石炭を燃料とする火力発電の輸出にも待った?
ドイツ政府はこの6月に、民間企業の原発輸出に対して国の保証を断ち切る方針を打ち出したが、これからは地球温暖化の原因となる石炭を燃やす火力発電に関連する技術の輸出にも国の援助をなくすかもしれない。バーバラ・ヘンドリックス連邦環境相が提案している。独全国紙「フランクフルター・アルゲマイネ」の報道による。
「ドイツが、環境保護と地球温暖化防止のために、石炭を燃焼して二酸化炭素を排出する火力発電から徐々に撤退しようと努力しているのに、この技術を国外で推し進めるのはおかしい。促進をやめるのは、我が国の気候・環境政策に一致する」と環境相。「国の金融機関であるKfW信用銀行による融資は、ドイツの2050年までの広範囲にわたる脱石炭政策に対応させ、他の民間融資が不可能で、技術的及び経済的に他の選択肢がない最高の技術を持つプロジェクトのみに限るべきだ」と発言した。関連省庁との話し合いを始める一方、政府による石炭技術の輸出促進の審査を提唱し、結果を10月までに出すと語る。
環境相が輸出政策の変化を求める背景には、まず、世界銀行の政策の変更がある。同行は、石炭火力発電の促進を、最貧国、あるいは石炭でしか発電できない国だけに限っている。また、KfWが、オーストラリアの自然保護地域グレート・バリアー・リーフ近くに計画されている石炭荷積み用の港湾施設の建設を融資することを、ドイツの環境保護団体が禁止するよう要求していることへの反応だとも言われる。
他方、KfWの監査機関でもある連邦経済省は、援助の中止にあまり乗り気でないといわれる。石炭の燃焼による二酸化炭素の発生は迅速に、そして持続的に削減されるべきだが、その目的達成のために最も有効なのが火力発電設備の輸出援助の禁止や縮小かどうかは分からないというのだ。同省の考えはむしろ、最新の技術を備えた石炭火力発電設備の輸出は、根本的にこれからも可能であるべきだというものだ。
KfWは既に再生可能エネルギー促進の融資を増やし、石炭技術の融資は減らしているという。しかも火力発電の場合、新規設備では導入する石炭エネルギーの少なくとも43%が電力に変換されることが条件で、既存設備の近代化の際には効率が格別良くなる場合のみに融資しているという。ちなみに、同行は2006年〜2013年に、石炭技術関連の融資28億ユーロ(約3920億円)に対し、気候や環境保護関連には1730億ユーロ(約24兆2200億円)融資した。再生可能エネルギー関連の融資額は、2013年だけをとっても66億ユーロ(約9240億円)に達したという。
発電設備メーカーはヘンドリックス環境相の発言に対し「国際競争に国の援助は欠かせない。火力発電所はどのみち建設される。問題は誰が建てるかだ。我々か、それとも競争相手か」と警鐘を鳴らしている。ドイツ産業連盟の代表は「環境保護を真剣に考えるなら、その国その国に適した対策を選ぶべきだ」と語る。
KfWによると、貧困国での電力の需要を満たすには、まず石炭を使った火力発電が欠かせないという。需要を完全に満たすような再生可能電力装置を設置するには資金がかかりすぎるし、そのような 国には、石炭が豊富なケースも多い。但し、KfW内には、石炭技術推進派と反対派があるという。
ヘンドリックス環境相の発言は、ドイツ及び世界での二酸化炭素抜きの発電という目的達成への第一歩を意味すると同紙は分析する。そのためにはドイツにおける段階的な脱石炭火力発電が必要になり、今年11月には「ドイツ環境保護アクション・プラン」が閣議決定される見通しだが、環境相はそこに石炭火力発電の輸出援助の中止も盛り込みたいもようだ。