エネルギー転換に必要な技術、まだ未開発
「ドイツ政府の決めたエネルギー転換が成功するために必要な技術はまだ開発されていない」と挑発的な発言をするのは微生物学者で著名な科学評論家でもあるハレ市在の生物学安全研究所(Institut für Biologische Sicherheitsforschung)の所長、アレクサンダー・S・ケクレ(Alexander S. Kekulé)教授だ。このところ倒産などに直面しているドイツの太陽光発電業界の問題も、斬新な技術の欠如が主因だと指摘する。
ケクレ教授は、先頃決定された再生可能エネルギーに対する政府の補助金削減を当然だとする。なぜなら、ドイツの太陽光発電業界などが直面する苦境は、大半が自ら招いた結果だからだ。手厚い補助金があるため、例えば、どの会社も価格的に世界市場で 競争出来る太陽光パネルを生産しようと真剣に努力して来なかった。毎年数千万ユーロの補助金を得ているにも関わらず、ドイツ企業は以前には保有していた科学技術面での世界的なリーダーシップも失ってしまった。
シリコンモジュールの効率世界記録23.3%を保持しているのは中国のサンテク社だ。ドイツの業界は薄膜型セルや二層型セル(タンデムセル)の分野でも遅れをとっている。同じことは“多積層型技術“についても言える。この技術では、極小さいレンズをパネルの上にのせることで効率を35%以上に高めることが出来る。これは直射日光の強い南の国々への輸出に最適なはずなのに、補助金はハイテク、ローテクに関わりなく、国内に設置されるパネルにしか適用されないから、製品化が遅れている。
ドイツに研究機関が欠如している訳ではないと同氏は強調する。フライブルクのフラウンホーファー研究所(Fraunhofer-Institut)やベルリンのヘルムホルツ・センター(Helmholtz-Zentrum)などは現在も世界の先端を行っているそうだ。ただ、業界は利益が挙がっていたにも関わらず、その利益を充分に研究・開発費に廻してこなかったため、競争力のある製品を持っていない。
補助金をローテク製品の拡散に浪費してきた事実は、他の分野でも見受けられると同氏は言う。風力発電の場合も充分に研究を重ねて来なかったために、海洋上の風力発電には今もって問題がある。そしてこの業界でもドイツ企業は外国企業に追い越されている。世界で十指に入る ドイツ企業はシーメンス社のみだが、同社のこの分野は2004年に買収したデンマークの風力発電装置製造会社がカバーしている。
エタノールやバイオディーゼルの分野でも研究は遅れていると同氏は続ける。燃料を、肥沃な農地で育成した貴重な植物から作るのではなく、藁や残り物の木材・植物から作り出すためには、更なる研究が欠かせない。
同氏は、エネルギー転換を達成させるためには、まず、転換に必要な技術が未だ充分に開発されていないことを認め、国が舵をとる研究開発の強力な促進が必要であるとする。補助金を受け取る者の研究開発への参加義務も挙げる。そして、エネルギー転換に伴う種々の問題を効率的に調整するためには、環境保護とエネルギー開発を一緒に考える必要があり、現在のようにドイツのエネルギー政策が経済省の管轄下にあることは問題だと 指摘し、“連邦環境エネルギー省”の設立も提案している。