コロナ第二波で、ドイツでは部分的ロックダウン開始

池永 記代美 / 2020年11月1日

10月25日にドイツでは夏時間が終わり、標準時間に戻った。時計の針を1時間遅らせたために日没は逆に1時間早まり、夕方の5時ごろに日が暮れる様になった。秋の日はつるべ落としというが、日がどんどん短くなると感じる11月は、1年の中で最も気持ちまで暗くなる時期だ。今年はそんな憂鬱な気分にさらに拍車がかかりそうだ。コロナの第二波に襲われ、11月2日から全国で部分的にロックダウンが行われることになったからだ。

フランスやスペインなど春先にもコロナ禍で苦しんだ国々で、9月の半ば頃から一日の新規コロナ感染者の数が1万人を超え始めた。秋にやって来るだろうと予想されていたコロナの第二波に見舞われたのだ。ドイツでの日々の新規感染者の数はその頃はまだせいぜい2千人台で、 第二波を逃れられるのではないかと密かに期待する向きもあった。そんな時にメルケル首相が所属政党キリスト教民主同盟の会合で、クリスマスには感染者数が1万9200人になるかもしれないと語ったという話が漏れ伝わった。その頃、感染者の数は4週間ごとに倍になっていたので、2400人が3ヶ月後には1万9200人になるという計算をメルケル首相はしたのだ。それに対して早速、それは全く非現実的な紙の上での計算でしかない、そんな数字を挙げて市民を不安に陥れるとはけしからんといった批判の声が上がった。そこには、ドイツはコロナ第一波を欧州の他国よりうまく乗り切ったという自信があったのかもしれない。しかし、それは甘かった。

8月から9月にかけては、 ドイツより感染状況の悪い国で夏休みを過ごしてコロナに感染して帰国する人が多かったことが、ドイツの感染者数増加の理由として挙げられていた。しかし、全ての州で夏休みが終わった9月中旬からは、国内で感染する人の割合が高くなっていった。また、最初は人口の密集しているベルリンなどの大都市を中心に感染者が増えていたが、ドイツ全国にその傾向が広がっていった。ドイツでは過去7日間に人口10万人につき50人以上の感染者が出た場合、コロナ危険地域とみなすことになっているが、国立の感染症研究機関でコロナ対策を統括するロベルト•コッホ研究所の状況報告(2020年10月30日付)によると、現在、全国412地域のうち329地域が危険地域になっている。それどころかそのうちの18地域は、過去7日間に人口10万人につき200人以上もの感染者がでたという超ホットスポットだ。

過去7日間で10万人につき何人が感染したかを示す地図。黄色は5人〜25人以下、オレンジは25人〜50人以下、赤は50人〜100人以下、濃い赤は100人以上。©️ロベルト・コッホ研究所

 

その報告書によると、 家族や友人、企業内での祝い事の集まりや、老人施設や介護施設、もしくは職場で感染が起きているという。しかし、それは場所が特定しやすいから分かったことであって、いつ、どこで感染したか感染経路が不明なケースが非常に増えているそうだ。それが今のような爆発的な感染者数増加をもたらしているのだ。10月31日現在、ドイツの1日の新規感染者の数は1万9059人、累計感染者数は51万8753人だ。コロナ第二波は、第一波よりずっと激しい。第一波の最多感染者数6294人 (3月28日) を上回る感染者6638人が10月15日に出たが、その新しい記録は次々に破られ、1日の感染者の数は10月15日から約2週間のうちに3倍近くに増えてしまった。

メルケル首相は毎週新しいビデオメッセージを公開するが、10月24日は「私の伝えたいことは先週と同じです」と解説した上で、1週間前と同じビデオを再び流した。その内容は、できるだけ人と会うことを避け、旅行も諦めるようにと切々と市民に訴えるものだった。©️連邦情報庁

感染者数が急激に増え始めた10月14日、メルケル首相と16州の州首相によるコロナ対策会議が開かれた。そこでは屋外でも人の多い場所ではマスクの着用を義務付けることや、コロナ危険地域では飲食店は23 時から朝の6時まで閉店すること、祝い事などで集まれる人数も10人までにするといったことが決まった。しかし2週間経っても、これらの対策の効果は見られなかった。 そこで 10月28日に、再びメルケル首相と16州の州首相が話し合いを行い、予想されていたように部分的ロックダウンが11月2日から11月30日まで行われることが決まった。

