シェーナウ電力会社(EWS)が灯す希望

あきこ / 2014年7月20日

サッカーワールドカップ大会でドイツ・ナショナルチームが勝ち進み、ドイツ国内はワールドカップ一色に染まった感がした6月27日、シェーナウから嬉しいニュースが届いた。シェーナウと言えば、ドイツでは再生可能エネルギーによる電力生産の町として知られているが、実はナショナルチームの監督ヨギ・レーヴの出身地でもあり、ドイツが優勝したときは、シェーナウでも多くの人たちが優勝を祝うシーンがテレビで伝えられた。このシェーナウからの嬉しいニュースとは、反原発の市民運動から生まれた同市のエコ電力会社が、今年の「電力革命児」賞は日本に送ることを発表したというニュースである。

「Der Schönauer Stromrebell」は、シェーナウ電力会社の日本語版プレスリリースで「電力革命児」と翻訳されているが、「電力反逆者」のほうが正確かもしれない。チェルノブイリ原発事故後に脱原発による電力生産の可能性を求めてシェーナウ電力会社を立ち上げるまでのスラーデク夫妻とその仲間たちの10年にわたる闘いは、まさに既成の大手電力会社への市民による「反逆」であり、まさしくスラーデクさんたちが“Stromerebell“(電力反逆者)と称されているからである。

これはさておき、この賞はシェーナウ電力会社設立10周年を記念して、シェーナウ・エネルギー・イニシアティヴとシェーナウ市が始めた名誉賞で、個人の積極的な取り組みでビジョンを実現し、反対を乗り越え、環境と持続可能な経済のあり方に真剣に取り組む人に与えられる。今までに気候研究者のハルトムート・グラッスル教授、アルフレード・リッター(チョコレート会社のRitter Sport社社長)、トーマス・ヨーベルグ(GLS銀行)、ルイーゼ・ノイマン=コーゼル(ベルリン市民エネルギー)、イルム・ポンテナーゲル(ユーロソーラー社長)などが受賞している。受賞者を簡単に紹介しておくと、グラッスル教授はドイツを代表する気象学者で、早くから気候温暖化に警鐘を鳴らしていた。ドイツ連邦環境賞も受賞している。リッター氏はチェルノブイリ事故後、トルコから輸入していたヘーゼルナッツが放射能汚染されたことから、再生可能エネルギーの推進者となった。GLS 銀行は、世界で初めて環境保護と社会貢献を目的に1974年に設立されたドイツの銀行である。ノイマン=コーゼル氏は配電網を市民の手に買い取る運動を行なっているベルリン市民エネルギーの中心的存在である。ポンテナーゲル氏はヘルマン・シェーア氏などと一緒にユーロソーラー社を設立し、再生可能エネルギーを市民の意識と政治プログラムに定着させたことが高く評価されている。

環境保護、脱原発に向けて難関を乗り越えていく個人に与えられるこの「電力革命児賞」、2014年は3人の日本人が受賞した。大塚愛さん、山本太郎さん、佐藤弥右衛門さんの3人である。受賞の理由については、シェーナウ電力会社のプレスリリースがすでに日本語に訳されているので、詳しくはそれを読んでいただきたいが、以下簡単にまとめておく。

大塚愛さんは2011年3月11日当日にご主人と二人の子どもと一緒に福島を去り、岡山に避難した。その後避難してきた被災者たちとともに「福島の母たち」というグループを立ち上げ、幼稚園、学校、公園などでの放射線測定を実施し、子どもたちの健康被害を最低限にとどめるための活動をしている。福島事故が忘れられないように、また事故の影響を否定しようとすることに対して戦っている。事故の被災者への補償だけではなく、最終的な原子力エネルギーの放棄と持続可能なエネルギー政策への転換を求める闘いを続けている。

山本太郎さんは周知のように、勇気ある発言の結果俳優としての職を奪われたが、2012年の参議院選挙で当選し、原発の停止とエコロジカルなエネルギー経済への転換を求めて闘っている。

 佐藤弥右衛門さんは224年続く造り酒屋(大和川酒造店)の社長で、飯館村の“までい大使”を務めていたが、原発事故後、当局が住民たちに対して放射能汚染への警戒を行わなかったことから、原発と電力経済について考え始めた。2013年8月、仲間たちとシェーナウ電力会社を手本とした電力会社「会津電力会社 (Ai Power)」を設立した。電力が自由化されれば、同社は地域の電力網を買取り、猪苗代湖などの水利権を購入して電力の自給を確立しようとしている。市民の圧力が高まり、その結果福島の電力事業者である東電が解体され、政府が会津電力会社に権利を売らざるを得なくなる事態にいたることが佐藤さんの希望である。

このニュースを知ったのは、シェーナウ市のあるバーデン・ヴュルテンベルグ州フライブルグの日刊紙「バーディッシェ・ツァイトウング」のオンライン版であった。日本の大手マスコミ各社のオンライン版を見たところ、この受賞はニュースとして取り上げられていなかった。しかし、ほぼ1週間後の7月7日、日本経済新聞のオンライン版で「東電よさらば 会津の造り酒屋が挑む電力自立」と題した記事で、佐藤弥右衛門社長とのインタビューが掲載されていた。2014年5月末に最初のメガソーラー発電所を起工、「今後は福島県内で小水力発電所の設置、森林資源を利用したバイオマスなどによる電力生産を目指す」という。「会津には猪苗代湖があり阿賀野川、只見川がある。本来は会津の電気を賄って十分のはずだが、いつの間にか東京の電力会社に水利権をおさえられ、電気は東京にもっていかれる。東電はお金をばらまいて原発をつくったうえ、事故を起こしてもだれも責任をとらない。建設を認めた政府もほっかむりだ。原発がなくても自分たちで電気を生み出す資源も資力も会津にはある」という佐藤社長、まさに電力の反撃者にふさわしい発言である。

この日本経済新聞の記事を読むと、「地域自立のエネルギーづくりを目指す動きは全国各地にあり、5月には地域間の連絡を強め活動を広げる目的で『全国ご当地エネルギー協会』が発足した」と書かれている。チェルノブイリ事故後10年を経てドイツではシェーナウ電力会社が誕生した。ドイツではさらに福島事故後、再生可能エネルギーと電力の地産地消への意識が高まっている。今回の受賞記事を読んで、日本では10年もしないうちに、地域自立のエネルギー生産が実現するのではないかという希望を持った。日本の多くの健全な市民の間には「電力反逆者」が増えていることを確信した。

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