ドイツ人が諦められない「消費」 ランキングTOP20
「罪」だとわかっていても、諦められない「消費」がある番組で紹介されました。これは、ドライ・ザット(3Sat 、ドイツ・オーストリア・スイス共同テレビ局)が行ったアンケート調査の結果です。約1時間にわたる番組では司会者ステフェンさんの他、8人のゲストが取り上げられた20の「消費」がなぜ「罪」なのかを考え、話し合っていきます。
「ほしい!」という投票数の少ない項目から紹介されていきました。
20位はプラスチック玩具。その理由は「ユーザーである幼児がアンケートに参加できなかったからでしょう」と司会者は述べていました。「子供のころは金髪で痩せたプラスチック人形が絶対にほしかった」とつぶやくゲストもいました。今では大半のプラスチック玩具の中にに身体に有害な毒が“詰め込まれている“ことは知られています。驚いたのは、ある調査の結果では、幼児がプラスチック製のおしゃぶりを1時間しゃぶるときの身体への害は、大人が40本タバコを吸うのと同じであるということです。関連記事、プラスチック・プラネット
19位は豪華客船旅行。ますます巨大になり、豪華になっている客船ですが、燃料として使われているのは質の悪い重油です。原油から石油精製して残るカスともいえます。最新の客船1隻のエネルギー需要量は自家用車500万台に相当するそうです。港湾商業都市として発展したハンブルクでは港に停まる外航船の数は急増しています。これらの船の大量な排気物質が原因で、ハンブルク港の空気は前世紀の炭鉱都市のように汚染されています。しかしここでは他の都市のように粒子状物質の排出量は制限されていません。
18位は装飾品。金の結婚指輪を作るのに20トンの有害廃棄物が出るとは誰が考えているでしょうか。ダイヤモンドと同様、購入する際、原産地証明書に関心を持つべきでしょう。「大金を出して血塗られた宝石を身に付ける気はしない」とゲストのコメントでした。
17位は置物・飾り物類。特にほしいものではなく、見つけてつい買ってしまう安もの製品は経済不況と呼ばれる今でも売り上げは上々です。大半の製品は酷い労働条件の中で生産され、環境汚染が問題となっています。このいらない品物はまさしく「安もの買いの銭失い」でしょう。
16位は花火。大きな音を立てて新年を迎えるのはゲルマン民族の習慣でした。毎年大晦日は、爆音花火でにぎやかです。投げ捨てる爆音花火や夜空に打ち上げる花火の量を金額に直すと、ドイツ全体で1億1千万ユーロ(約140億円)でした。その行事の後にかたづけるゴミの量がゴミコンテナ50万個に相当するそうです。「大金を空に打ち上げるよりパン(募金)を」と国民に呼びかけている一方、年々花火は大掛かりになっています。
15位はジェットスキー。これはモーター(騒音)付き水上スキー、水上オートバイ、マリンジェットなどとも呼ばれています。特に男性に人気があります。真っ青な空の下、のどかな海で休暇を楽しんでいる水泳客は、騒音とスピードに脅されます。スイスの湖ではジェットスキーは禁じられています。
14位はペット用品。泣く子供に対しては不愉快な顔をするのに、犬がキャンとほえると周りの乗客が慰めるようにやさしく犬に話しかける情景を、よくベルリンのバスの中で見ます。ドイツ人がペットのために使う金額は年間37億ユーロ(約4700億円)。ペットフード、ペット用品から、手術して悲しそうな目にするペット整形まで限界はありません。
13位はスキーなどウィンタースポーツ。「仕事場からスキー場へ」と今はいつでもどこにでも気軽にスキーを楽しめます。スキーは山に住む者のスポーツではなく、大衆スポーツになりました。時間のないスキー客が待たずにゲレンデに行けるようにと、大型リフトがあらゆるところに設置されています。そのために森が伐採され、山はゲレンデと変わっていきます。地球温暖化で雪が降らなくても問題はありません。雪を作って降らせます。人工雪の原料は人口湖に溜めておいた水です。「自然を楽しむ? とんでもない! スキー客用のイベント会場だ」とゲストの言葉でした。
12位は切花。季節と気候風土にあった切花ではなく、遠いケニアから空輸される切花に問題があります。ドイツで販売される切花の3本に1本はケニアで栽培されています。長距離輸送に使うエネルギーも効率的ではありませんが、それ以上に問題なのは水です。切花1本当たりに使う水の量は約5リットル。切花は水不足で苦しんでいるケニアから更に水を奪っています。
