ドイツのエネルギー転換の現状と会計検査院の批判

ツェルディック 野尻紘子 / 2018年10月28日

ドイツの会計検査院はこのほど、「経済界と市民への過大な負担にも関わらず、ドイツのエネルギー転換はその目的をほとんど達成していない」という非常に厳しい特別報告書を連邦議会に提出して、注目を浴びた。地球温暖化ガスの削減、省エネ、エネルギーの効率化、交通分野での再生可能エネルギーの活用などで、ほとんど進歩が見られないというのだ。

ドイツは、京都議定書(1997年に締結)で決められた2008〜2012年の同国の二酸化炭素削減目標値(1990年比でマイナス21%))を早々とクリアーしたり、再生可能電力の促進に力を入れたりして、長い間世界的に環境優等生だと思われてきたし、自身でもそう考えてきた。事実、再生可能電力の割合は現在、総発電量の3分の1に達している。そして二酸化炭素の削減に関してはその間、2020年までに1990年比でマイナス40%を達成するという野心的な目標さえ立てていた。

「エネルギー転換の責任は5年以来連邦経済・エネルギー省にある。その間に政府と市民が支払った経費は1600億ユーロ(約20兆500億円)にも達する」とカイ・シェラー会計検査院院長は厳しく語る。そのうちの340億ユーロは2017年の分に当たり、これには消費者が電気料金と一緒に払った再生可能電力やコージェネ促進のための賦課金260億ユーロと、政府がエネルギー転換推進のために直接拠出した種々費用が含まれるという。

これだけの費用が投入されたのだが、ドイツは2020年までに二酸化炭素の排出量を1990年比でマイナス40%削減するという自主的に掲げた目標値が達成できない見込みになってきた。背景にはここ数年来経済が好調だったこと、石油価格が低下していたので省エネが進まなかったこと、難民の流入で人口が急速に100万人以上も増えたことなどがある。そしてここ2、3年、二酸化炭素の排出量が少し増えていることも事実だ。

関係者は現在、ドイツの2020年の二酸化炭素排出量は1990年比でマイナス32%程度になるだろうと推測している。野心的な目標が達成できないことを多くのドイツ人は確かに残念だと思っている。ただ、このマイナス40%というのは、実は欧州連合(EU)が現在2030年の目標値としてあげているような高い値でもある。(EUは現在この値を45%にできないかと考慮中である。)

しかし、国の会計を検査する立場にあるシェラー会計検査院院長はそれでもなお批判的だ。立場上、特に批判的でないといけないのかもしれない。同氏は、「例えば、沢山ある規定や規則の代わりに二酸化炭素税を導入すれば、住民は簡単に高い税金を避けるために二酸化炭素の排出量が多いスポーツ用多目的車(SUV)などを買わないようになる。それなのに政府は、電気自動車の購入のために6億ユーロ(約775億円)もの助成金を用意した。しかし現実にはこれは、住民からあまり受け入れられていない。その裏には、自動車業界の影響があるのかもしれない」などと主張する。

同氏の発言を換言すると、ドイツのエネルギー転換には、これまでかなりお金がかかっているのだが、ここ数年来、その割には進歩が目に見えないということのようだ。そしてその理由は経済・エネルギー省の指導が上手くいっていないことにあると言う。上手くしようという意思が欠けているとも言う。これに対して、意見を求められた経済・エネルギー省は「そんなことはない。エネルギー転換は効率的に進んでおり、効果は出ている」と反発したと伝えられる。

Comments are closed.