コロナ対策措置に苛立ちだした市民

ツェルディック 野尻紘子 / 2020年5月17日

新型コロナウイルスの拡散を防ぐために実施された規制措置が、ドイツの憲法である基本法にうたわれている行動の自由や集会の自由などの基本的権利を制限するとして、それに反対する人たちのデモが数週間来続いている。ここにきて、そのデモに極右や「新型コロナウイルスは疑わしい権力の陰謀だ」などと主張する人たちが大勢便乗参加し、規律を乱したり暴れたりして問題を起こしている。更に、行動を束縛されて不満に思ったり苛立ったり、あるいは自分の将来を心配したりする市民もそれに加わり、各地の大都市の広場で抗議運動を展開している。これが大きな社会問題に発展する可能性は少なくない。

5月9日土曜日、ベルリンの中心にあるアレクサンダー広場には何かしらの怒りを抱いた1200人の人たちが集まった。コロナウイルスの感染を防ぐために、今のところベルリンでは一回のデモに参加が許される人数は50人だ。しかし、この集まりは申請さえもされていなかった。集会の際には、他者との間に1.5 m の距離を保たなければならない。マスクをすることも勧められている。しかし大半の人たちは、規制に従っていなかった。出動した警官の数は500人。反発的、攻撃的な雰囲気が漂う中、警官は当初行動を控えていたが、集団の中から、国を代表すると見られている彼らを罵倒する声があがり、彼らに向けてペットボトルが投げつけられた。怪我をした警官は8人にも及び、結果的に一時的に拘束された人も86人にのぼった。拘束の理由は公務執行妨害、治安妨害、傷害行為などだった。

同じ日、ベルリンの連邦議会前には300人強の市民が集まり、コロナ規制に反対する声をあげた。申請されていた参加者数は僅か10人だったという。「コロナウイルス拡散の陰には政治家の企みがある」などと錯乱した主張をする今人気のスター的存在のコック、アティラ・ヒルデマン氏などが演説をした。ここでも多数が、侮辱・傷害行為、武器麻酔剤法違反などで告発された。一方、数週間前からベルリンの中心部にあるローザ・ルクセンブルク広場で続いているコロナ規制反対のデモには100人以上が参加したが、ここでは上のような事件は発生しなかったという。

同じ5月9日、バーデン・ヴュルテンベルク州の州都シュトゥットガルトのヴァーゼン広場で行われたデモには1万人近くが参加した。この州にはデモ参加者の人数制限は一応ないことになっているのだが、参加者数を5000人としたデモの申請には許可が下りていなかったという。ここでも1.5 m の他者への間隔を守ったりマスクをしたりした人たちは少数派に属した。デモを申請したのは「水平思考」というイニシアティヴの創始者である事業家のミヒャエル・バルヴェークという人物だ。このほど「抵抗2020」という党を結成したともいう。メインスピーカーは、極右ポピュリストのユーチューバー、ケン・イェプセン氏とハノーヴァー大学の公共財政学者のシュテファン・ホムブルク氏だった。ホムブルク氏は「コロナ危機は嘘デタラメ。これは完全なスキャンダルだ」と述べ、(注意すべき)1930年代のナチのイデオロギー台頭と似ているとした。イェプセン氏は「メルケル政権が指定した基本的権利の制限は完全に行き過ぎだ」などと断言し、「国とロビイストは、どのみち国民をアプリで監視する予定だったから、ウイルスをその口実に利用している。連邦議会の調査委員会とメルケルの辞任は必須だ」など述べた。

集まった人たちの掲げるプラカートには「国粋主義的抵抗」、「我々が国民だ」、「メルケルは辞めろ」、「ゲイツにチャンスを与えるな」などというものもあった。ここにビル・ゲイツ氏が登場するのは、同氏がコロナウイルスに対する予防接種の開発を支援していることに関係がある。ドイツでは数ヶ月前に、はしかに対する予防接種が学童や幼稚園児に義務づけられるようになったのだが、予防接種は体を傷つけるものだとして強く反対する人たちが少なからずいるからだ。デモには左右双方の過激派の人たちや予防注射反対者が多く参加していたようだ。

ドイツ西部のケルンで同じ日に行われたデモでは、数百人がコロナ規制に反対し、 周辺にいた人たちに「マスクをはずそう、はずして店に入ろう」などと、規制に逆らうことを呼びかけた。ドルトムントでは許可の出なかった右翼の集まりで、公共テレビ局の記者2人にある男が怪我をさせた。そこでは「コロナの独占」などという言葉が聞かれたという。この他、バイエル州の州都ミュンヘンや ニュールンベルクでもデモがあり数千人が参加した。また旧東独地域だったテューリンゲン州の州都エアフルトで行われたデモでは、「コロナ規制は酷い。東独時代でもこんなにたくさんの制限はなかった」と、ある中年女性が語っていた。

