福島原発事故後4年のドイツメディアの報道
福島原発事故4周年の3月11日の朝、ミュンヘンで発行されている全国新聞、南ドイツ新聞(Süddeutsche Zeitung)を開いたところ、「福島4年、チェルノブイリ29年、原子力ビジネスは永遠に続くのか?」という大きな字が目に飛び込んできた。文字はもちろんドイツ語だが、よく見ると、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)ドイツ支部の全面意見広告だった。この日の本紙の記事のなかにも、メルトダウンを起こした福島第一原発の事故現場の様子を伝えたものや津波の被災地のルポなど、大きな記事が二つも載っていた。
核戦争防止国際医師会議の意見広告の真ん中には「廃炉のプロセスや放射性廃棄物の処理を巡ってさえ、莫大な利益をあげようとする原子力業界に抗議し、原子力に関するすべての決定は、住民の健康を脅かさないことを最大の目標にしなければならない」という主張と、現在稼働している原発の即時停止など、4つの要求を掲げた声明が大きく掲載され、その周りにはこの声明に署名した2.205人の医師とその支持者の名前が小さなポイントでびっしり印刷されていた。
南ドイツ新聞のクリストファー・シュラーダー記者の「熱い溶融物を巡って」というタイトルの記事には「カタストローフから4年経った今も福島原発の事故現場では、制御しがたいカオスが支配しているという印象を受ける」というリードが付けられている。白い放射線防御服を着てヘルメットをかぶり、ガスマスクをつけた作業員たちの写真のキャプションには、「このクレーンで4号機の燃料棒が取り出された」とあり、事故現場のその後の状況を伝えようと試みている。
4年前、福島第一原発の3基の原子炉で実際に何が起こったか具体的には未だに誰も知らない。原子炉の炉心がどのようにして溶けたか、溶融した物質がどこに溜まっているのか、想像に任せるしかないのが実情だ。メルトダウンを起こした原子炉は4年経っても高温で放射線の線量も高いため、中に入って測定したり写真を撮ったりすることはできない。そうした状況のなか、現場で事故処理に当たる数千人の作業員たちは、手探りで何十年にもわたる大きな課題と取り組み、毎日毎日改善の小さな一歩を進めるため努力している。グリンピースが原発事故4周年に当たって発表した最新の報告書にも「現場の作業員たちは、政府や東京電力(の首脳部)とは違って、原子炉の廃墟がもたらすリスクをできるだけ少なくしようと全力を尽くしている」と記されている。
現場の作業員にとって溶融した原子炉の状況を厳密に知ることは重要だが、この点でドイツ原子炉安全協会(GRS、Die deutsche Gesellschaft für Reaktorsicherheit、ケルンに本社を置くドイツ連邦政府の諮問組織)を含む9カ国の専門家の国際的な協力がコンピュータのシミュレーションなどを通じて最初の示唆を与えつつある。それによると、1号機の原子炉が直ちに溶融したというのは、比較的確実だと思われるという。
2号機、3号機の状況はそれほど明らかではなく、国際的な専門家の間でも意見が別れる。国際的な専門家たちが期待するのは、宇宙から降り注ぐミュー粒子という素粒子を使って原子炉をX線のように透視するという調査方法だ。ミュー粒子はコンクリートや鉄などの物質は突き抜けるが、ウランなど密度の高い物質には遮られやすい。このミュー粒子の性質を利用して溶け落ちた核燃料のありかを探るという方法である。これまでもミュー粒子のこの性質を利用した調査方法は、ピラミッドなどの透視やコンテナ船の積荷のチェックなどに使われてきた。
目下最大の課題は増え続けるタンクのなかの汚染水の処理問題だが、汚染水から62種類の放射性元素を取り除く装置が、多くの問題のあと機能し始め、その結果、2014年9月以降タンクの汚染水の量が減っているという。しかし、この方法でセシウムやストロンチウムは排除できるが、トリチウムは取り除くことができない。
この記事には「長期的な結果はガン」という中見出しの情報記事もあり、「日本では今後数十年の間、ガンによる通常の死者数に加えて9000人がガンで死亡すると推測される」という核戦争防止国際医師会議の予測も記されている。
「フクシマはまだ過ぎ去ってはいない」という見出しの記事を載せたのは、フランクフルトで発行されている全国新聞「フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ、Frankfurter Allgemeine)だ。この記事は「福島第一原発の事故で6300人の全住民が避難を余儀なくされた双葉町の町当局が、商店街の入り口に掲げられている『原子力明るい未来のエネルギー』という大きな看板を取り除く決定をしたのは、事故から4年後の先日のことだった」と書き始め、その写真も掲載している。
各地の復興計画が遅々として進まないため、安倍首相は東日本大震災の4周年にあたって警告を発し、「政府は復興作業を推進させるため全力を尽くす」と約束した。しかし、安倍首相は2年前、首相に返り咲いた時も同様の約束をしている。東北の復興予算は、196億ユーロ(約25兆4800億円)が計上されたが、その半額以上は支出されていず、予定されている東北地方の建設補助金の40.5%がまだ使われていない。復興計画が遅れている理由はいろいろある。復興作業を実施する建設会社が労働者を集められないことや資材や労働者の賃金の劇的な高騰なども理由の一つだが、復興がどうあるべきかという明確な計画案が欠けていることも、しばしばある。
安倍首相は「東京オリンピックが開かれる2020年までには被災地の復興を前進させる」と約束し、来年日本で開かれる予定のG7の首脳会議を被災地で開催することも検討中という。メルトダウンを起こした福島原発の事故現場をコントロールしようという努力も、再三再四打撃を被っている。選りに選って原発事故の4周年に、東京電力はストロンチウム90に汚染されたタンクの中の雨水750トンが地下に染み出し、海に流れ込んだことを認めなければならなかったが、東京電力はこの事故を10ヶ月も隠していたことが発覚した。
原子炉を冷却するのに毎日300トンもの水が必要だが、汚染された水との闘いが緊急の課題となっている。それに加え毎日400トンもの地下水が原子炉の廃墟に流れ込み、汚染された水はコンテナに収められているが、その数は増える一方である。
日本では現在48の商業原発が操業停止しているが、安倍政権は安全性が確認されたものから再稼働させる方針を決めており、まず九州の川内原発が再稼働する予定で、さらに20基が再稼働の許可を申請している。
政府の公式発表では原発事故による死者は一人もいないとされているが、原発事故の関連で死亡したり自殺したりした人の数は、去年18%増えて1232人に達したと東京新聞は伝えている。