ドイツの「核のゴミ」、90カ所が最終貯蔵所の候補に

永井 潤子 / 2020年10月25日

2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故の直後、ドイツは段階的な脱原発を決定した。その脱原発計画は順調に進んでおり、2年後の2022年末までに、現存する6基の原発全てが稼動を停止する予定である。残る最大の問題は、使用済み核燃料から出る「高レベル放射性廃棄物」、いわゆる「核のゴミ」の最終貯蔵所をどこに設けるかという問題だ。この3年あまりドイツ全土の地質学的文献調査を行ってきた連邦政府最終貯蔵協会(BGE 、Bundesgesellschaft für Endlagerung)は、9月28日、90地域が最終貯蔵所として適していると発表した。

旧東ドイツ地域にある低中レベル放射性廃棄物の貯蔵所モアスレーベン。安全性が確保されないので、閉鎖されることが決まっている。

ドイツ連邦議会は、ドイツの原発が1960年以来出してきた、そしてまだ2年間出し続ける「核のゴミ」は外国に”輸出“せず、自国内で貯蔵することをすでに決定しており、国内の最終貯蔵所の選出が急がれている。2017年5月に改定された「最終処分場選定法」では、3段階を経て候補地を絞り込み、2031年までに最終的に設置場所を決定し、2050年には貯蔵を開始するという行程表が作られている。その第1段階の中間報告として、今回は純粋に地質学的に見て候補地の資格のある90地域が発表された。これはドイツの国土の約54%に当たるという。

約70人の地質学者が集めた粘土層、岩塩層、それに花崗岩などの結晶質岩層の3種類の埋蔵地のデータによると、90カ所のうち1番多いのが岩塩層で70カ所を占め、粘土層は北部に、岩塩層は中部に、そして花崗岩などは南部に多いという。ミュンヘンを州都とするバイエルン州の3分の2に花崗岩層があり、候補地に適している地域とされた。また、東部ドイツの5州も、北部は粘土層を、中部は岩塩層を、南部は花崗岩などを含むため、かなりの地域が候補地に適していると見なされた。北部ではベルリンやハンブルクなどの大都市も、地質学的には適しているとされた。ほとんど含まれないのが、ドイツ最大の州であるノルトライン・ヴェストファーレン州やヘッセン州、ザールラント州である。ルール工業地帯を含むノルトライン・ヴェストファーレン州などでは、炭鉱の跡が多く、地盤が不安定になっているという理由などで、不適切と見なされたのだ。

BGEの「候補地選定プロジェクト」の責任者、シュテフェン・カニッツ氏は「フィンランドのオルキルオト島で建設中の最終貯蔵所は花崗岩層で、フランスのそれは粘土層だが、ドイツには粘土層、岩塩層、花崗岩の3種類が存在する。しかしそれぞれ、長所と短所があって、理想的なものは存在しない」と語っている。例えば、岩塩層は、気体や地下水を通しにくく、熱伝導度が良い。これに対して粘土層は、熱伝導度は岩塩層に比べ良くないし、地層の安定度も低い。しかし、ほとんど水に溶けないという長所がある。花崗岩などの結晶質岩層は、水に溶けにくいという長所はあるものの、他の二者に比べ安定度が低いという短所があるという。

最終貯蔵所の候補地となった地域。薄紫=第三紀粘土層、赤紫=第 三紀以前の粘土層、水色=岩塩層(平面層)、黄緑=岩塩層(斜面層)、オレンジ=花崗岩などの結晶質岩層  ©️BGE

ドイツで2022年に脱原発を実現した後に残される「高レベル放射性廃棄物」の量は、27 万立方メーターにのぼると計算され、それらの核廃棄物は「ガラス固定化」され、1900本のキャスターに入れられて貯蔵されることになっている。ドイツは、高レベルの放射線を出し続けるこうした多量の「核のゴミ」を百万年(なんと4万世代という気の遠くなる程の長さ!)にわたって、安全に貯蔵できる場所を3つの地層の中から探さなければならないという超難問を抱えていることになる。日本では、高レベルの放射線廃棄物の線量が安全な段階に減るまで10万年とされているが、ドイツでは100万年と見なされている。その一方ドイツは2022年に最後の原発が稼働を停止するため、原発による「核のゴミ」はそれ以後増えることはない。その点原発を稼働し続け、核のゴミもそれとともに増え続ける日本とは違って、予想が立てやすいと言える。日本では、そもそも現在の時点での「高レベル放射性廃棄物」の総量が公表されているのだろうか。ドイツの場合、百万年を目指すといっても、将来放射能廃棄物の放射能半減期を短縮する技術や貯蔵方法の画期的な進歩が見られた場合に備えて、500年でいったん取り出すことも考えられているという。いずれにしても想像を絶する長さであることに変わりはない。

第一段階の純粋に地質学的に適した場所が発表されたあと、第2段階ではさらに社会的条件、例えば大都市や人口密集地域、地震や洪水が起こる可能性のある地域、自然公園などが除外され、候補地は絞り込まれて行く。絞り込まれた地域では、そのあと実際に坑外調査が行われる。第3段階では、第2段階で絞り込まれた地域の坑内調査が行われ、地層や岩盤の広さや深さなども検討されて、最終的に二つ以上の候補地が決められる。その中から最終的に候補地が決定されることになる。この3つの段階とも、それぞれの結果について連邦議会と連邦参議院の承認が必要である。このように公明正大な手続きが取られると同時に各段階とも住民が参加できる場が設けられ、異議申し立てや議論のチャンスが与えられている。これは、一時期最終貯蔵所とされた西北部、ニーダーザクセン州のゴアレーベンを巡る長年の市民の反対闘争の反省から生まれたもので、現在はあくまでも住民の同意をもとにガラス張りで決めるという大前提に立っているのだ。90地域の情報は誰でも見られるよう公開されている。第一段階の今回の中間報告をもとに、連邦放射線安全保護庁(BASE、Bundesamt für die Sicherheit der nukrealen Entsorgung)は、10月17日と18日の両日、オンラインの専門会議を開いて、国民に対する説明を行なった。同様の会議は後3回行われる。90の当該地域の住民との対話はその後で行われる予定ある。

