ドイツ、寒波で電力供給ブラックアウト寸前、それでもフランスに電力輸出も
2月前半、ドイツでは全国的に気温がマイナス10度以下になる日が続き、電力の需要が急増、供給が需要に追いつかず、ブラックアウトに陥る危険が何度もあったという。各紙が一斉に報道した。昨年春以来、ドイツにあった17の原子力発電所のうち8つが操業中止になっていることが主因だが、ウクライナ経由で輸入されるロシアからの天然ガスの量が一時約25%も減ったことも電力供給低下を強化した。一方、同じく寒波に襲われたフランスに「今回も例年のように電力が輸出出来たのは再生可能エネルギーのためだ」と、再生可能エネルギー業界は胸を張る。フランスでは電気式暖房が主力のため冬場の電力使用量が大きく、今までは毎年冬に多量の電力をドイツから輸入していた。
原発の操業中止以来、ドイツでは冬場が電力供給の最大の難関になるだろうと心配されていたが、今年の冬は穏やかに始まり、1月終わりごろまでは何ら問題がなかった。それが2月に入り気温がマイナス20度前後などという地方も現れ、主力のオイルやガス式暖房に加えて臨時に電気式暖房にスイッチを入れる家庭、或は常時使用している深夜電力利用の蓄熱式暖房の設定温度を高くする家庭や事業所などが増えて、電力需要が急増した。
ドイツ連邦ネット・エージェンシーのマティアス・クルト所長によると、ドイツの電力供給は数十年来非常に安定していた。充分な調整電力があったからだ。昨年までは、操業中止された8つの原子発電所が、ドイツ全国で電力需要が最も大きく膨らむ時間帯に全需要の約10%をカバーしていた。しかし今回はその分が無くなったため、本来ならば予想外の急増に伴う電圧低下を修正するために準備してある臨機対応可能な発電能力、つまり発電量を短時間で調節出来るガスタービン発電所などが、多くフル稼働で通常の需要を賄っていた。このため調整電力は従来に比べ極めて少なくなり、殆どゼロの時もあたという。ブラックアウトの危険はそれだけ大きかったのだ。
その上、ロシアからの天然ガスの輸入も一時期減り、例えばガス配給網運営会社のオープン・グリッド・ヨーロッパは、南ドイツ4カ所のガス火力発電所への配給を中止したと発表した。その中には出力130MWのバーデン・ビュルテンベルク州カールスルーエ市のライン蒸気発電所と効率60%で世界一を誇る出力560MWのバイエルン州イルシング市のガスコンバインドサイクル発電所も含まれていた。イルシングの発電所は、南ドイツにあるガス貯蔵タンクからガスを供給されたが、それでも発電を出力の3分の1下げなければならなかったという。
カールスルーエにほど近いエットリンゲン市の発電所は、同市の学校や屋内プールの気温を数度下げ、シュランベルク市の発電所は住民に節電を呼びかけた。冷凍ピザメーカーで有名なドクター・エットカーは生産を電力からガスに切り替えるよう要望された。また送電網運営会社のEnBWトランスポートは、スイスの送電網運営会社のスイスグリッドからある1日、300MWの電力を従来の50倍の価格で購入したといわれる。どの送電網運営会社も、政府が脱原発を決定した折に、寒い季節用の予備と指定したドイツ国内と隣国オーストリアにある古い火力発電所(合計で出力2000MW)に何度か頼る必要が出た。
ネット・エージェンシーのクルト所長は、それでもブラックアウトが起きなかったのは幸運が重なったからだと語る。まず、この寒波には雪が伴わなかった。雪が積もれば、ソーラー・パネルに日光が当たらなくなる。第2に、北ドイツで強風が吹かなかった。北から南への高圧送電網は、この寒さのため北ドイツのありとあらゆる火力発電所がフルパワーで稼働し、二つの原子力発電所が操業中止になったドイツ中部のライン・マイン地方へ大量の電力を送っていたため、満杯だった。この送電網は、もし再生可能エネルギー優先法(Gesetz für den Vorrang Erneuerbarer Energien、通称 Erneuerbare-Energien-Gesetz)のために大量の火力電力と風力電力の常時切り替えが必要になっていたとしたら、制御不可能になっていただろうという。そして第3に、寒波の期間中、ドイツの大きな発電所では何の故障も起きなかった。更に、特に寒かった日が偶然週末だったこともある。学校や会社が休みで、工場なども生産量を減らしていたり休んでいた。
再生可能エネルギーもこの寒波で確かに一役買った。特に太陽光発電は需要が大きい昼の12時を中心に毎日合計約8000MW程度の電力を生産、その多くをフランスへの輸出に廻すことが出来た。しかし南フランスでは、例年通り大量の電力がドイツから輸入されなかったので、ブラックアウト警報が発され、送電網運営会社RTEは、家電の使用を自重するよう住民に呼びかけたという。風力発電は風が弱く1000MW程度しか貢献できなかたようだ。
ドイツはこれだけ危ない状態で寒波を乗り切ったのだが、それでもレトゲン環境相は連邦議会で、8つの原子力発電所の操業中止は寒波に際しても安全な国内の電力供給を妨害しなかったとし、ドイツの「送電網と電力価格は安定しており、我々は国外に電力を、それも再生可能な電力を輸出している」と強調した。
ネット・エージェンシーのクルト所長は、電力供給の問題は生産量と送電網だが、生産量はより小さい方の問題で、例えば、2013年末までには太陽光や風力、バイオマス発電装置、それに現在建設中の数個の大規模火力発電所が完成し、数千メガワットの発電能力が備えられるという。より大きいのは送電網に関わる問題の方で、現存の送電網が増える再生可能電力に対応出来ないことだとする。実は昨年8月、送電網建設強化促進法 (Netzausbaubeschleunigungsgesetz) が施行され、送電網の建設許可などが早まる段取りになったが、実際には相変わらずあちこちで申請が手間取っている。「エネルギーシフトのためには、より強力な機関が必要だ」と言うのは同氏だけではない。業界や労働組合からはエネルギー省の新設を求める声も挙がっている。