11位は化粧品。「広告がこれほど策略に富んでいる産業はない」と解説がありました。「ある決まったクリーム1瓶を買うつもりで出たが、結局は数個の袋を提げて家に帰り、レシートを見てびっくりする事がよくある」と話すのは女性のゲストでした。化粧品産業の売り上げはドイツ国内だけで毎年130億ユーロ(約1兆6千億円)に及ぶそうです。化粧品に使われている化学物質の安全性や有効性は動物実験により検査されます。ドイツでは約236万匹の動物が実験台になり、そのうちの80%はラットやマウスです。EUでは今年度、化粧品生産のための動物実験は禁止になりました。
ここまでの「消費」は諦めてもそれほど生活に影響がないようです。「10位以降に選ばれた項目は消費できなければ痛いでしょう」との司会者の解説で、番組の後半が始まりました。
10位はファッション。「断食という言葉はありますが、“断衣“という言葉もあってもいいのでは」と問いかける司会者のステフェンさんです。布が弱り、着られなくなってから初めて新しい物を買うというのはいかがでしょうか。「1ユーロ99(約250円)で靴下が2足買える時代では穴を繕うことはしない」とゲストは答えていました。ゲストの1人であるヴェルツァー教授(財団「未来完了形」の創立者)は「安物製品は物語らなくなった」と問題点を説明しました。「購入した製品がどこでどのような条件で製造されたのか消費者に見えないようにされている。消費者の目に入るのは値段だけ」。多くの安物製品は発展途上国で劣悪な労働条件のもとで、子供や女性たちによって生産されています。
9位は空の旅。飛行機旅行が贅沢品だったのは一昔前、チケットがバス旅行よりも安いこのごろです。明日はないとでも思っているのか、我も我もと並んで安値の航空旅行に出ます。その現状をあるゲストは“人間競馬“と呼び、「だから乗客は観光客ではなく “観光動物“になってしまった」と指摘しました。飛行機で飛べない観光地はありません。地球全体がバカンス・クラブです。飛行機の燃料であるケロシンの排気ガスは環境負荷が通常のガソリンの2倍もあるのにもかかわらず、たいてい税金がかかっていないそうです。
8位はアルコール飲料。アルコールは認可されている中毒物質です。ドイツの国民1人当たりの年間平均純アルコール消費量は約10リットルです。ちなみに1リットルは1000mlで、純アルコール20mlとは、大体ビール中瓶1本、日本酒1合、ウイスキー・ダブル1杯などに相当します。人口8千万人のドイツでは1千万人が酒がないと困ってしまうと答え、130万人がアルコール依存症にかかっているそうです。
7位はスマートフォン。携帯、iPad、スマートフォンなど、国民1人当たり平均使用時間は1日に83分だそうです。時間さえあれば、スマホ経由でインターネットに接続します。ゲストの1人は「私はスマートフォンの犠牲者だ」と語っていました。「スマホ中毒にかかっていると家族に言われているが、大半の中毒患者のように病状を認めていない」。問題なのはゴミです。消費者は絶えず最新の機器を要求します。ドイツでは年間1000万トンの携帯が不要になります。携帯に使われている材料の12パーセントは銅で、金、レア・アースなど再利用しないともったいない物質が少なくはありません。
6位は肉食。「肉の場合も他の『消費』と同様、安いから大量に消費する。どこでどのように生産されているか見えないので、おいしいと思う」とゲストのコメントがありました。数字に直すと、
世界中の農業地帯の70パーセントでは酪農がおこなわれている。毎年何千ヘクタールと牧場はなおも拡大されている。
肉の消費は百年ほど前と比べると2倍になり、1人当たりの食肉消費量は年間60kg。
毎日40万羽の鶏が食料として殺される養鶏場もある。
ドイツ人のほぼ85%が毎日肉製品を食べている。
合い挽き肉のほうが、猫のペットフードより安い。
ドイツ人1人が生きている間に食べる動物の数は計算によると計1490匹。
関連記事、肉のはなし
5位はテレビ。「テレビにくぎつけ。色々番組がありすぎて、決められない」と人気パンク歌手ニーナ・ハーゲンが35年前に歌った歌詞があり、今も変わりません。ドイツの一般家庭では毎日平均4時間2分、テレビがついているようです。「テレビは番組の内容と費やす時間により、問題にもなり、ためにもなる」という意見にどのゲストも賛成していました。これからのテレビはオンデマンド、好きな時に好きな番組を見ることが出来ます。
4位はチョコレートなど甘いもの。「食料品のなかで中毒症状を起こすものはないが、砂糖は例外だ」と説明するのは料理人であるゲストでした。甘いチョコレートを食べると幸福感を得るというドイツ人は「甘党という遺伝子」を持って生まれてくるようです。大半の食料品には砂糖が入っています。ドイツ人1人当たりの年間砂糖消費量は36kg。大量の砂糖は肥満、糖尿病、心血管疾患の原因となっています。