連邦環境•原子力安全省の前でゴアレーベンを最終貯蔵所候補から外すよう訴える市民(2012 年撮影)

今回の中間報告で、驚きをもって受け取られたことが一つある。それは、これまで40年以上にわたって、「核のゴミ」の最終処分場と見なされ、反対闘争のシンボルとなってきたゴアレーベンが、地質学的に適さないと判断されて、最初から除外されたことである。地質学者によると、適性を示す11の基準のうち3つの基準に合わなかったという。歴史を少し遡ると、1977年、当時の西ドイツのシュミット首相(社会民主党、SPD)とニーダーザクセン州のアルブレヒト首相(キリスト教民主同盟、CDU)は、同州東部の旧東ドイツとの境界線に近い、ゴアレーベンの岩塩坑が高レベル放射性廃棄物の最終貯蔵所に適しているとして、調査を開始した。この時は地域の住民に何の説明もなかったことから、住民や原発反対派を中心に激しい抗議運動が起こった。こうした苦い経験から、ドイツ政府は2017年に一旦全てを白紙に戻し、ゴアレーベンを含むドイツ全土の地質学的適性を調査するという決定を下したのだった。ゴアレーベンの市民運動の関係者は、最終貯蔵所に適していないと判断されたことに安堵し、喜びを隠しきれないでいる。しかし、最初の段階でゴアレーベンが除外されたことに政治的な配慮を感じて、批判する向きもある。BGEはゴアレーベンが除外されたのは、純粋に科学的な基準によると強調しているのだが。

シュルツェ連邦環境・原子力安全相(SPD)は中間報告が発表された後、「住民に最終貯蔵所の受け入れを納得してもらうためには、政治的な選択ではなく、あくまでも科学的な基準によることが、最も重要である」と改めて強調した。しかし今回の中間報告が発表されると、バイエルン州のゼーダー首相(キリスト教社会同盟、CSU)は、早速抗議の声を上げた。「バイエルン州の3分の2にあたる花崗岩埋蔵地域が最終貯蔵所に適しているとされたが、この地域には800万人が暮らしている。彼らの不安は大きい。CSUと『自由有権者(FW、 Freie Wähler)』の連立政権である現バイエルン州政府は、連立協定の中で『バイエルン州には最終処分場に適した地域はない』と記してもいる。長年最終処分場として調査が行われてきたゴアレーベンが、最初から除外されたことも理解できない」などと語って、波紋を呼んだ。

ベルリンで発行されている日刊新聞「ターゲスシュピーゲル」は、最初の中間報告が発表された翌9月29日、次のように論評した。

最も適した立地を探すにあたって、16州の合意のもと、ある地域がなぜ適しているか、あるいはなぜ適していないかを、学術的な根拠とガラス張りの透明さで住民に説明するという、これほど大きな試みは、かつてなされたことがなかった。ゴアレーベンが原発反対闘争の中心となった時代とは異なり、原子力エネルギーに賛成か反対かという問題は、もはや存在しなくなった。脱原発が確定しているからである。ドイツでは2022年には、最後の原発が稼働を停止することが決まっている。最終貯蔵所探しがうまくいけば、ドイツの原子力時代は終わることになる。

「ターゲスシュピーゲル」は、このように書いているが、原発の廃炉作業が終わるまでには約30 年かかると言われている。また、原発以外の原子力関連施設(ノルトライン・ヴェストファーレン州・グローナウのウラン濃縮工場やニーダーザクセン州・リンゲンの核燃料製造工場など)は、稼働し続け、停止の見通しはまだ立っていない。さらに研究炉の問題も未解決である。従って商業用の原発の「脱原発」は2年後に実現するが、「脱原子力」は、最終貯蔵所探しがうまくいっても、完全に終わるとは言えないのではないだろうか。

南ドイツのアウグスブルクで発行されている新聞「ディー・アウグスブルガー・アルゲマイネ」は、次のように指摘している。

我々は将来の地球の住民に対して、「核のゴミ」をできるだけ確実に貯蔵するという責任を負っている。最も厳重な保護基準によって、地下の奥深くに作られる最終貯蔵所は、いずれにしても、今日存在する多くの中間貯蔵施設より格段に良いはずである。各原発の近くに設けられている中間貯蔵施設の多くは、飛行機の墜落などに対して防御するシステムのない、ただの広い場所にすぎず、安全体制が全く不十分なのが現状である。

今後、「核のゴミ」の最終貯蔵所の候補地が絞り込まれていくにつれ、地元から反対の声が強くなることは、当然予想される。もしかしたら、政治的な圧力も強まるかもしれない。しかし、科学的な根拠をもとに公明正大な方法で最善の候補地を見つけ、過去の失敗から学んで、住民との対話を十分に行うというドイツの民主的なやり方を、私は当面高く評価したい。

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