ドイツ語圏での報道:原子炉 vs 金属ブラシ、巨大権力 vs 一個人

あきこ / 2014年11月16日

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2014年11月9日はベルリンの壁崩壊25周年で、10月に入ってからはテレビも新聞も25年前の高揚を再現する報道が目立っていた。それでもドイツではドイツ公共第一テレビ (ARD) 、オーストリアでは公共第一ラジオ放送(Oe1)が、それぞれ現在の日本の原発をめぐる番組を放送した。ARDもOE1も日本でいえばNHKと同じ公共放送である。テレビやラジオだけではなく、新聞紙上でも収束作業の進展しない福島原発の状況を伝える報道が後を絶たない。

 

ドイツ公共第一テレビ:巨大テクノロジーに立ち向かう原始的道具

夜10時45分から放映される45分間の番組「第一放送の話題 (Story im Ersten)」は、ケルンに本拠を置く西ドイツ放送が制作している。2000年から続いている番組で、緊急かつ衝撃的な話題に批判的な視点から迫ることで知られている。11月3日夜に放映されたのが、世界で初めてテレビチームが福島第一原子力発電所に入って撮影した記録である。取材を行ったランガ・ヨーゲシュヴァー氏はルクセンブルグ生まれの科学ジャーナリストで、すべての科学的事象を誰にもわかりやすく解説するということで、ドイツでは非常に人気があり、チェルノブイリ原発の事故後にも現地に行った経験がある。番組は、福島第一原子力発電所の撮影には大変な重装備が必要で、コミュニケーションには拡声器が必要というところから始まった。取材チームは中央制御室、1号炉、4号炉を回りながら、事故直後の炉心の様子や現在の作業状況、とりわけ高い放射線量の中での作業の困難さを伝えるのだが、ドイツの連邦議会の議員として2013年12月に初めて福島第一に入ることを許された緑の党のコッティング=ウール議員の記述に比べると、ヨーゲシュヴァー氏の原発への取材には批判的視点が欠けていた。これは、政治家と科学者の違いだろうか。

福島原子力発電所を後にした取材チームは飯館村と富岡町でも人々にカメラを向けて、インタビューする。ここからの様子は、日本語字幕付でそのまま見られるので、ぜひご覧になっていただきたい。原子力発電所の場面よりも、これら二つの村での取材が興味深い。とくに、原子力発電という高度に複雑なテクノロジーの破綻がもたらした汚染に対して、金属ブラシで必死に除染作業する作業員の姿は印象的である。


オーストリア公共第一ラジオ放送:原発メーカーの責任を問う法システムを作り出す

オーストリア第一ラジオは、このサイトでも何度か紹介したオーストリアの女性ラジオジャーナリストであるユーディット・ブランドナーさんの取材で構成された30分の番組を11月4日に放送した。番組は、原発メーカーを司法の場に出そうという運動をしているグループの弁護士と事務局長、さらには原子力ムラからの圧力について公然と語る菅直人元首相のインタビューで構成されていた。

「原発メーカー訴訟」の会については、このサイトでもすでに紹介しているが、ブランドナーさんは、同会の弁護士である「ロックンローヤー」こと島昭宏氏、同じく弁護士の小林哲也氏と事務局長の崔勝久氏をインタビューしている。ロックンロール、パンクロックで社会を変えようと音楽活動をしていた島さんは、音楽では大きな組織に訴える力が足りないと感じ、法律の勉強を始め、弁護士になったという経歴を持つ。今でも「JUMPS」というバンドで日本中を公演しながら、「人間は誰でも原子力エネルギーへの不安を持たずに生きる権利がある」ことを主張している。

崔さんは、福島の事故が収束していないにもかかわらず、ウェスティンハウスを買収した東芝、日立GE、三菱重工業といった日本の原子炉メーカーが原発を輸出しようとしている事態に危機を感じ、原発事故が起きても免責されているメーカーに対して法的責任を問えないかと考えた。何人かの弁護士に相談したが、経験を積んだ弁護士ほど「それは無理」と及び腰になるなかで、島弁護士が日本国憲法13条(「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」)と同第25条(「(1)すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。(2)国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」)を根拠にすれば原発メーカーを告訴できると主張し、「原発メーカー訴訟」の会が立ち上げられた。

崔さんは言う。「世界中の人が、福島の原発事故を知って精神的なショックを受けた。この精神的なショックを受けた人は誰でも原告になれる」と。こうして、世界中39か国から約4000名の原告が集まった。

「今の法律では、過酷事故が起きた場合、原子力発電所事業者(=東電)だけが責任を負わなければならない。ところが事業者を国が支援している。ということは、国民が税金で東電の損害賠償を支援していることになる。その間、原発メーカーは何の責任も問われず、利潤を上げている。これでは何の問題解決にもならない」と小林弁護士は語る。ブランドナーさんは、「安倍政権がアベノミクスの一環でトルコ、ベトナムとの間に輸出協定を結び、さらにはサウジアラビア、アラブ首長国連邦、インドネシア、中央アジアの諸国との輸出さえも検討している」と付け加えた上で、「世界でまだ誰も考えだしたことのない原発メーカーへの告訴なので、日本では大きなニュースになったのではないか」と崔さんに尋ねる。崔さんは「日本のメディア向けと外国メディア向けに、それぞれ1回ずつ記者会見を開きました。それぞれ1回ずつ記者会見を開きました。日本のメディアはたった4社が来ただけです。カメラも回りません。2日後に外国人記者クラブでの記者会見には、ロイターやAPといった国際的な通信社をはじめ、世界のメディアがたくさん来て、実に詳細な報道をしてくれました」と答える。ここでブランドナーさんは、「日本では新聞や民間放送はスポンサーの顔色を見、NHKは政府の意向をうかがっているのだ」とコメントする。

「憲法第13条(幸福追求権)と第25条(生存権)から導かれる“ノー・ニュークス(No Nukes)権(原子力の恐怖から免れて生きる権利)”っていう新しい人権。この人権を裁判所に認めさせたい。ものすごくいろんな影響力があるんじゃないかなと考えている。これが、今後の裁判で勝ち取りたい、一番大きな点の一つ」という島弁護士。巨大な国家権力と闘うことを危険だと思わないかというブランドナーさんの質問に「もちろん、危ないという人もいます。でも法律でわくわくするのは、巨大な権力や会社組織に法律を用いて何かを変えようと挑むことです。誰かがこの一歩を踏み出さないと何も変わらないのです」と答えた。

 

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