紺碧のギリシャの海とプラティックゴミ

池永 記代美 / 2019年8月4日

二年ぶりにギリシャのエーゲ海で休暇を過ごした。今回もヨットに寝泊まりし、島から島へと航海したので、多くの時間を海で過ごした。燦々と輝く太陽、紺碧の空と海、地震や火山爆発がもたらした起伏の多い荒々しい地形の島 、そこに点在する白い街並み。エーゲ海の風景は、まるで絵葉書のようだった。それでも、二年前の休暇では、時々幻滅させられたことを思い出した。

それは、プラスティックゴミが多かったことだ。遠くからみると美しい砂浜に見えても、ビニール袋や割れたおもちゃのかけら、海から打ち寄せられた漁網の切れ端などが散乱していた。ゴミ箱が置いてあっても、たいていゴミが溢れ出していて、プラスティックの袋が風に吹かれて散らばってしまうのを何度も目にした。砂浜を歩いて目を凝らしてみると、砂粒ぐらいの大きさに砕かれた、ビンクや青などの色とりどりのプラスティックのかけらが、たくさん砂に混ざっていることもわかった。そして何より残念だったのは、スノーケリングをするために水中眼鏡をつけて海に潜ると、そこでも海藻の間でゆらゆら揺れるビニール袋、海底に横たわった壊れたボートの船体の一部など、多くのゴミを見てしまったことだった。

昨年は、美しい砂浜でもゴミが散らかっていたり、海の中でプラスチックゴミを見ること多かった。

砂浜では割れると危険なガラスのコップを使えないこともあって、ビーチバーはたいていの飲み物をプラスティック容器に入れて提供する。ギリシャで人気のあるフラッペというアイスコーヒーを頼むと、 透明なプラスティック容器に入れ、穴のあいたプラスティックの蓋をして、その穴にストローを突き刺して出してくれる。それにギリシャで買い物をすると、店の人が、とにかく何でもプラスティックの袋に入れてしまうように感じた。例えば、大きなスーパーマーケットのない小さな島では、雑貨店で食料品も買うのだが、野菜や果物などは裸でバラ売りにされていても、レジではたくさんのプラスティックの袋に、商品ごとに分けて入れたりする。おまけに日焼け止めのような容器に入っているもの一つ買っても、プラスティックの袋に入れてしまう。もちろん店としてはサービスでやっていることだが、これは感心しかねるサービスなので、レジで店の人がプラスティックの袋に手を伸ばす前に、袋に入れるのを断るようにしていた。

ところが今年訪ねてみると、砂浜や海の中のプラスティックゴミが二年まえに比べて随分と減っていた。おかげで砂浜を歩いても、海に飛びこんでも、がっかりすることがほとんどなかった。今回一緒に休暇を過ごした仲間の中に、この十年以上、毎年のようにギリシャの海を訪れている人がいたが、今年ほどプラスティックゴミが目立たなかったのは初めてだと言っていた。

しかしまだプラスチックのストローがたくさん使われていたのは残念だった。

観光業が大きな収入源であるギリシャにとって、環境を守ることは大切なことだ。だから、地方自治体や地元のボランティアが砂浜などのゴミの回収に力を入れるようになったと、ギリシャのある島で年の半分を過ごすドイツ人の知人から聞いた。 それにギリシャの人々の環境への関心も、少しずつ高まっているそうだ。しかしプラスティックのゴミが減った最大の理由ではないかと私が読んでいるのは、今まで無料だったプラスティックのレジ袋が、2018年から有料になったことだ。2018年には袋一つが3セント(4円弱)だったのが、2019年にはそれが7セント(8円強)に値上がりしたそうだ。今まで無料で使い放題だったものが、有料になったことは、プラスティックはなるべく使わないほうがいいという、人々の意識改革につながったはずだ。その他にも、喜ばしい変化が見られた。今までは少量の野菜や果物を仕分けていれるのに、薄いビニール袋が使われていたが、今回はドイツの青果店や有機商品専門店などでよく使われている紙袋を使っている店が多かったことだ。また、 同じくドイツでよく見られる店のロゴが印刷されていて、何度も使える布製の買い物袋を売っている店もあった。

いずれにせよ、欧州連合(EU)に加盟しているギリシャは、EUの政策に従って、2021年までに、使い捨てのプラスティックの容器やストローの生産や販売を禁止しなければならない。その頃には、もっと美しくなったギリシャの海が、私たちが訪れるのを待っているのだと思うと、心が踊ると書きたいところだが、心配なのは大きなプラスティックゴミが減っても、目に見えない小さなマイクロプラスティックがたくさん海の中を浮遊していることだ。次回はそのことについて、ドイツでの動きを紹介したい。

 

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