ドイツ人にとってフクシマは過ぎ去ってはいない

永井 潤子 / 2018年3月4日

東日本大震災、そして福島第一の過酷な原発事故から間もなく満7年を迎える。ここベルリンでは3月10日に原発反対の風車デモがSayonara Nuks Berlin主催で行われるが、ドイツ各地で原爆・原発反対の集会やさまざまな催しが計画されている。福島での原発事故をきっかけに2022年までの段階的な脱原発を決定したドイツでは、福島原発事故に対する人々の関心が高いが、ドイツ人の中には「あのような大事故を実際に起こした日本が、原発の再稼働を進めるのはまったく理解できない」という声が少なくない。最近では、押し寄せる難民問題を抱えるドイツで、「福島の支援より国内の難民問題を優先せざるを得ない」という人たちも増えている。そんな中でも7年前から福島の子どもたちのために多額の募金活動を続ける人たちがいる。

大規模な募金活動を続けているのは、ルール地方、ドルトムントの独日協会の関係者だ。同協会の会長を務めるシュルターマン容子さんと副会長で夫のシュルターマン・ホルストさんたちは、2011年3月15日、つまり東日本大震災の4日後には早くも「日本への救援活動(Hilfe für Japan )」というプロジェクトを立ち上げた。当時「金持ちの日本になぜ支援が必要なの?」という声も聞かれたが、シュルターマン夫妻たちは、特に放射能で汚染された福島の子どもたちの支援のためにお金を集めたいと願ったのだった。ドルトムント独日協会は、それまでにチェルノブイリの子どもたちにドイツで休暇を過ごさせる活動に関わってきており、その経験を生かしたいと考えてのことだった。

以来ドイツの学校で福島について講演して、ドイツの子どもたちの集めた貴重なお金を何年にもわたって寄付してもらったり、「日本文化の夕べ」といった催し物を開いた折に寄付を募ったりして、活動を続けてきた。最近では浴衣など日本関連の商品を売り、その利益を寄付に回したり、ドイツ人音楽家の協力を得て無料のチャリティーコンサートを開き、その際に寄付を募ったりしてきた。非常に多彩な同協会の活動を通じて去年2017年度だけでも約2万ユーロ(約260万円)が集まったという。中でもドイツの慈善団体、国際カリタスの協力が大きいという。カリタスはカトリック系の慈善団体だが、7年前から毎年多額の寄付で、この「福島の子どもたちの救援活動」に協力してくれているという。

ドルトムント独日協会がこの7年間に集めた募金額は総額36万ユーロ(約4700万円)にのぼり、そのお金でこれまでに福島の子どもたち、1350人を沖縄の自然の中で過ごさせることができた。活動を始めた最初の頃は、毎回福島の子どもたち100人余りを4週間もの長い間、放射能の心配のない沖縄の自然の中で、思いっきり外で遊ばせ、肉体的には免疫力をつけさせ、精神的にも強くして親の元に返すことができた。しかし、その後沖縄の有力な協力者を失い、現在では子ども一人が過ごせる期間が残念ながら10日前後に短縮されているという。

現在の協力相手は、沖縄・久米島にある福島の子どもの保養施設「沖縄・球美(くみ)の里」で、ドルトムント独日協会は今年も春に1回、夏に1回または2回、福島の子どもたちをこの「沖縄・球美の里」で保養させる計画を立てている。「沖縄・球美の里」では、福島の子どもたちの甲状腺検査を必ず実施してきたが、その検査器が老朽化したため、同施設の向井雪子理事長は、1台300万円する新しい甲状腺エコー検査機器を購入するため、クラウドファンディングを呼びかけていた。その呼びかけをここにも載せようと考えていたところ、その目標額に早々と達したという朗報が届いた。しかし、向井理事長の福島の子どもたちの甲状腺癌の発症を心配する声は切実である。https://readyfor.jp/projects/kuminosatomed/announcements

ついでながら、グリーンピースジャパンからは最近の福島の状況について、このほど次のようなメールが届いた。「状況は私たちが思っていたよりも深刻でした。避難指示が解除され、除染が完了したとされた福島県飯館村で、再汚染が進んでいる地点があることが、最新の調査で明らかになりました。山間部では、放射線レベルが政府の基準値に下がるまでに21世紀半ばまでかかります。大切な故郷に、帰りたくても帰れない。でも支援がなくては避難を続けられない。被害者の方々の暮らしが窮地に立たされています」。

このグリーンピースジャパンと同じような印象を、去年11月、3回目の福島訪問をしたドルトムント独日協会のシュルターマン容子さんも受けたという。今回福島の避難指示が解除された南相馬、浪江、飯館などを訪れたところ、前2回より状況が悪化したという感じを受けたという。まず、どこでも山積みになっているフレコンバックの量が異常に増えていたことに驚かされたという。これは除染が進んだ結果ではあるものの、中間貯蔵施設建設計画は期待したほど進展しておらず、また、福島第一の汚染水も毎日200トン増加し続けているということを知ったという。彼女は福島のこどもたちの検査、治療に当たる、たらちね病院の藤田博士とも話し合った。福島の子どもたちの間で甲状腺癌およびその疑いがあると診断された例は、2017年7月時点で194件にのぼり、その多くの子どもたちにリンパ節移転や遠隔移転、再発などの深刻な症例も報告されているという。シュルターマン容子さんは、福島で見聞したことを3月10日、ドルトムント独日協会と核戦争防止国際医師会議(IPPNW)主催の記念の催し「フクシマ後7年、チェルノブイリ後32年」のなかで報告することにしている。

シュルターマン容子さんは今年の新年の挨拶で、「これまで続けてこられたのも、ドイツの皆さんの連帯感と慈善団体国際カリタスの多大な資金援助のおかげです」と強調していたが、「福島のこどもたちには長期にわたる支援が必要である」と考え、継続的に協力してくれるドイツ人たちに感動しているとも語っていた。https://hilfefuerjapan2011.wordpress.com/

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