私たちの未来を奪わないで! 生徒たちの金曜デモ

池永 記代美 / 2019年3月31日

ベルリンはデモのメッカだ。家賃高騰に反対するデモ、安全な自転車レーンの敷設を求めるデモ、公共交通機関職員の賃上げ要求デモ。犬の飼育の規則が厳しくなるのに反対して、犬がデモをしたこともあった。ベルリンのどこかで、毎日一つはデモが行われているように感じていたが、その予想は大外れだった。2018年は平均すると、なんと1日に12件もデモが行われたそうだ。そんな数多くあるデモの中で、今、最も注目されているのが、毎週金曜日に生徒たちが温暖化対策を求めて行うデモ、「Fridays for Future (未来のための金曜日) 」だ。

2019年の政治家の成績表は、気候保護、倫理、責任感のいずれも最低評価で落第点の6だと訴える、生徒らしいプラカード

「Fridays for Future」 (以降、FFF) は、単なるデモというより、生徒たちの間に広がる一つの運動といった方がよいかもしれない。彼らは、温暖化対策に真剣に取り組んでこなかったと大人たちを批判し、一刻も早く地球を救うための対策を取るよう求めている。具体的には、化石燃料の使用をやめて、再生可能エネルギーへの転換を推進すること、再生可能エネルギーへの投資を増やすこと、自家用車の使用を減らすために、公共交通機関をより充実させることなどだ。金曜日の授業のある時間にわざわざデモを行うのは、学校をサボってまでしてデモをしないと、大人たちはこの問題の重要性をわかってくれないからというのが、彼らの主張だ。

この動きは、スウェーデンのグレタ•トゥンベリさん(16歳)の行動に触発されて始まった。昨年の夏は世界各地で、集中豪雨、熱波、干ばつなどの異常気象が見られ、スウェーデンでも、大規模な森林火災が起こった。こうした中、今すぐ温暖化対策に取り組まないと、取り返しのつかないことになると、トゥンベリさんは昨年の夏以来、 首都ストックホルムのスウェーデン議会議事堂の前で、 一人で座り込みを始めた。最初は毎日、そして二週間後からは、毎週金曜日に学校を休んで抗議活動を行った。そのことを知った世界各地の生徒たちが、彼女の行動に共感し、毎週金曜日にデモを行うようになったのだ。ドイツでは昨年12月7日、北ドイツの人口1万5千人あまりの町、バート•ゼーゲベルクで最初のFFFのデモが行われた。その後、ドイツ全国にこの運動は瞬く間に広がり、毎週金曜日に各地でデモが行われるようになった。3月15日、世界一斉デモが行われたときには、ドイツだけでも220の都市でデモが行われ、合計30万人を超える生徒たちが、それに参加した。

トゥンベリさんの似顔絵のポスターを持ってデモに参加する生徒も

トゥンベリさんの行動が、どうしてそんなに多くの生徒たちの心を動かしたのだろうか。彼女の言葉を聞くと、その理由がよくわかるような気がする。昨年12月、ポーランドのカトヴィッツで行われた気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)で彼女は、「あなたたちは子供たちを愛しているといいながら、子供たちの未来を奪っているのです」と、会議に参加した専門家たちに向かって述べた。また、毎年1月にスイスで行われている世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)では、国家元首や経済界のトップを前に少しも臆することなく、「あなたたちにパニックになって欲しい、家が火事になっているのと同じように行動して欲しい」と訴えた。大人たちが便利さや利潤を追求してきたばかりに汚れてしまった地球を、自分たち若い世代に押し付けるのは無責任だという怒りが、わかりやすい言葉でストレートに伝わってくる。

