欧州議会選挙で注目される気候変動
「ヨーロッパは、完全ではない。しかし、それは とてつもなく素晴らしいスタート台、集まれ!一緒に新しいヨーロッパを作ろう」—緑の党の共同代表ローベルト・ハーベックの大きな写真が載った立て看板には、こう書かれている。ハーベックは将来の連邦首相候補の一人と目される人気上昇中の政治家である。欧州議会選挙を前にしたベルリンの街には今、政治家の顔写真入りの立て看板やポスターが溢れている。
欧州議会の選挙は5月23日から26日にかけて欧州連合(EU)加盟28カ国で実施される。ドイツの投票日は最終日の5月26日。ヨーロッパ各国では反EUを唱えるポピュリズム政党が人気を高めているが、ブレグジット(EU からの脱退)が遅れている英国も今回の選挙に参加せざるを得なくなったため、反EU政党の勢力がさらに伸びるのではないかと懸念されている。そうしたことから今回の欧州議会の選挙は、EUの将来を決める重要な選挙とみなされており、ドイツでは、ラマート前連邦議会議長(キリスト教民主同盟、CDU)やガブリエル前外相(社会民主党、SPD)ら有力政治家4人が超党派で、有権者に投票するよう呼びかけたり、経済界の代表もEU強化への投票を働きかけたりするという異例の現象も起こっている。
そうしたなか、ヨーロッパ各国の有権者の間では、気候変動に対する関心が高まっていると伝えられる。先月ヨーロッパ各国市民を対象に行われたあるアンケート調査によると、欧州議会選挙での最も重要なテーマの一つは気候変動問題で、「地球温暖化についての各政党の政策を見比べて、投票先を決める」と答えた人が77%にのぼった。このアンケート調査は今年1月、「欧州気候財団」の依頼で、ヨーロッパの11カ国の18歳から65歳までの有権者を対象に行われたものだ。11カ国というのは、ベルギー、デンマーク、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、オーストリア、ポーランド、スロヴァキア、スペイン、チェコである。
この調査を依頼した「欧州気候財団」のローレンス・ツビアーナ最高経営責任者は「地球を気候変動から守るという問題は、もはや各政党の単なる戦略上の課題ではなくなり、有権者一人一人にとって選挙での重要なテーマとなった」と語った。また、環境保護組織「環境アクション・ネットワーク・ヨーロッパ(CANE、 Climate Action Network Europe)」のヴェンデル・トリオ会長は、「多くの若者たちが今回初めて欧州議会の選挙に参加する。若い彼らは、多分気候温暖化対策に積極的に取り組む候補者を選ぶだろう」と予想する。
気候変動問題が有権者の投票行動に大きな役割を果たすという観点から非常に興味深い調査報告が、先のアンケート調査とほぼ同じ時期に発表された。環境保護団体「ドイツ自然保護リング(DNR、Deutscher Naturschutzring)」と「環境アクション・ネットワーク(CAN、Climate Action Network)」が実施したこの調査では、有権者の大きな関心事となった気候温暖化対策に関する各政党の政策が分析された。その結果、特に欧州議会で最大会派を占め、ドイツの最大与党、CDUとその姉妹政党キリスト教社会同盟(CSU)が属する欧州人民党グループ(EVP、Europäische Volkspartei)の評価が意外なほど低いことがわかった。そして、その評価がポピュリズム政党のグループ「自由と直接民主主義のヨーロッパ(EFDD、Europa der Freiheit und der direkten Demokratie)」や「国家と自由の欧州(ENF、Europa der Nationen und der Freiheit )」よりも低いことが、驚きをもって受け取られている。
この調査では気候温暖化や環境保護政策について21の項目について、各党の欧州議会議員の今期の投票行動が評価されたが、中でもドイツのCDU・CSU は、気候温暖化対策の国ごとの政党のランキングでも、「悪い」と判定された。しかもこの評価は両政党の属するEVPの平均よりもランクが下で、「ディノサウルス」並みの古臭さだとみなされた。DNRのEU気候・環境政策担当のエレーナ・ホフマンさんは、「CDU・CSUの政策が気候・環境問題の幅広い分野で、実際にはいかに野心的ではないかを知って驚いた」と感想を述べている。また、DNRのカイ・ニーベルト会長は「こうした分析結果を見ると、メルケル首相のCDUは、ヨーロッパの気候変動はどうでもいいと考えているかのように思える」と語っている。
気候変動対策の数値でのドイツの各政党の評価は、CDU13%、CSU12.6%で、最低は右翼ポリュリズム政党である「ドイツのための選択肢(AfD)」の10%で、気候変動対策に最も熱心でない政党の位置を占めた。一方、ポジティブな評価を受けたドイツの政党は、緑の党がトップで、環境保護の分野では88%の評価を受け、社会民主党(SPD)の62%、左翼党の59%がこれに続いた。
実は今年で辞任する欧州員会のジャン=クロード・ユンケル委員長の後継者としてドイツ人のマンフレッド・ヴェーバー氏(CSU)が立候補している。今度の欧州議会選挙でヨーロッパの有権者が、気候温暖化対策を基準に投票するとしたら、同氏は不利な立場になるということだろうか。そのヴェーバー氏は、世界的に広まっている生徒たちの抗議デモ「未来のための金曜日」のきっかけを作ったスェーデンの少女、グレタ・トゥンベリさんと最近会って、「これまで温暖化対策に真剣に取り組んでこなかった大人たちに抗議する彼女の主張に感銘を受けた」と語った。同氏は、その一方で「気候温暖化問題は、我々世代の政治家にとって大きな課題だが、現実的には他の要素、例えば何万という失業者が出るような政策をとるわけにはいかない」とも述べている。何万人もの失業者というのはドイツの場合、主に褐炭産業に従事する人たちのことを指しているように思われる。気候変動を防ぐためには、たくさんのCO2を出す褐炭の使用を禁止しなければならないが、そうすると褐炭生産とその関連産業で大勢の失業者が出るというジレンマがある。
グレタさんの行動に触発された「私たちの未来を奪わないで!」という生徒たちの金曜デモは、瞬く間に各地に広がっていったが、少年少女たちは、欧州議会選挙中の5月24日の金曜日、気候温暖化対策に真剣に取り組む候補者を選ぶよう大人たちに求める大規模なデモを計画しており、ドイツだけでも75カ所で大勢の生徒たちが参加すると見られている。選挙権のない生徒たちの真剣な要求を、政治家たちも無視できない状況が生まれている。