欧州の中央に位置するドイツ・送電網の重要性再確認 

ツェルディック 野尻紘子 / 2017年6月25日

ドイツの四つの送電網運営会社の一つであるアンプリオンによると、ドイツはこの冬、何度もブラックアウト寸前の状態に陥ったという。理由は、いくつもの危険な要素が重なったことによる。ドイツのエネルギー転換が可能なのは、フランスから原発の電力が輸入出来るからだという伝説に近い噂が日本では広まっているというが、それは事実に反する。

欧州では日本と異なり隣接する国々の送電網が繋がっており、相互に電力を融通し合っている。アンプリオンの送電網は西ドイツ地方でオランダ、ベルギー、フランスとの国境で相手国の送電網に接続している。隣国で電力の需要が増加すると、電力は需要のある隣国の方に流れて行ってしまう。そのために同社はこの冬、足りない電力を補充して送電網の安定を保つ目的のために同社がリザーブ用として準備している石炭とガス火力発電所を何度も稼働させた。その経費は例年とは比較にならない2000万ユーロ(約24億8000万円)にも達したという。

昨年12月から今年2月にかけては、まずフランスとベルギーで複数の原発が、続いて南ドイツでも原発が一基、予想外に停止した。オーストリアやドイツ、スイスにまたがるアルプスの発電用貯水池では水位が前代未聞というほど下がり、各地で発電能力が低下した。そしてドイツでは風があまり吹かず、太陽もろくに出ない薄暗い日が長く続いた。その一方でこの時期には、今年はフランスでも例年以上の寒い天候が続いて、電力で暖房を賄う同国の電力需要が急増した。

このように緊迫した状態が起こりうることは以前から考えられていた。しかし今までに、このように危険な状態は誰も経験していなかったという。「12月から2月までの夕方から夜にかけて、我々は何度もギリギリな状態に置かれました。我々は限界の直前まで行っていたのです。もし太い送電網の一本でもが負担過重で電力が流れなくなったとしたら 、連鎖的に同じ現象が起きて、あちこちで停電になっていたかもしれません」とアンプリオンの技術担当専務は語る。例えば1月18日には、安全を保つために最小限必要だと定められている余剰電力が一時的に不足した状態で送電網を運営しなければならなかったそうで、同社はそのことを連邦経済エネルギー省と連邦ネットワーク庁に報告している。

しかしこの冬の状況は非常に特別で、同様のことが再び起こることはないだろうとアンプリオンの専務は考えているそうだ。同氏は、連邦ネットワーク庁が、冬の発電容量のリザーブを送電網運営会社に義務付けていることも正当だとしている。「ただ、今年の経験は、機能する送電網の重要性を目の当たりに示しました。そして2022年以後にドイツの全ての原発が停止した際には、送電網は一段と重要になります」と同氏は強調する。原発停止後の南ドイツは、その大量の電力の需要を、 風力発電の活発な北ドイツからの送電に依存することになるからだ。

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