ドイツ第一公共テレビがこのほど行った世論調査では、国民の65%が、連邦政府のコロナ危機管理に対し「満足、あるいは非常に満足」と答えている。「もし次の日曜日に総選挙があったら、あなたはどの党を支持しますか」という質問に対しても40%近くが、与党のキリスト教民主同盟と姉妹党のキリスト教社会同盟(CDU・CSU)を上げている 。連立相手の社会民主党(SPD)が弱っているとはいえ、連立政権は過半数を大きく上回る十分な支持を得ている。

それなのに他方で、ドイツで施行されたロックダウンや商店内でのマスク着用の義務に反対し、コロナ危機は陰謀を企む人たちの仕業だと主張したり、異様なフェイクニュースや噂を広めたりする攻撃的で正気でないような人たちの集まりに参加する市民が増えているのだ。治安当局が「過激派の人たちが、彼らのスローガンを通して一般市民を過激化する恐れがあると心配している」とも伝わってくる。2015年の難民流入の際にも、そのような傾向が見受けられたし、潜在的なコロナ否定者は少なくないという。ドイツ社会は二つに分かれてしまうのだろうか。

このような現象は、集会禁止や 接触制限などを内容とする厳しいロックダウンが3月半ばに施行され、その効果で、ドイツがコロナ感染者の急増を抑えることに成功し、また、イタリアやスペインのように病院の集中治療ベッドが不足だったために、大勢の死者を出すことも避けられた後に発生してきた。具体的には、4月15日の1度目のコロナ措置の一部緩和が決まった後だったと思う。この日、メルケル首相と全国16州の州首相は話し合いで、例えば、それまで開店を許されていた生活必需品を扱う店(主に食料品店)や薬局以外の商店にも開店を許すことを決めた。実は、その開店が許されるのは当初、売り場面積が800平米までの店とされたのだが、州によってはその決まりを拡大解釈して、もっと大きな店舗の開店を許したところもあった。開店の権限は州にあるので、その点は構わない。しかしそれが導火線となって、その後、16州の間で一種の規制緩和競争のような事が始まった。

4月30日と5月6日にあったメルケル首相と全国16州の州首相の話し合いでも、どこまで規制を緩和するかが議論の中心になった。用心を強調するメルケル首相の意見はもはや通らなくなり、16州の歩調がだんだん乱れてきた 。州首相は、今こそが自分の実力や行動力を発揮する時だと言わんばかりに、いろいろの緩和を提案し出し、その一部を実施した。幸い、新しいコロナ感染者や死者の数は減ってきている。そして市民もだんだん、コロナ規制はもう要らない、いや、もともと厳しすぎで不要だった、店やレストランを閉めて収入源を絶ったり、外出を控えてつまらない思いをしたりしたのは無駄だったかもしれないと考え出した。1日も早くホテルを再開したい、旅行の自由を戻して欲しいとも思い出したのだ。「不当な措置」に怒りを覚えている人たちが次第に増えている。

真剣な危機感が国内に広まっていた間は政権の出番で、野党が口を挟む余地は少なかった。しかしコロナ危機が下火になってくると、野党側からも批判の声が上がる。自由民主党(FDP)は、もっとどんどん規制緩和を進めるべきだと強調する。緑の党は、経済の立て直しの際には、コロナ危機を機にもっと環境保護を考慮しなくてはならないと主張する。そして右翼ポピュリスト政党であるドイツのための選択肢(AfD)は 、盛り上がってきた抗議デモの参加者たちを取り込みたいと躍起だ。

ドイツは今、コロナ危機の最初の段階を乗り越えたところにいる。市民の大多数はまだ用心深い行動を支持しているし、賢い判断を望んでいるように見える。しかしベルリン州政府のアンドレアス・ガイゼル内務相は、「厳しい規制を受け入れようとする人が目に見えて減ってきている。市民は規制にうんざりしているのだ」と語る。そして、「ただ、規制を今全て取り除いてしまうことは軽率だ。コロナ感染者増加の第二の波が押し寄せてこないためにも、住民を納得させることは重要だ」と続ける。コロナ危機が後に残す経済的なダメージは巨大だ。これからはそれも批判や抗議の対象になるだろう。クリスティーネ・ラムブレヒト連邦法務相は「政府は、個々の政策の理由づけをはっきりと国民に知らせる必要が今まで以上にある」と強調する。

 

 

 

 

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