波紋を呼ぶ仏新環境相の脱原発発言

永井 潤子 / 2017年7月23日

フランスのマクロン大統領が、新内閣の環境相に著名な環境問題アクティヴィストでジャーナリストのニコラス・ユロ氏を任命したことは驚きをもって受け取られたが、今度はそのユロ環境相の脱原発に関する発言が波紋を呼び起こしている。

ユロ環境相は7月10日、フランスRTLのラジオ番組とのインタビューで、初めて脱原発について触れ、2025年までに電力における原発エネルギー依存度を75%から50%に減らすという前オランド政権の政策を踏襲する考えであること、そのためには17基ほどの原発を2025年までに稼働停止する必要があると語ったのだ。フランスの前政権が2015年夏に決定した「エネルギー転換法」では、再生可能エネルギーを促進し、現在75%を占める電力需要における原発エネルギーの割合を2025年までに50%に下げるという目標は決められたが、その目標を実現するための具体策は明確にされていない。

原発大国のフランスでは現在19箇所で58基の原発が稼働しているが、平均稼働期間は30年を超えており、このまま続くと2027年にはその4分の3の稼働期間が40年を超えることになるという。原発の老朽化は深刻な問題でありながら、原発依存のエネルギー政策を国是としてきたフランスでは、政治家が脱原発を主張することはタブー視されてきた感がある。そんな中でのユロ環境相の発言だったのだ。

中でもドイツとの国境に近いフェッセンハイムの原発は、1977年に建設された最も古い原発で、これまでに何度も大小様々な故障や事故が繰り返されてきた。いつ大きな事故が起こるか、近くの住民たちの不安は大きく、ドイツ政府は何度も同原発の早期稼働停止を要求してきた。フランスのオランド前大統領は2012年の選挙戦のさなかには2016年末までに操業停止すると公約したが、実現できなかった。オランド前政権はようやく任期終了間際の今年4月、この原発の廃炉を決定したが、ドーヴァー海峡沿いのフラマンヴィルに建設中の次世代の原発EPR(欧州加圧水型炉)の完成を待って廃止することも決められている。フラマンヴィル原発は2012年に稼働開始する予定だったが、実際には大幅に遅れ、早くて2018年末、おそらく2019年にずれ込むと予想されている。

フランスの脱原発ネットワークSortir du Nucleaireの代表、シャルロッテ・ミジェオンさんはユロ環境相の発言に「非常に興味深い発言だが、彼はこの発言内容を具体化しなければならない」と述べた。ドイツ連邦環境相省のリタ・シュヴァルツェリューア=ズッター政務次官も「フランスが脱原発への道を歩み始めたのは良いニュースである。ドイツの国境に近いフェッセンハイム原発やカッテノム原発の早期稼働停止を国境の両側の住民たちは長年望んできた。今回の発言で彼らの望みが間もなく現実のものとなる希望が生まれた」と歓迎の意を表した。ドイツ連邦議会の緑の党の原子力問題のスポークスウーマン、ジルヴィア・コッティング=ウール議員も「フランスからの良いニュースを歓迎する。フランスの原発17基の廃炉は、ヨーロッパの安全性が非常に高まることを意味する」と述べる一方、「これまでのフランス政府の原子力政策についてのやり方を見ると、この発言が実行に移されるかどうかは疑問だ」とも見ている。

フランスでのアトムロビーの力は強く、現実にも原子力産業で40万人が働いているため、脱原発は大きな雇用問題と結びついている。ユロ環境相の脱原発の発言の後、フランス電力会社(EDF)の株は7%下落した。EDF側は、マクロン新大統領のもとで、原発エネルギーの比率を50%に引き下げるという目標の実現時期が先に伸ばされることを期待していたとも伝えられる。フランスの産業界は、原子力エネルギーの削減はフランスの経済競争力を弱めると強く反対しており、原子力産業の労働組合の反対も強い。ユロ環境相も「原子力依存を50%に下げるという目標を実現するためには2025年までに17基ほどの原発を廃炉にする必要があるとの見解は、自分一人の考えではなく、フィリップ内閣の方針であるが、フランスが短期間に脱原発を実現できるとは自分自身思っていない」と強調し、原子力産業の労働者の雇用確保を重要視していることも明らかにしている。

