7月29日で地球はオーバーシュート 私たちは地球に「借金」している

池永 記代美 / 2021年8月1日

十分な給料をもらっているのに、毎月、給料日の前にお金を使い果たしてしまう人がいれば、私たちはその人のことを金銭感覚のない、だらしない人だと思うだろう。ところが私たち人類も、同じようなコトをしているのだ。なぜなら私たちはこの7月29日に、地球が今年1年間で生み出す資源を、もう使い果たしてしまったからだ。その翌日、つまり7月30日からは、人類は来年分の資源を地球から前借りして消費していることになる。しかも1年分の資源を使い果たす日、つまりオーバーシュートの日は年々早まっているという。

オーバーシュートとは、目標となる地点を行き過ぎてしまうという意味で、「地球がオーバーシュートする日」とは、地球の生態系が一年間に再生できる資源を、人類が全て使い果たした日を指す。どのようにしてこの日が算出されるかを理解するためには、「バイオ•キャパシティ」と「エコロジカル•フットプリント」という概念の理解が必要だ。

地球は私たちが生活する上で必要な食料、衣服、住宅などの資源を生み出してくれる。また、私たちが生活することで排出される二酸化炭素やゴミなども、地球は取り込んでくれる。これは従来私たちが「地球の恵み」といった言葉で表現してきたものだが、こうした地球の生態系サービスの供給量がバイオ•キャパシティと呼ばれる。そしてそれは「面積x生物生産効率」で表現される。面積だけでなく、その生物生産効率がバイオ•キャパシティを計算するのに考慮されるのは、草原より林、林より熱帯雨林の方が生物生産性が高いといったように、その土地の状態によって生物生産性の高さが異なるからだ。森林が伐採されて砂漠化すれば、その土地の生産性は落ち、バイオ•キャパシティも減る。

一方、エコロジカル•フットプリントとは、人間の経済•消費活動が地球環境に与える負荷を、その消費を賄うために必要な土地や海洋の面積に換算したもので、「人間の活動が地球の自然生態系を踏みつけた足跡、またはその大きさ」とも呼ばれている。その面積に含まれるものを具体的にあげると、化石燃料の消費によって排出される二酸化炭素を吸収するために必要な森林の面積、道路や建築物などに使われる土地面積、食料や紙、木材の生産に必要な土地や海洋の面積がそれにあたる。ある地域のエコロジカル•フットプリントの大きさは、「その地域の人口 x 1人当たりの消費x生産•廃棄効率」で表現される。ちなみにバイオ•キャパシティにもエコロジカル・フットプリントにも、gha(グローバル・ヘクタール)という独自の面積単位が用いられる。

地球のオーバーシュート•デーの算出は、上記の二つの概念から出された数字を用いて、次のように行われる。

地球のオーバーシュート•デー = 地球のバイオ•キャパシティ÷人類のエコロジカル・フットプリント x 365

この数式を見れば、バイオ•キャパシティに対して、人間の消費活動の拡大などによりエコロジカル•フットプリントの数値が大きくなるほど、1年の早い時期に地球のオーバーシュート•デーがやってくることが分かる。

オーバーショート・デーの1970年からの推移。

地球のオーバーシュート•デーの算出を行なっているのは、アメリカのカリフォルニア州に本部がある国際NGOの「グローバル•フットプリント•ネットワーク」だ。その調査によると、1970年代半ばまでは地球のオーバーシュート•デーは12月中だったが、1990年代には9月になり、2010年以降は7月下旬にまで早まった。今年のオーバーシユート•デーが7月29日ということは、表現を変えれば、私たちの1年間の資源の消費量は、地球1.7個分のバイオ•キャパシティに相当することになる。もし人類全ての人が、アメリカ人並みの大きな足(エコロジカル•フットプリント)を持っていれば、1年間に地球は5個、ドイツ人や日本人並なら地球2.9個が必要になるというデータもある。オーバーシュート•デーが年内である限り、私たちは生態系サービスの「原資」を食いつぶしているわけで、そこから得られる恵みも減少するという悪循環にも陥っていく。そしてそれは、気候変動による異常気象の発生や、漁獲量の減少といった形で、私たちの生活に直接、負の影響を与える。

その国の需要を満たすために、その国の国土がいくつ分必要かを国ごとに紹介した表。日本は最悪の7つ。ドイツは3つだ。

こうした芳しくない傾向の中で、昨年は唯一例外的にオーバーシュート•デーが8月22日と、前年の7月29日より大きく後ろにずれた。しかしこれはコロナ禍のために経済活動が低迷し、観光も不可能になり、飛行機の利用者が大幅に減ったことなどが原因だ。そのため、今年のオーバーシュート•デーは2019年と同じレベルに戻ってしまった。今の速度で資源の使用量が増え続ければ、2030年には6月がオーバーシュート•デーになると懸念されている。それは人類が生活するために、地球が2個必要になることを意味する 。

「グローバル•フットプリント•ネットワーク」の代表マティス• ヴァッカーナーゲル氏は、「もしこれから毎年6日ずつオーバーシュート•デーを後ろにずらすことができれば、2050年にやっと地球1個で足りることになる。しかし、気候変動の速度を遅らせるためには、1年に10日遅らせるのを、目標にすべきだ」と語っている。そのために私たちができることは、数々ある。できるだけ飛行機や車に乗らない、必要以上の物は買わない、壊れたものは直して使う、ゴミを減らす、肉をあまり食べない、地元産の商品を買うよう心がけるなどだ。コロナ禍が始まって1年半近く経ち、コロナ前の普通の生活に戻りたいという声をよく聞くが、あの生活に戻ってはならないということだ。

参考

EARTH OVERSHOOTDAY のホームページ

各国のバイオ•キャパシティとエコロジカルフットプリントの推移が検索できるサイト

Comments are closed.