課題山積のドイツの自動車業界 ー 環境に優しい選択肢は何?

ツェルディック 野尻紘子 / 2020年9月13日

コロナ禍が原因でドイツの種々の業界が苦境に立たされている。一般市民に人気のある見本市やオクトーバーフェスト、イベントなど、大勢の人たちが集まる催し物は次々に開催中止を発表している。お天気の良かった夏には、店舗前の歩道や庭に出したテーブルが賑わったレストランや、休暇の季節でいくらか元気を取り戻したリゾート地のホテルなどの売り上げは、今のところ例年の半分以下と言われている。映画館やコンサートホールなど、コロナ規制のために入場客の数が従来の約4分の1程度に絞られている業界もあり、政府の資金援助があっても、この秋から冬にかけて倒産するドイツ企業は大きく急増するだろうと憂慮されている。そんな中、このほどドイツの基幹産業である自動車業界の代表が、連邦及び州政府の代表や労働組合関係者とビデオ会議を持った。同業界の苦境を乗り切るための話し合いになるはずだったのだ。

ドイツの自動車業界は、大手メーカーや部品メーカーなどで働いている従業員が約80万人いるとされ、ドイツにとり最も重要な業界の一つだ。自動車の宣伝、販売、保険などに携わっている関連業界の従業員も加えると、その数は十分に100万人を超えるとも言われる。コロナ危機のために、在宅勤務で従来のように車で通勤しなくなったり、行動範囲を狭めたり、あるいは職を失う恐れがあったり、倒産の心配があったりして、新車を買う人が減っていて、業界は不振だ。

6月初めに、ドイツ政府が コロナ禍で落ち込んだ消費や投資の回復を目指すために決定した1300億ユーロ(約16兆円)にのぼる景気対策では、電気自動車の購入に助成金が出ることになった。それ以来、電気自動車の販売台数は確かに増えている。しかし、例えばドイツ政府が数年前に立てた、「2020年までに電気自動車の総登録台数を100万台にのせる」という目標は、まだほぼ半分しか達成されていない。充電に数時間かかったり、一度の充電で可能になる走行距離が短かったり、またそもそも、充電ステーションの数が少なかったりするために、ガソリン車やディーゼル車のように便利ではないのだ。消費者には不便さがわかっているから、電気自動車の販売台数は増加しても、従来の自動車とは比較にならないほど少ない。

今回の業界と政府との話し合いには、業界の将来に欠かせないとされる電気自動車のさらなる開発、車のデジタル化、自動運転技術の開発などのテーマが上がっていた。しかし、大手自動車メーカーや企業の工場が存在する州の首相などから、業界の景気回復には、燃焼エンジン車の売り上げの伸びが欠かせないとの主張があった。そして6月の景気対策では、環境保護の見地から退けられてしまったガソリン車とディーゼル車購入のための助成金の導入が、今回も再び中心的な議題になった。

結果的には、今回も様子を見ることになり、業界の望んでいたガソリン車とディーゼル車購入のための助成金の導入は叶わないことになった。そして、このような業界や州首相の態度に対するメディアの批判は非常に厳しかった。ベルリンの「ターゲスシュピーゲル」は、今時、燃焼エンジン車の販売に助成金を望むのは、「消費者と、この国と、この国の将来を犠牲にするものだ」とまで書いていた。いつまでも過去にこだわり、過去に向かって走ることは、「地球にも、将来の世代にも、安定した生活を送ろうとする将来の人たちにも良くない」というのだ。もっともだが、この口調の厳しさに少々驚いた。同紙は、助成金を強く望んだ「バイエルン州のゼーダー首相でさえ、個人の移動の将来は電動であることを承知しているはずだ」とも書いている。(注:同州の州都ミュンヘンには大手メーカー BMW の本社がある。)

個人の移動の将来は、もう電動に決まったのだろうか。 環境により優しい選択肢は電気自動車以外にはないのだろうか。

例えば、電気自動車が100%再生可能電力で走るとしても、我々はそれを手放しで、燃焼エンジンの車より完全に環境に優しいとは、まだ言い切れない。なぜなら、電気自動車の生産には、ガソリン車などの生産以上に多くのエネルギーが必要になり、生産の際にも100%再生可能電力しか使用しないという工場は、世界中にまだ無いからだ。電力ミックスに占める再生可能電力の割合が50%に近づいている現在のドイツの電力を走行に使うなら、環境への負担は、100%自然エネルギーの電力を使う時より、もっと大きい。

先月、ドイツの公共第一テレビで「廃車にしてから輸出」というドキュメンタリー番組を見た。ドイツには、自家用車を大体4年から5年のサイクルで買い換える人が多くいるという。だが、中古車市場も大きくて、そういう比較的にまだ新しい車を買う人も大勢いる。ドイツ人が中古車を手放すのは、合計の使用期間が大体10年とか15年になってからだという。それくらい時間が経っていても、まだ十分に走れる車は多い。そして、そういう車の多くが、ガソリン車は主にアフリカに、ディーゼル車は主に東欧に売られていく。

例えば、ナイジェリアの港町、ラゴスには、毎日1000台ぐらいの中古車が欧州から着く。年間では約40万台だ。道路は人と車で混んでいるし、空気も悪いのだが、中古車の市場は繁栄している。例えば、ドイツのフォルクスワーゲンは人気があるという。ただ、非常に驚いたのだが、輸入された車からは売られる前に、車の排ガスを洗浄するために取り付けられている触媒が取り除かれるのだ。触媒の中にあるプラチナやパラジウムなどの高価な金属を別途に販売するためだという。番組で、中古車の販売業者が「ナイジェリアを走っている車の99%に触媒は付いていない」と語っていた。

ブルガリアに着いたディーゼルの中古車の運命も、アフリカに着いた車と同様だ。首都ソフィアの空気は東欧中で一番悪いというが、ここでもドイツなどから着いたディーゼル車の触媒は取り出されてしまう。そしてブルガリアを走る90%以上の車には、触媒が付いていないという。

地球は一つで、二酸化炭素や一酸化炭素、窒素酸化物などはどこで発生しても有害で、地球温暖化や環境汚染の原因になる。だから、地球温暖化や環境汚染を防ぐためには、国際的な視野が欠かせない。このドキュメンタリー番組の制作者は、24年も前に買ったフォルクスワーゲンのゴルフに乗っているのだが、ある日思い立って近所の自動車販売店に行ってみる。そこの営業マンは、新型の 大きなSUV の方が彼の乗っている車より環境にやさしく、排ガスもきれいだと説得にかかる。だが、車がアフリカに売られていかないために、彼は新車の購入をしない。現在乗っている車を、これからもできるだけ長い間乗り続けるのが一番環境に優しいという判断からだ。

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