%に増加したことをお伝えしたく思います。また、ドイツの重要なエネルギー研究機関である「AGエネルギービランツェン」の最新の発表で、ドイツの2022年の予測エネルギー消費量が2021年より4.7%も減って1万1829ペタジュール(1ペタジュール = 約278 GWh)になるということを付け加えさせていただきます。この消費量は1990年の東西両ドイツ統一以来最小だそうです。しかも、ドイツには今年に入ってからウクライナなどからの避難民が 既に100万人以上も来ており、人口はそれだけ増えています。それにも関わらず、ドイツはエネルギー消費量の削減ができたのです。減少の主な原因は、エネルギー価格の高騰のために人々がエネルギーの浪費を減らす努力をしたり、エネルギー消費の効率を高めるための投資を増やしたりしたことだといいます。エネルギー価格の高騰のために生産量を減らした業界もありましたし、平均気温が上昇してエネルギー消費にブレーキのかかったことも事実だそうです。ただ傾向として、ドイツのエネルギー消費量は徐々に減り、段々に気候への負担を軽減しているように見受けられます。そこに希望を持ちます。

ツェルディック 野尻 紘子

 

ロシアのウクライナ侵攻という国際法違反の暴力行為により、多くのウクライナ人が家族や故郷を失いました。今も、攻撃に怯えながら、電気や暖房のない中で生活をしている人がたくさんいます。実はこのような戦争は、今までも世界のあちらこちらで行われていたのですが、今回は戦地との物理的な距離の近さのために、戦争の悲惨さを肌で感じることになりました。人間の理性と人々の平和を願う気持ちがこの戦争に打ち克つ日が、一刻も早く訪れることを願っています。

この戦争は、ドイツに多くの試練をもたらしました。私たちにとって主要なテーマであるエネルギー政策は、戦争の影響を最も強く受けた分野の一つです。温暖化対策に意欲的に取り組むつもりだった社会民主党、緑の党、自由民主党からなるドイツの連立政権ですが、ロシアからのエネルギー依存脱却が最優先事項となり、苦渋の選択を迫られ続けています。それでも脱原発の基本方針は今のところ維持していて、原発活用を選択した日本とは、異なる道を歩んで行くことになりそうです。

昨年一年、ドイツで最も影響を与えた言葉として、「時代の転換点」という言葉が選ばれました。この言葉は、ロシアがウクライナに侵攻した直後に緊急召集された連邦議会の演説で、ショルツ連邦首相が用いた言葉でした。長い目で見たとき、実は私たちは今、本当に大きな転換点に立っているのかもしれません。頻度はさらに減るかもしれませんが、そんなドイツで起きていることを、これからも報告していきたく思います。

池永 記代美

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