 

今回の措置が部分的ロックダウンもしくはロックダウン•ライトと呼ばれるのは、春先のロックダウンとは異なり、学校や幼稚園などは通常通り開いたままで、食料品などの生活必需品以外の品物を売る商店も営業が続けられるからだ。教育と経済への負の影響をできるだけ防ぐというのは、第二波が来る前からドイツ政府が明らかにしていたことだ。ではどの分野が制約されるかというと、まずは他人との接触をできるだけ避けるという接触制限だ。具体的には、公の場では2世帯に属する10人までしか集まれなくなる。自宅での集まりについても、それにならうよう呼びかけられている。これにより、他人との接触の機会を75%減らすのが目標だ。もう一つの柱は経済的、社会的活動の制限だが、これは不特定の人が集まる場所を閉鎖し、他人との接触を減らすという接触制限の延長線上の対策でもある。閉鎖の対象になったのは全ての飲食店(ただし配達や持ち帰りは可能)、それにプールやフィットネス•スタジオなどだ。また、コンサートやオペラ、映画上映は中止になり、観光目的の宿泊も禁止される。感染者の数を7日間で10万人につき50人以下のレベルに押さえ込み、感染者と接触した人の割り出しを可能にして感染ルートを絶ち、感染状況を沈静化するのがこの部分的ロックダウンの目的だ。

ベルリンでは10月半ばから、人の混み合う場所では屋外でもマスクを着用することになった。これは第一波の時にはなかったルールだ。

メルケル首相と州首相の会議が開かれた翌日、10月29日の連邦議会の施政方針演説でメルケル首相は、「人類が今までの歴史の中で、たくさんの大きな問題を解決してきた様に、 このパンデミックも克服できるはずです。一人一人が力を合わせることで、積極的に貢献できるのです。積極的にそれに貢献するというのはこの場合、どうしても必要ではない場合以外、人と接触しないことです。それが私たちのパンデミック撲滅の対策の核心です」と訴えた。そして「今年の冬は厳しいものになるでしょう。その4ヶ月は長くて、厳しいものになるでしょう。しかし、その冬もいつかは終わりを迎えます」と、まるで自分に言い聞かせるように語った。

今回取られた措置について疫病学や集中医療の専門家たちは、本当はもっと早くこの様な対策をとるべきだったが、望ましい効果をもたらすだろうと評価している。経済的影響については、連邦政府は今回の部分的ロックダウンで損害を被る企業に対して、昨年同時期の売り上げの最高75%までを補償する予定で、90億ユーロをそのための資金に当てるという。しかし飲食業界や観光業界からは、今まで衛生対策を取り入れたり、それに必要な投資を行ってきたりと努力してきたのに、再びロックダウンになり、先行きを不安視する声が出ている。一部のルール違反のために業界全体が規制を受けるのは、確かに不公平だと私も思う。

批判の声は連邦議会でも聞かれた。今回決まった措置について、コンサートが開けないなど職業の自由を行使できなくなった人は、基本権の侵害に当たるとして法的手段をとるべきだと、野党自由民主党の議員で連邦議会副議長でもあるヴォルフガング•クビッキー氏は発言した。このように基本権侵害に関わる重要な事柄を、国民の代表である連邦議会で公に議論することなく連邦首相と16人の州首相だけで決めることを問題視する声は、野党内だけでなく、連立与党の社会民主党も含めて大きくなってきている。それは対策の正当性を弱め、結果的に国民が受け入れにくいものになるからだ。

今回の措置の効果がどのくらい現れるか、2週間後に分析し、その状況によって措置の内容を変更していくことがすでに決まっている。 もし状況が改善すれば、クリスマスには家族や友達と集まって楽しく過ごせるのではないかと期待する声がある。しかし、ちょっとした気の緩みをコロナ•ウイルスは見逃さない。私としては、前回のロックダウンは、一年で一番良い季節の春から初夏にかけてのことだったので、新緑の中を散歩したり、公園で花を眺めたりして気分転換ができたが、寒さも厳しくなる11月にはそのような楽しみはないのが辛い。今回の部分的ロックダウンが最後のロックダウンであることを望みたいが、それは本当に、市民一人一人の行動にかかっているのだ。感染しても症状の出ない若い人たちにも、是非協力してもらいたい。

 

 

 

 

 

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