 

地図参照
https://de.wikipedia.org/wiki/Kernenergie_in_Frankreich

写真参照
https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Nicolas_Hulot?uselang=fr

参考記事
廃炉決まったがすぐには止まらないフランス最古の原発

 

3 Responses to 波紋を呼ぶ仏新環境相の脱原発発言

  1. 転載させていただきました。
    いつも、貴重な記事をありがとうございます。

  2. じゅん says:

    転載してくださったそうで、ありがとうございます。どういうところに転載してくださったのか、お差し支え無かったら伺いたいと思います。

  3. 転載させていただいたのは、
    言論・表現の自由を守る会のブログ
    ”今 言論・表現の自由が危ない!”です。
    https://blogs.yahoo.co.jp/jrfs20040729/28802998.html

    ドイツ・EUには、世界人権宣言を敷衍化した法律=国際人権規約(自由権規約・社会権規約)よりもっと厳しい欧州人権条約があり、個人通報制度が備わっており、憲法裁判所もあり、法の支配が確立しています。
    韓国は、自由権規約第一選択議定書(個人通報制度)を批准しています。

    しかし、第二次世界大戦のアジアの侵略国である日本では、1979年に国際人権規約(自由権規約・社会権規約)を批准し、その後、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約、こどもの権利条約等批准しているものの、個人通報制度をひとつも批准していないため、法の支配が確立していません。

    2003年3月のイラク戦争後、日本では再び、ナチスドイツの白バラ事件のような、
    ギロチンにこそかけられないものの、政府を批判するビラを配った市民が次々に逮捕され、起訴され、裁判で有罪とされています。ビラ配布弾圧6事件の内、最高裁で無罪を確定させたのは1事件一人です。

    この言論弾圧は日本国憲法違反であるだけではなく、
    日本政府が1979年に批准している市民的および政治的権利に関する国際規約(自由権規約)第19条及び25条違反です。

    国連自由権規約委員会は2008年10月、第5回日本政府報告書審査の結果日本政府に対して、
    「第一選択議定書(個人通報制度)の批准を検討すべきである」(パラグラフ8)とし、パラグラフ26を勧告しました。

    『パラグラフ26.
     委員会は、公職選挙法による戸別訪問の禁止や選挙活動期間中に配布することのできる文書図画の数と形式に対する制限など、表現の自由と政治に参与する権利に対して加えられている不合理な制限に、懸念を有する。委員会はまた、政府に対する批判的な内容のビラを私人の郵便受けに配布したことに対して、住居侵入罪もしくは国家公務員法に基づいて、政治活動家や公務員が逮捕され、起訴されたという報告に、懸念を有する(規約 19 条、25 条)。

     締約国は、規約第 19 条及び 25 条のもとで保障されている政治活動やその他の活動を警察、検察及び裁判所が過度に制限することを防止するため、その法律から、表現の自由及び政治に参与する権利に対するあらゆる不合理な制限を撤廃すべきである。 』

    しかし日本政府は、表現の自由及び政治に参与する権利に対するあらゆる不合理な制限をしている公職選挙法(文書配布禁止規定、戸別訪問禁止規定、供託金制度)や、一般国家公務員の政治活動を投票行動以外全面一律に禁止している国家公務員法102条(罰則規定:人事院規則14-7、国公法110条)の規定を破棄していません。

    日本国憲法制定70周年、世界人権宣言70周年、国連加盟承認60周年の日本において、憲法前文冒頭で『日本国民は正当に選挙された国会の代表を通じて行動し・・・』とあるものの、正当な選挙が一度も行われていません。