今やトゥンベリさんは、スターのような人気者だ。3月29 日にベルリンで行われたFFFのデモには彼女が参加したこともあり、2万5000人(主催者発表)もの生徒たちが集まった。この日のデモは例外的に、ブランデンブルク門まで行進したが、ベルリンのデモは、いつもベルリン中央駅近くの広場で行われる。この広場は連邦経済 •エネルギー省の建物と、連邦交通•デジタルインフラ省の建物の間にあり、そこで生徒たちが、「私たちは、ここにいる!私たちは大声をあげる!それはあなたたちが、私たちの将来を奪ったからだ!」と大きな声で連呼するのだから、建物の中で働いている職員にもその声は届いているはずだ。実際、ペーター•アルトマイヤー連邦経済•エネルギー相が、生徒たちと直接話し合おうと建物から出て来たこともあった。しかし生徒たちは、「あなたは仕事場に帰って、自分のするべき仕事をしなさい」と追い返したそうだ。

3月29日には、ドイツだけで4万人がデモをしたと、トゥンベリさんのツィート

デモに来ている生徒たちの話を聞くと 、昨夏の猛暑に参ってしまったとか、雨が少なくて、森でキノコがあまり採れなかったとか、このところ暖冬で湖が凍ることはほとんどなく、ずっとスケートをしていないなど、テレビや新聞の報道だけでなく、日常生活の中で、地球がおかしくなっていることを感じているようだ。ある13歳の男の子は、家族と温暖化のことや環境のことをよく話し合うそうで、電気をたくさん消費するからと、家には食洗機どころか洗濯機もないと話してくれた。小学校の低学年や幼稚園児ぐらいの小さな子供もかなり見かけた。先生に引率されてクラス全体で参加しているか、親の付き添いのもとで参加している子供たちだ。

ベルリンの動物園で昨年12月に生まれた北極熊の子供が人気を呼んでいることもあり、子供たちは北極熊の将来を心配している

学校をサボるのはよくない、放課後か授業のない週末にデモをするべきだという批判が、一部の政治家や大人たちから出ている。しかし現場に来ている教師に聞いてみると、「社会見学の一部としてクラス全体で参加した」、もしくは「金曜日は自宅学習日にしたので、生徒は授業をサボっているわけではない」などという答えが返ってきた。実際に授業をサボっている生徒の数は、意外に少ないのかもしれない。ベルリン東部のある小学校の教師は、「このちょっと特別な社会見学のために、一週間の間、エネルギー、ゴミ、自然保護のことなどを授業で扱い、仕上げに美術の授業として、生徒一人一人が、ポスターを作った」と教えてくれた。

ある政治家から、「生徒たちは環境や技術について何が実施可能かわかっていない。こうした問題は専門家たちに任せるべきだ」というコメントが出た。それに対しては、今度は学者たちが声をあげた。ベルリン技術経済大学のフォルカー•クヴァシュニング教授は、「私たちは専門家です。生徒たちの言っていることは正しいです。エネルギー転換は学問的に可能です。必要なのは、それを決断し確実に実行していくという意思です。生徒たちは、それを責任ある立場にいる大人たちに求めているのです」と、生徒たちの要求の正しさを証明した。そして、「Scientists for Future(未来のための学者たち)」という名で、生徒たちの要求を実現するよう請願書を作成したところ、あっという間に、ドイツ、オーストリア、スイスの3カ国から2万3000筆を超える署名が集まったそうだ。

選挙権はなくても政治に参加できる方法を、ドイツの生徒たちはよく理解している

生徒たちの声は、確実に大人たちに届いているようだ。今年の1月、石炭•褐炭火力発電からの撤退に関する勧告書をまとめた「石炭委員会」は、様々な利害関係を調整し、歴史的合意にいたることができたわけだが、生徒たちから、褐炭を使用した発電を早くやめるよう要求されたことが、メンバーたちの背中を押したそうだ。2月には、メルケル首相が毎週発表するビデオメッセージで、生徒たちのデモを全面的に支援すると述べた。連立与党のキリスト教民主同盟(CDU)党首のアネグレート•クランプ=カレンバウワー氏も社会民主党(SPD)党首のアンドレア•ナーレス氏も、3月28日に行われた女性党首公開対談で、「2019年を温暖化対策の年にする」と宣言した。温暖化や環境の問題を真剣に考え、デモする生徒たちのおかげで、将来が少し明るいものになりそうだ。このような行動力ある若者たちがいることを、大人たちは誇りに思うべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 

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