フクシマ8周年を前に、今年もベルリンで反原発「かざぐるまデモ」

池永 記代美 / 2019年3月13日

東日本大震災による福島第一原発の事故が起きてもうすぐ8年目という3月9日、ベルリンの中心部にあるブランデンブルク門前のパリ広場に、黄色い風車を手にした人たちが300人ほど集まった。脱原発や反原発を訴えるためだ。通称「かざぐるまデモ」と呼ばれるこのデモは7年前から毎年、ベルリン在住日本人たちが作る「Sayonara Nukes Berlin(さよならニュークスベルリン)」が中心になって行われており、デモに参加する人たちが風車を持って行進することになっている。今年のスローガンは、「フクシマは警告する。世界中で脱原発を!(Fukushima mahnt: Atomausstieg weltweit!)」だった。フクシマから遠く離れたベルリンで行われたこのデモに、どんな思いが込められていたのかー。主催者や参加者の声を届けたい。

いくつか行われたスピーチのトップバッター、「Sayonara Nukes Berlin」の梶川ゆうさんは、大きな声ではっきりしたドイツ語で、このようにスピーチを始めた。

まず、いいニュースからお伝えしようと思います。日立や三菱、東芝などの日本の原発メーカーが海外のプロジェクトから次々に撤退しました。日本の原発事業を外国への輸出で活性化しようという試みは、すべて失敗したのです。経済的に採算が合わないという理由からです。原子力エネルギーには、経済的にも未来はないことを、日本政府やアトムロビーは認識するべきです。

しかし「朗報」はそれだけで、あとは福島の厳しい現実についての報告が続いた。

「Sayonara Nukes Berlin」の梶川ゆうさん

福島第一原発の事故現場には汚染水を入れた貯蔵タンクが、すでに830基以上並んでいます。汚染水は約90万トンに相当するそうです。年間5万トンから8万トン増えるので、まもなく貯蔵余地がなくなるため、汚染水の海洋投棄が計画されています。東京電力は、汚染水はすでにフィルターを通して浄化されており、トリチウムしか残っていないと主張してきましたが、ヨウ素129など、ほかの放射性核種も残っていることが明らかになりました。そのため汚染水の海洋投棄は延期されましたが、計画自体が中止されたわけではありません。

汚染地域から逃れて避難生活を送る人たちが、今なお5万4000人以上にのぼリ、困難な生活を強いられていること、帰還政策を進める政府によってこれら被災者への支援がストップされること、避難解除区域になっても、戻るのは高齢者だけで子供のいる家族は戻らないこと、「原発は安全だ」という、かつての神話に代わって「原発事故はコントロールできる」という新たな神話が生まれていることなどを詳しく説明した後、梶川ゆうさんは次のように訴えた。

核兵器の脅威が再び現実味を帯びてきている今日この頃ですが、原爆と原発事故の間に区別はないことを、チェルノブイリとフクシマを体験した私たちは知リました。ですから私たちは原爆に反対するだけではなく、世界中で原子力エネルギーの利用をやめる努力をしなければなりません。ウランは地中にとどまるべきで、核分裂は起こしてはならず、核のゴミはこれ以上作ってはなりません。子供や孫の世代のために平和で、不安のない未来を残す努力を我々がしなければ、我々以外の誰がするのでしょうか?

社会的、政治的テーマを身体で表現するボディポエットのカズマ•グレンさんも登場。©️Uwe Hiksch

「かざぐるまデモ」を主催したのは上記のSayonara Nukes Berlin以外に、ドイツの反原発市民団体「Anti Atom Berlin(アンティ•アトム•ベルリン)」、環境によい余暇活動を推進してきた「NaturFreunde Berlin(ベルリン•自然友の会)」、自然エネルギーを供給する電力会社「Greenpeace Energy(グリーンピース•エナジー)」の計4つのグループだった。しかし広場には、主催者団体のもの以外のいろいろな横断幕や旗を掲げた人たちが見受けられた。それもそのはず、このデモには10もの団体が、協賛者として名を連ねていたからだ。その中には、世界中の国々に対して核兵器の廃絶を呼びかけ、2017年にノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」や、1985年に、同じくノーベル平和賞を受賞した「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)」の名があった。これだけの協賛者が集まったということは、ドイツの人々がフクシマの事故を他人事として受け取らず、1日でも早く、原発も核兵器もない安全な世界の実現を訴えている証拠だといえる。

