ドイツの脱原発、どうなってるの? 〜友人との会話より〜 (1)
今回から「みどりの1kWh」に加わった「新人魔女」の私。ベテラン魔女たちと比べると、ドイツ在住歴が浅く、知識も語学力もまだまだです。でも、そのぶん、日本のメディアにはよくアクセスし、日本とドイツの状況について比べたり、ベテラン魔女たちにあれこれ質問したりしています。さて、今年春に、日本に里帰りしたとき、たくさんの友だちがドイツについて質問してきました。「ドイツは脱原発を決めてうらやましいな」「でもあれって、フランスの原発があるからできることなんでしょ?」などなど。そしてここ数ヵ月、日本語のメディアやネット上の書き込みで、「ドイツの脱原発はうまく行ってない」という論調のものをよく見かけるようになりました。友人たちとの会話や日本語メディアを見て、「あれ、日本人はドイツの脱原発について誤解をしてる……?」と思うことが増えています。そこで、日本の友人との会話を再現しつつ、ドイツの脱原発についての、日本人のよくある疑問に2回に渡って答えてみたいと思います。
脱原発で電気代が上がってる?
友「ねえ、ドイツの脱原発、あまりうまく行ってないって聞いたんだけど。ドイツでは電気代が上がって、みんなブーブー言ってるっていう記事を読んだよ。原発を止めたから、発電コストが上がったってこと?」
私「違う違う。ドイツで電気代が上がったのは、脱原発が進んで再生可能エネルギーの比率が増えたから。ドイツには前から再エネを推進するための法律があってね、太陽光や風力で発電した電力は高く買い取ってもらえるようになってるのね。上乗せ分の電気代を『賦課金』って言うんだけど、このところ、再エネの比率が急速に上がってきた結果、賦課金も増えて電気代が高くなったというわけ」
友「ふーん、再エネ電力はわざと高くしてるわけか……。ドイツの国民は『電気代がこんなに上がるなら、脱原発やっぱりヤーメタ!』っていう雰囲気なの?」
私「そんなことないよ〜。脱原発で『電気代が上がる』というのは確かに話題になってる。でも、みんなが不満に感じてるのは『電気代が高い』ことより、むしろ『不公平』なことなんだ。脱原発が急速に進んで、ドイツ経済が国際競争力を失うとまずいからってことで、国際競争にさらされてる一部の企業は賦課金などを免除されて、安く電力を買うことができるの。でも、電気を安く買える企業の中には、明らかに国際競争に関係ないような企業もあってね。そういう不公平さが話題になってるの。電気を安く買ってトクする企業があれば、そのぶんのコストは、ほかの企業とか一般家庭にふりかかってくるわけだからさ」
友「そっかー。やっぱり、電力に発電コスト以外のものを上乗せするのって、うまくいかないのかなー?」
私「そうでもないと思うよ。日本でも、今年の夏から賦課金制度が始まってるんだよ。それに、上乗せそのものがダメなわけじゃなくて、やり方次第じゃない? ほら、日本でも『総括原価方式』って言って、いろんなものを電気代に上乗せしてきたでしょ。立地自治体へのバラマキ補助金だの、マスコミを味方につけるための広告宣伝費だの……。そういうものが電気代に上乗せされる日本よりも、再エネの賦課金が上乗せされるほうが、ずっとポジティブだし、気持ちよく電気代を払えると思うけどな」
友「確かにね〜!」
私「それとね、ドイツの場合、産業向けの電力価格が取引所で取引されるのね。為替市場とか先物取引みたいに、日々価格が変動するわけ。で、さっき言った『国際競争にさらされてる企業は賦課金を一部免除』っていう法律のおかげで、産業向けの電力価格は下がりつつあるんだよ」
友「え、そうなの!? 電気、安くなってるの? 何だか混乱するなあ……」
私「だからさ、電気代っていうもの自体が、計算の仕方によって恣意的に設定できるわけだよね。賦課金を上乗せしたりしなかったり。企業の立場で見るか、一般国民の立場で見るかによっても違うし。日本のメディアの『電気代が上がって、ドイツ大混乱! 脱原発、迷走中』みたいな報道は、すごく一面的というか、色がついた報道だと思うな」
ドイツ経済界は脱原発に賛成してるの?
友「日本ではさ、経団連の米倉弘昌会長とか、経済同友会の長谷川閑史代表が『原発は必要だ』って公言してるんだよね。ああいうのを聞くと『やっぱり、原発がないと経済が衰退しちゃうのかな〜』って思うんだけど、ドイツでは経済界の人はどう思ってるのかな?」
私「経済界も、脱原発には結構前向きだよ。この分野で世界の先駆者になって、新しい産業を築けるんじゃないかって思ってる感じ。国策だから手堅い分野だし、新しく雇用も増えるだろうしね」
友「へえ〜。前向き過ぎて、日本との違いにビックリするわ……。じゃあさ、電気がたくさん要りそうな機械工業系の人たちはどうなの? ドイツは自動車産業とか有名だよね? 電気が足りないと生産できなくなっちゃうよね?」
私「そういう産業の人も、脱原発政策を受け入れて、将来に向けて準備中だと思うよ。そもそもドイツが完全脱原発を目指してるのは2022年。あと10年の猶予があるから今すぐどうこうってことでもないし。それに電気がまったくなくなるわけじゃなくて、ほかのやり方で発電した電力を使えばいいわけだしね。あと、さっき言った『国際競争にさらされてる一部の企業は賦課金を免除』っていう法律もあるから、機械工業なんかは電気は安く使えるしね」
友「へえ。じゃあ、電力会社の人は? 日本では、東電はさすがに小さくなってるけど、関西電力とか九州電力とかは、まだまだ原発を推進したいと公言してるよ」
私「電力会社も『原発事業には将来がない』って言ってるよ。電力事業そのものをやめるわけじゃなくて、発電方式の比率を変更するというだけだから、時間をかければ対応できるっていう考え方じゃないかな」
友「ふ〜ん、みんな前向きなんだね。原発推進派が言いたいこと言ってる日本とはずいぶん違うね」
私「うん、あと、電力会社も一般企業も、『国民がみんな脱原発を望んでるのに、下手なこと言って、自社商品をボイコットされてはたまらん』っていうのもあるんじゃないかなー。ドイツでは、電力会社を自分で選べるからね。脱原発を支持するために、あえてエコな電力会社を選ぶ人もいるよ」
友「いいね。日本では選べないもんね」
私「電力以外でも、普段の生活で使う商品もエコ製品を選ぶ人が多いしね。『スポンサーがエコじゃないから』って、サッカーチームの会員をやめちゃう人までいるし、ドイツ人は、自分の政治信条をちゃんと生活に反映させてる人が多いよ」
友「サッカーファンまで! すごっ」
私「そう。ドイツは、一般国民の主張がすごく強くて、デモとかもガンガンやるのね。ちょっとデモしただけで『プロ市民』だの何だのと揶揄される日本とはだいぶ違うね」
次回は、日本人のよくある疑問である、「ドイツはフランスの『原発電気』を買ってる?」「脱原発を決めた政治家が批判された?」「日本はドイツ人にはどう見える?」にお答えしたいと思います。
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