1kWh = 4人前の食事がつくれる?

やま / 2011年11月1日

「1 kWhで何ができる」の編集に当たって調べてみると、「4人前の食事がつくれる」とある電力会社のウェブサイトに出ていました。電気コンロのプレートの定格消費電力、大が2000ワット、小が1500ワットです。となると大を使って30分、小で40分程料理ができる計算になります。

スイッチを入れさえすれば煮物ができる便利な電気プレートを前にして、ふと新聞の見出し「空気汚染、命取りになるコンロの火」が目に入りました。記事の横の写真には、コンロの火に湯気のたっている鍋がかかっています。小さな子供たちが母親のそばで出来上がるのをじっと待っています。この2つの現実を比べながら、私たちはこの便利さを享受するだけでよいのだろうかと複雑な気持ちになりました。

2011年10月14日付け「ジュートドイチェ・ツァイトウング(Sueddeutsche Zeitung,南ドイツ新聞)」の記事(抄訳)

記者 セバスチャン ヘルマン (Sebastian Herrmann)

  • 狭い部屋の中で火を焚き、その時、煙を吸入することによって毎年世界約200万人が死亡する。そのうち90万人が5才以下の幼児。死亡原因としてはマラリアを上回る。
  • 世界の人口の半分が貧困ライン以下の生活をしている。家に残り、食事を作るのは女の仕事。そのために枝や薪を燃すしかない。特にこのような木質燃料はいぶる。母親のそばにいる小さい子供たちがこの煙を いっしょに吸う。呼吸器に与える影響は喫煙者の場合と同じだ。
  • 貧困のため、エネルギー源は安価な薪炭材に頼らざるを得ない。その結果、ますます森林破壊が進む。世界銀行は、今年発表したレポートで、何百万ヶ所の囲炉裏から発生する排気ガスは健康に対して危険であるだけではなく、気候変動にも大きな影響を与えていると強調している。

 

北半球、ヨーロッパ、ドイツ、ベルリン、一般家庭のある台所:

一世帯当たりの年間平均電力消費量は3600から 4000キロワット時。その中の約10パーセントが調理に使われています。計算してみると毎日平均約1キロワット時。これでは料理をやめるぐらいしか節電の方法がないのでは?
台所はオール電化。調理プレートを始め、オーブン、電子レンジ、冷蔵庫、冷凍庫、ワインセラー、アイスメーカー、トースター、ミキサー 、ジューサー、コーヒーメーカー、多くの電化製品が必需品とされています。
暗い所では料理はできません。食器棚、流し、調理台用にそれぞれ照明がつけられています。おかずがよりよく、おいしく見えるように意図されたスポットライト。
居間、食堂、厨房の間には仕切りがなく、更に吹き抜けで寝室まで全てオープンな間取り、気になる焼魚の臭いは高性能のレンジフードで直ちに外へ排出できます。
祖母から母親へ、母親から娘と継がれていった料理手帳は時代遅れ。レシピはコンピュータから探し出します。YouTubeを見れば調理方法を動画でわかりやすく紹介してくれます。

まったく便利になりました。

しかしこれらの電気製品を見ていると、製品が出来上がるまでに消費された大量なエネルギーを考えずにはいられません。例えば、製品に使われているステンレス、アルミ板生産は特にエネルギー集約的です。ボディーに使われているプラスチックはリサイクルできるとはいえ、原料は有限資源である石油です。蛍光灯やLEDに使われているイットリウムは奇土類元素で、レアメタルの一種です。ちょっとした故障ならば自分で修理するというのはまったく過去の話。機械を動かす電子技術が複雑になり、専門店へ持って行っても答えは同じ。手間暇かけて修理するより買い替えたほうが安上がり。これらの製品の原料や部品は世界各地で採鉱され、生産されています。原料や部品の輸送に費やされるエネルギーが莫大ということは苦もなく想像できます。

スマートな広告が、ライフスタイルに合ったキッチンプランニングを勧めています。 ハイテク、シンプル、モノトーン、光沢のある表面だけが写しだされた スペースとデザイン。 皿に並ぶ果物で、辛うじてこれが台所だと予想できます。
このうらに隠されたエネルギー消費量は、この台所では見えません。
どこかの発電所から発生する排気ガスは、ここでは臭いません。
どこかの川が化学工場によって汚染されているのは、ここでは問題になりません。
いらなくなった電気製品が積まれたゴミの山で、鉛線を集める子供たちの声は、ここでは聞こえません。
ここでは効率の良い器具で4人前の料理がたったの1kWhでつくられるのです。けれども料理をしていると思っていると、実は器具を扱う エネルギー費消者 になりつつあります。

「グロバール化した高度技術社会では、盲目的な過剰依存はなおさら問題だ。」
(宮台真司著、自然エネルギーと共同体自治に向けて)から

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