20xxにどこで原発事故が起こるかわからないと警告する「Greenpeace」の横断幕

共催者の一つ「ドイツ環境自然保護同盟(BUND)」の会長フーベルト•ヴァイガー氏は次のような言葉でスピーチを始めた 。

福島の原発事故は、日本のような先進工業国でも原発をコントロールできないことを、はっきりと示しました。原発事故は、それがチェルノブイリであれ、日本であれ、どこであれ、非人間的で破滅的な結果をもたらすということが明白になりました。世界中に原発がある限り、こうした大災害はいつでも繰り返される可能性があります。ですから今日は福島の事故を思い出したり、日本の友人に連帯を示したりするだけの日ではありません。世界中から原発をなくすという共通の課題を思い起こす日です。

そして、2022年までに段階的な脱原発を決めたドイツの抱える問題とドイツ政府への要求を列挙した。

BUNDのEUフーベルト•ヴァイガー会長   ©️Uwe Hiksch

ドイツ政府が2022年までの脱原発を決定して以来、ドイツでは原子力の危険について語られることがほとんどなくなりなりました。しかし、まだ原発が7基稼働しています。 2018年のBUNDの調査によると、これら各原発での洪水、地震、テロ対策が不十分なほか、原子炉内部の危険な破損がしばしば起こっていることが判明しています。こうした危険がある以上、ドイツは原発からの撤退を早めなければなりません。ドイツ政府は脱原発に伴う別の問題にも取り組もうとはしていません。グローナウのウラン濃縮工場やリンゲンの核燃料製造工場が無期限の許可を得て今なお稼働しており、ベルギーの老朽原発、ティアンジュやドールなどに核燃料を提供しています。BUND は遅くともドイツの脱原発が完了する2022年までに、これらの施設の廃止を要求します。

原発と核兵器は、コインの両面で、同じぐらい危険と訴える「Anti Atom Berlin」の横断幕

 

演説が終わると、ブランデンブルク門から東に伸びる目抜き通り、ウンター•デン•リンデンをデモ行進がスタートした。先頭は、ドラム缶を並べて作った打楽器を賑やかに鳴らす音楽隊。その後を、大きな横断幕、手作りのプラカートや風車を掲げた人たちが続いた。手作りプラカードを眺めるのは、デモの楽しみの一つでもある。

日本の人に読んでもらいたいからか、日本語で書かれたメッセージ。

情報のリークはいいけれど、放射能のリークはお断りと書かれている。

これらを読むだけでも、デモに参加した人たちの気持ちは伝わってくるのだが、いくつか声を拾ってみた。

「フクシマの事故が起きた時、ベルリンにいましたが、とても心が痛みました。直接被害を受けた方たちはもっと辛い思いをされたはずです。そうした被害者の気持ちを、一年に一度でもいいから、ちゃんと理解しようと努力することが大切だと思います。脱原発は政治やお金の関わる問題ですが、それよりも、人間が持つ感情を大切にして欲しいと思います。人間の心を壊してはいけないと思います」(日本人、女性)

トルコの原発建設にも反対しているユルマズさん

「フクシマは大変な事故だったのに、その後も原発を稼働させるとは、本当に恥知らずなことです。人間は、失敗から学ぶべきです」(トルコ出身、アースラン•ユルマズ、「ドイツ•自然の友達」のメンバー)

 

「反原発運動には、フクシマ以前から関わっています。ドイツの原発が安全なわけではありません。フクシマの事故のようなことはいつでも起こり得るので、真剣に考えるべきです。忘れてはいけないことです。しかし、デモに参加する人たちの数が、だんだん減ってきています。みんな長続きせず、残念なことです」(ドイツ人、73歳、男性)

自然、土をイメージした赤カブが描かれている旗を持つマルクス•オットーさん。

「ドイツ政府が脱原発を決めたことで、ドイツでは原発の問題はもう終わったと思っている人が多いように感じます。でも世界中のあちこちに、まだ、原発があリます。それに抗議するために、このデモには毎年参加しています」(ドイツ人、マルクス•オットーさん、左翼党の環境保護グループのメンバー)

脱原発が決まったドイツでさえ、原発の問題は解決されていないのだから、いまだに原発に固執する日本の原発政策に、言うべきことはたくさんあるはずだ。 それなのに今年の「かざぐるまデモ」で、若い日本人の参加者があまり見られなかったことは、残念なことだった。原発は環境によく、安全だという、原発ロビーが作った神話に騙されているのだろうか。それとも、恐ろしいフクシマのことは、早く忘れたいと思っているのだろうか。

たくさんの風車を手に持って。アンゲリカ•ツァイゼさん。

「原発ロビイストの言うことを、これ以上聞き入れてはいけません。もはや金銭欲ではなく、人間の理性に従って動くべき時がきています。いったい核のゴミをどうするつもりだと言うのでしょうか。私たちは地球に対して責任があります。そして、 安全に住める地球を、子供たちに残すという責任もあります」(ドイツ人、アンゲリカ•ツァイゼさん、アンティ•アトム•ベルリンのメンバー)