3位は車。「自由を愛する市民に自由な(制限のない)高速度を」とは車好きなドイツ人の合言葉です。ガソリンは高くなっていますが、販売上々なのは特に馬力が高い車です。ドイツでは7台に1台の車はSUV(Sport Utility Vehicle, スポーツ・ユーティリティ・ビークル)と呼ばれる大型車だそうです。「高い座席から小型車を見下ろすことができるのが楽しいのか、権力と精力を見せ付けるのがうれしいのか」と多くのゲストはあきれていました。「ガソリン自動車の代わりに電気自動車を導入するのではなく、未来の鍵は車がいらない都市計画にある」とゲストの1人である気候・環境・エネルギー研究所所長は述べていました。そして自動車先進国と呼ばれるオランダの都市が紹介されました。
2位はコーヒー。ドイツの国民的な飲み物はコーヒーです。問題となっているのはアルミ製のコーヒーカプセルです。ジョージ・クルーニーが出演するコマーシャルに人気があったのか、ドイツでは4世帯のうち1世帯にはコーヒーカプセルとコーヒーメーカーが家庭におかれています。コーヒーの値段が少しでも高くなると不満に思う消費者ですが、クルーニーの薦めるコーヒーカプセルは小さくて1個当たりは格安です。実は1キロ当たりで計算してみるとカプセルコーヒーの価格は60~80ユーロ(約7000~8000円)になります。「宣伝の力は恐ろしい」とゲストの一人は述べていました。ちなみにフェアトレードコーヒーは1㎏当たり約12ユーロ(約1500円)です。値段が高いという理由でフェアトレードコーヒーの割合は市場のわずか3%程度しかないそうです。アルミ製造のエネルギー需要量は高く、生産に必要な化学物質は有毒です。ゴミとなったアルミ製のカプセルが収集されリサイクルされれば少しは環境に優しいのですが、大半のカプセルはゴミとなり処理されます。
1位は電気製品。私たちの生活は洗濯機、掃除機、冷蔵庫をはじめ便利な電気器具であふれています。その多くは広告が約束しているように便利ではなく、短期間で不要になります。生産者が計画的に質を落として、長持ちしない製品もあります。多くの器具は修理するのは困難で、修理代も新製品を購入するより高くついてしまいます。「オール電化は人間の持っている能力を消滅させる」とゲストの過激な言葉がありました。特に、手を使うという人間にしかない能力を器具が受け持ちます。電気がコンセントから流れる間は、器具が人間の生活を引き受けます。ドイツでは毎年約75万トンの電気器具が廃棄されます。この場合も消費者は、このゴミがどこでどのように処理されているか、知ろうとしません。番組では山と積まれた電気器具のゴミの中で、リサイクルできる金属を探す子供たちをうつしていました。国の名前はガーナ、ベニン、リベリアといくらでも並べることができるでしょう。番組ではつぎのようなナレーションが流れました。
子供たちはどのようにノートパソコンを起動させるか知りません。電子レンジでどのようにスープを温めるのかもわかりません。けれども、電気器具をどのようにうまく壊すかは知っています。プラスチックを燃やして金属だけを取り出します。コンピューター1台に使われた銅線の売り上げは80ユーロセント(約100円)です。短期的には、この売り上げで彼らの飢えがおさまるかもしれません。しかし長期的には、この作業で呼吸する有毒なガスが原因で死亡していくでしょう。
写真
セール、http://www.flickr.com/photos/xrrr/2610807053/
献金の呼びかけ、http://www.diakonie-portal.de
人工雪、http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Schneekanone_Nassfeld.JPG
ラストミニッツ、http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Fokker_100_der_Inter_Airlines_in_Antalya_-_IMG00121.JPG
テレビ、http://www.flickr.com/photos/oddharmonic/2405784549/sizes/o/in/photostream/
廃棄物、http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Agbogbloshie.JPG?uselang=de
いつも色々な記事をありがとうございます。
楽観的すぎるかもしれないけれど、ドイツにはこういう番組があるだけ、
ほんの少し希望?救い?があるかなと言う気がします。