日本の電力自由化 - 何からの自由か?
4月から日本では電力が自由化された。もし、福島原子力発電所の事故がなければ、自由化の実現がもっと遅れ、世間一般の注目もそれほど浴びなかったのではないだろうか。ましてや、ドイツのメディアが取り上げることはなかっただろう。
「携帯の会社を選ぶように、電力会社を選ぶ」という記事をこのサイトに書いたのが今から5年近く前、福島原発事故が起きた後だった。その時、ドイツでは電力会社が自分で選べる、しかもどのようにして生産された電力かを確かめて電力会社と契約できることが、とても新鮮に思えた。ドイツで電力市場が自由化されたのは、1998年のことだった。
日本で電力が自由化されたのは2000年3月で、ドイツに遅れること2年であった。ところが、自由に電力を選べたのは、個人消費者ではなく、大口需要者である「特別高圧」区分に入る大規模工場やデパート、オフィスビルだけだった。その後、2004年4月・ 2005年4月には、小売自由化の対象が「高圧」区分の中小規模工場や中小ビルへと徐々に拡大していった。そして、やっと今年の4月1日から「低圧」区分に入る家庭や商店などが電力を自由に選べるようになった。要するに、日本では自由化の恩恵を受けるには優先順位があり、まず大規模な電力需要者、ついで中規模、最後に個人消費者あるいは小規模な店舗ということだ。日本ではなぜ個人消費者が後回しにされたのかについては考察の余地がありそうだが、ここではドイツの各種メディアが日本の電力市場自由化をどのように伝えたかに的を絞る。
「エコ電力へのゆっくりとした転換」と題する記事は、3月11日付の週刊紙「ドイツ技術者連盟ニュース(VDI-Nachrichten)」で、「福島事故後、日本の電力市場は根底から揺るがされた。原子力の未来は不確か」というリードが付けられている。「現政権は2030年のエネルギーミックス(電源構成)について、20~22%を原子力に依存するというエネルギー政策を発表したが、ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスのアナリストたちは、原子力は高くても10%と見積もっている」と述べ、その原因として福島事故後に高まった市民の反原発の意識を挙げている。さらに同紙は4月1日以降の電力自由化によって、エコ電力を選ぶ人たちが増えるだろうと予測している。
全国紙のフランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)は「日本の電力市場で競争に弾み」と題するパトリック・ヴェルター記者による記事で、今までは寡占状態であった10の電力会社に対して、150社にものぼる新電力会社が市場に参入する状況を詳しく述べている。「今まで電力市場を独占してきた電力会社は原発停止による財政負担に苦しみ、新しい安全基準のために再稼働が思うようにいかない」と書く同紙は、とくに強力な競争相手として、ガス会社、中でも東京ガスを挙げている。
東京ガスは、ガスの供給を通じてすでに顧客データが確立しているため、ガスに加えて電力も家庭に送ることができる。すでに首都圏では東電から15万世帯を顧客として獲得したという。これは首都圏全体のわずか1%に過ぎないが、東電にとっては十分な圧力になっている。
さらに、ヴェルター記者は「福島事故後の日本の電気料金は20%も値上がりし、個人消費者が大企業よりも料金値上げの影響を受けた。2014年のOECDのデータでは、日本の家庭の電気料金は韓国やアメリカの約2倍であるが、ドイツよりは約3分の1低い」と書いている。最後に同記者は日本における電力自由化の仕上げとして、2020年の発送電の分離を挙げている。
南ドイツ新聞のクリストフ・ナイトハート記者は、電力自由化が今まで電力を独占してきた電力会社の原発再稼働の動きを強めるのではないかと危惧する。「核電力への呪縛 - フクシマにもかかわらず政府はエネルギー独占企業を救済」と題された3月14日付の記事は、「原発の新たな安全基準が世界で最も厳しい」として原子力への回帰を目指す安倍政権のエネルギー政策を描く。4月1日からの電力自由化で、新電力会社が市場に参入する事態については、今までの2つの記事とほぼ変わらない(電力会社の独占状態がより詳しく描かれている以外は)。しかし、自由化が引き起こす影響について、同記者は以下のように鋭く指摘する。
自由化による価格競争が予想される。今までの電力会社は顧客を失う。喪失部分を補うために、他の地域での販売を始める。東電は外国にも市場を求めている。価格競争を生き延びるためには、今までの独占企業は核電力が必要だと考えている。化石燃料に比べて、核電力は安価に生産できる。発電所という高価な投資はすでに払ってある。原発を利用できなくなれば、これを償却し、廃炉のための資金を準備しなければならない。これは経営を破綻させる。まして、自由化による競争に勝たなければならなくなった今の時点では。
2020年の発送電分離についてもナイトハート記者は触れているが、この法律に例外が適用される問題を指摘している。それは、電力会社が“技術上の問題”を理由に自然エネルギーによる電力の受入れを拒否することができるというものだ。「安倍政権は20~30%の核電力が『適正な電源構成だ』と主張している。そのためにはできるだけ早く既成事実を作り上げたい。太陽光発電や風力発電についての発言はリップサービスだ」というナイトハート記者は、「政権にとって重要なことは、口では電力の安定供給と言いつつ、本心は電力独占企業の救済だ。なによりも、最も幅広く行きわたっている有価証券の一つが、電力会社のものだからである」と述べる。
最後に、私が現在契約している100%自然エネルギーの電力会社のリヒトブリック社は、ドイツが電力自由化された1998年に誕生した。同社のブログは日本での電力自由化を歓迎した上で、次のように書いている。
電力自由化によって、ドイツの多くの顧客はやっと、原子力や石炭による電力ではなく、環境と気候にやさしいエコ電力を選ぶ可能性を手にした。現在、ドイツでは約600万世帯が再生可能エネルギーによる電力を購入している。(中略)エコ電力を選ぶことで、原発と石炭発電にレッドカードを示すことになる。
電力の自由化によって、原発を再稼動させようとする電力会社に留まるか、あ るいはエコ電 力の会社に変えるか、日本でも制度としては選択できるようになった。原発を再稼働させようとする電力会社に「レッドカード」を示すには、 価格の差だけではなく、エコ電力かどうかを消費者が判断できるように、新規加入の電力会社がそのエネルギー源を明らかにすることが必要だ。
残念ながらドイツに比べ、日本は脱原発や電力の選択の意識が遅れていますね。チェルノブイリやフクシマからも学んでいないのでしょうかね。
今、熊本でM7.3をはじめ大地震の余震が続く未曾有の状態なのに、熊本の活断層の延長上の川内原発を止めようとしない安倍政権。クレイジーとしか言いようがないですね。メルケル首相とは正反対ですよ。
ドイツや、アメリカでも市民が黙ってないでしょう。日本人も先進国なら、自分たちの生命財産と環境を守るためハッキリ意思表示をすべきですね。