「反原発は大切なテーマで、デモすることは必要だと思います。いつまでも残る放射性廃棄物をどんどん増やしているのだから、全く無責任なことです。代わりになるものは存在するのですから」(ドイツ人、30歳、男性、コマーシャル関係の仕事)

「原発に反対することは、今も必要です。いかに被害が大きいか、福島の事故から学ばなくてはいけません。原発を支援し、税金が使われている欧州原子力共同体(EURATOM) は廃止するべきです。安倍首相も原発から手を引くべきです」(ドイツ人、73歳、男性、医師、IPPNW のメンバー)

大きな掛け声とドラムの音で、デモを盛り上げる音楽隊

行進の間、ドラム缶を叩く大きな音や、「フクシマはどこにでもある!(Fukushima ist überall!)」というシュプレヒコールの声が、通りに大きく響き渡った。この音や声が日本に届けばよいと思う。日本政府や日本の人たちに向けてはこんなメッセージが寄せられた。

友人とデモに参加した川口 牧さん(左)

「日本政府に、すぐ原発を停止して欲しいと、伝えたいです。今日はベルリンにいるので、ベルリンのデモに参加しましたが、日本にいれば、日本のどこかで行われるデモに参加したと思います」(川口 牧)

日本でのデモに参加することも大切だが、一度ベルリンのデモにも参加してみてはと、三線をかき鳴らしながら、呼びかける人もいた。

三線を弾きながら、楽しそうに歩く綾乃さん(左)

「情報を素直に受け止めるだけでなくて、ちょっと疑ってみることが大切なのじゃないでしょうか。そういう姿勢で、フクシマのことも考えてみてはどうでしょう。それとベルリンのデモは楽しいから、一度この『かざぐるまデモ』に来てください!」(綾乃)

THE JAPSのメンバー。

1キロほどベルリンの中心部を歩いて、デモ行進はブランデンブルク門に戻ってきた。締めくくりは、ベルリンを中心に活動するTHE JAPSの演奏で、メンバーの安藤明さんがフクシマの事故にちなんで作曲した『亡者(MOUJA)』などを演奏した。 頬を突き刺す冷たい風のように、辛辣な歌詞が日本の原発政策をチクチクと批判する作品だ。風といえば、今日は一日中、強い風が吹き、天気がコロコロ変わったが、デモの間は雨が降らずにすんだ。そしてその風を受けて風車は、元気にクルクルとよく回った。

 

 

 

2 Responses to フクシマ8周年を前に、今年もベルリンで反原発「かざぐるまデモ」

  1. 則松 和 says:

    いつも楽しみに読ませていただいています。
    ベルリンの規模にはかないませんが、Stuttgart では10日にデモがあり、参加してきました。 ドイツは日本と同様に敗戦国で、だから何か安全保障にかかわる、とされる原発問題についても 共通の問題点があるのではないか、と思っています。ドイツのことを知りたい、と思ってはいるのですが 言葉の問題があって なかなか厳しいのが現状です。このページにはドイツの新聞からとか、情報を詳しく説明してくださっているので 本当に助かっています。 有難うございます。ところで、先日Freiburg のVHSでの日本文化の日 というFest へ行って来ました。 VHSで開かれている 様々な日本文化のコースに合わせて、体験できたり、映画を見たり,講演を聴いたり、と外側に開いた催しで、その寄付金を沖縄の保養施設への寄付金としているとのことでした。福島からの親子がスピーチもしました。 いつかドイツ中にこのようなFest がもてたら、と胸膨らませました。そして、できれば こちらでのことを日本へ伝えて欲しい、とも。 日本では たしか今日、さよなら原発の全国集会が開かれるのでしたか? 年々、少なくなっている、ということですが 草の根になっていつか大きな力を現せるように、続けたいと思います。これからもよろしくお願いいたします。

    • 池永 記代美 says:

      メッセージをありがとうございます。Stuttgartでもデモがあったことを初めて知りました。原発の問題に関しては、脱原発を決めたドイツとこれからも原発に依存していこうという日本というように、考え方が異なりますね。ドイツ人からは、原爆の被害国である日本がどうして原発を維持していこうとするのかよくわからないと言われます。原発がある限り、それが例えば事故を起こしたり、テロの対象となったとき、核兵器と同じぐらいの被害を与えることを、忘れてはいけないと思います。ドイツでは、市民の始めた草の根の運動が、次第に広がり大きな世論となり、政治を動かしたというケースがいくつもあります。ですので、希望を捨てずに、これからも草の根の運動を続けていきたいですね。脱原発だけでなく、政治や社会の色々な面で、日本の社会や政治と違う考え方をする人々や国があるということを、微力ながらも伝えていきたいと思っています。またご意見、ご感想を寄せていただければ、励みになります。