ベラルーシで初の原発建設

まる / 2012年1月29日

ベラルーシ 著作権: David Luizzo

以前このサイトで「原発は全体主義的」という南ドイツ新聞の記事をご紹介したことがありますが(掲載許可期間が3ヶ月だったため削除)、この記事の中では現在世界中で建設中の原子力発電所64のほとんどが、独裁国家や見せかけの民主主義国家にあるということが書かれていました。ドイツ各紙が昨年10月から現在までに伝えるところによると、欧州最後の独裁者とも言われるルカシェンコ大統領が支配するベラルーシ共和国でも、今年、同国初の原子力発電所建設が始まるそうです。

ルカシェンコ大統領は、2009年には既に原発を持つ意思を表明しており、昨年福島原発での事故直後の2011年3月15日(福島第1原発2号機で水素爆発があった日)、ロシアのプーチン首相と共同で、同年秋にはロシアの支援を受けて「福島より安全な、最新技術の原発を作る」と発表していました。それが少し遅れたわけですが、10月になってロシアとの契約などが整い、いよいよスタートというわけです。

建設地はリトアニアとの国境から20kmほどの所にあるオストロヴィッツ。原子炉の1基目は2017年に完成予定。2基目は2018年に完成予定だそうで、建設費の推定70億米国ドル(約5兆円)のうち90%をロシアが出資。ロシアのアトムストロイエクスポルト社(Atomstroiexport)が建設するそうです。

1986年のチェルノブイリ(現在はウクライナ共和国)原発事故当時、ソビエト連邦に降下した放射性物質の70%が、原子炉から15kmしか離れていなかったベラルーシに降り注ぎ、国土の約4分の1が汚染され、現在でも甲状腺癌や白血病、精神障害、免疫低下による様々な病気で苦しむ人たちが生活し、奇形で生まれてくる子供たちも大勢います。これだけの深刻な影響を受けたベラルーシが自ら進んで原発の建設を始めるというのは理解しがたいところです。

京都大学原子炉実験所助教の小出裕章さんが、日本が福島原発事故後も原発を推進する理由には「核兵器に転用できるプルトニウムを保持したいとする国家的欲望がある」とおっしゃっていますが、やはりルカシェンコも口には出さなくてもそうなのでしょう。

ドイツの「グリーンピース・マガジン」(2011年8月3日発行)のインタビューで、ベラルーシの環境活動家オルガ・カラッチさんが語るには、ルカシェンコは「ソ連が崩壊した時に、自分の前任者が当時ベラルーシに配置されていた核兵器をロシアに引き揚げさせたのは愚かなことだった。それがあったら我々の役に立ち、西側諸国は我々にもっと敬意を払っていただろう」と何度も公けに発言しているそうです。

今月4日にベルリン工科専門大学で行われた岐阜環境医学研究所所長で、これまでずっと福島原発事故による内部被曝の危険を訴えてこられている松井英介さんが講演されましたが、その中でも「核兵器と原発は一卵性双生児である」というお話が出てきました。チェルノブイリやフクシマを経験した今となっては、米国とソ連を中心とする核兵器開発競争が激しかった冷戦中の1953年、アイゼンハワー米国大統領が国連総会で提唱した「原発の平和利用」という考え方がいかに欺瞞に溢れたものであったかは明らかです。そして「核抑止力」という考え方は、冷戦が終わった現在でも世界中で存在し続けています。これが無くならない限り、世界が脱原発の方向へ動くことはないのかもしれません。冷戦は終わったとされてはいますが、実は形を変えて続いているのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

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