在ドイツの米核兵器維持に、過半数が賛成

池永 記代美 / 2022年6月20日

2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は、ドイツの政治や経済に大きな課題をもたらしただけでなく、物価上昇などを通じて市民の日常生活にも影響を与えている。それだけでなくロシアによるこの戦争は、核兵器に対するドイツ人の意識も変えたことが、ある世論調査でわかった。

この世論調査は、ドイツ 公共第一テレビ (ARD) の報道番組「パノラマ」が調査会社infratest dimapに委託して行ったもので、有権者1337人に、ドイツに配備されている核兵器などについて意見を尋ねた(調査期間5月30日〜6月1日)。そしてその結果が、同番組の6 月2日の放送で発表された。

日本ではあまり知られていない事かもしれないが、ドイツ西部ラインラント•プファルツ州にあるドイツ空軍基地ビュッヒェルには、アメリカの核兵器が20発配備されていると言われている。「言われている」と書いたのは。ドイツ政府はこの基地にアメリカの核兵器が配備されていることを正式には認めていないからだ。しかし、アメリカ側の資料などから、その存在はほぼ確実だそうだ。この核兵器は北大西洋条約機構(NATO) の「核の共有」の一部で、緊急時にはドイツ空軍の戦闘機がこの核兵器を目的地まで運ぶことになっている。

今回の調査ではまず、ドイツに配備されているアメリカの核兵器をどうすべきか、意見が問われた。その結果は、「最新の物にして数も増やすべきだ」と答えた人が12%、「今のままの状態で配備し続けるべきだ」と回答した人が40%、それに対して「撤去すべきだ」と述べた人が39%、「わからない」という人が6%、無回答が3%だった。つまり、現状維持かそれ以上の核配備を望む人が52%で、撤去を求める人より多いことが分かった。同番組によると、過去の調査では常に、核兵器をドイツから撤去することに賛成する人が多数派だったそうだ。核兵器に反対するある市民運動家によると、今までは撤去支持派が常に70%ほどいたという。冷戦中の1980年代初頭には西ドイツの各地で、米ソの核軍拡競争に反対する人たちが30万人から50万人も集り抗議集会を開いたものだが、隔世の感がある。

ドイツの人の核に対する意識が変わった理由は、ウクライナ侵攻後、ロシアのプーチン大統領が核兵器の使用も辞さないという態度を示したことにあるといって間違いない。プーチン大統領の指示を受けたロシアの核兵器運用部隊が「特別態勢」に入ったというニュースが伝わると、「冷静時代に西ベルリンに作られた核シェルターは今も使えるのか? いったい何人が核シェルターを利用できるのか?」といった話題が、ベルリンの地元紙で取り上げられるようになったほどだ。今回このような調査結果が出たのは、何をするか全く予想がつかないプーチン大統領から身を守るには、「核の抑止力」が必要だと考える人が増えたからだろう 。但し、これは一時的な反応で、ウクライナでの戦争が終結すれば、ドイツ人はまた以前のように核兵器に懐疑的な態度に変わるのではないかという指摘もある。

今回の調査の2番目の質問は、ドイツ自身が核兵器を所有すべきかという質問で、その結果は、「自ら使用することができる核兵器を所有すべきだ」と答えた人が20%、「そのような核兵器を所有すべきではない」と回答した人が71%、「わからない」とする人が6%、無回答が3%だった。しかしドイツは、冷戦が終了し東西ドイツが統一するに当たって、東ドイツと西ドイツ、そして第二次世界大戦で勝利を収めた連合国側でドイツを占領してきた英米仏ソ連の4カ国がドイツの主権回復などを決めた「2プラス4条約」( 1990年9月12日署名、1991年3月15日発効 )で、核兵器、生物兵器、化学兵器の所有、管理、製造を放棄している。そうしたことを考えると、ドイツが核兵器を持つことが許されるとは思えない。

しかし 「パノラマ」では、ドイツ独自の核兵器とまで言わなくとも、欧州連合(EU)独自の核兵器プログラムを推奨する声があることが紹介された。具体的にはEUで唯一の核保有国であるフランスの核兵器をEUの安全保障に利用しようという意見だ。このような意見が出てきたのは、例えばトランプ前米国大統領が再選されれば、アメリカがドイツやヨーロッパにとって信頼できる軍事パートナーであり続ける保証はないし、アメリカがNATOから抜けることもあり得るからだ。

こうした議論は、核兵器を持っていることが、戦争の勃発や戦争の拡大を妨げるという「核の抑止力」を肯定した上で成り立っている。しかし、本当に「核の抑止力」説は今も有効で、望ましいものなのだろうか?

ベルリンにあり、ドイツ連邦政府への助言を行っている「学術政治財団」の研究員で安全保障問題が専門のクラウディア•マヨール博士は、「核の抑止力」は今も有効で、それはウクライナでの戦争にNATO加盟国が直接加わらず、それが戦争のNATO圏への拡大を防げていることでも証明されていると説明する。しかし核兵器は倫理的に非常に問題があり、許容できるものではないと語っている。もし核兵器が使用されれば、人間にも環境にも長期間に渡る甚大な被害を与えることは言うまでもない。しかし核兵器は存在するだけでも、恐怖をもたらすのだ。「パノラマ」の番組内では、ビュッヘルの住民が「もし核戦争になれば 標的になるかもしれないので怖い」と語っていた。また、2017年にノーベル平和賞を獲得した市民団体「核廃絶国際キャンペーン (ICAN)」のドイツ代表ザンシ•ホールさんは、「何百万もの人の命を脅かし続けることで成り立つ安全保障など、あってはならない」と言っている。

昨年12月に、社会民主党、緑の党、自由民主党の3党による連立で成立したショルツ政権は、政権公約とも言える連立協定の中で、「核兵器のない世界を目指す」と明記している。その一方で、同じ連立協定の中で「核の抑止力の可能性を維持する」ことも約束している。こうした一見矛盾するように見えるドイツ政府の核兵器に対する態度は、アメリカの核兵器を運搬するために、アメリカから新しい戦闘機F-35を購入すると決定しつつ、第一回「核兵器禁止条約締約国会議」に、 オブザーバーとして参加するという行動にも見られる。NATO 加盟国でこの条約に署名している 国はなく、加盟国として今回オブザーバー参加するのは、ドイツとノルウェーだけだ。その第一回「核兵器禁止条約締約国会議」は、6月21日からウィーンで開かれる。核戦争への恐怖が現実的になっている今、どのような議論が行われ、オブザーバーとして参加するドイツがどのような役割を果たすことができるのか、注目したい。

 

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