『フクシマ360°』が伝える東電記者会見

あきこ / 2014年6月29日

TEPCO_Pressekonferenz[1]

空席が目立つ東電記者会見©A.ノイロイター

『フクシマ360°』は、福島での原子力発電所の事故について、ドイツ人読者の理解を助けるための情報が満載されている。著者アレクサンダー・ノイロイター氏は日本に滞在中、東電の記者会見に出席し、その時の様子を著書の中で詳しく書いている。そのテキストを読んで、情報を伝えるということについて考えさせられた。

「ノーインフォメーションの技法」というタイトルがついたページには、見開きの片側に東電本社での記者会見の写真が載せられている。前に座った4人の東電社員、記者席には辛うじて2人が写っている。片側にはノイロイター氏が書いた文章がある。同氏が日本に滞在したのは2013年9月であり、記者会見の発表は当時のものである。ノイロイター氏の許可を得ることができたので、本文の翻訳を以下掲載する。

 東電は毎週3回記者会見を開き、原発の現在の状況と作業の進展について知らせている。

 120ある記者席はほとんど空席で、登録されたジャーナリストのうち10名ほどしか出席していないが、東電のこの記者会見は特別な体験だ。記者会見は、まるできっちりと練習した振付のように進んで行く。そして2年以上も前からずっと同じことが続いている。東電の4人の社員が紙束をどっさりと抱え、飾りけも窓もない部屋に音もなく入り、最前列に置かれた机に進み、同時にお辞儀して静かに着席する。

 ジャーナリストたちは、綴じられた分厚い書類を手に取り、静かに席に着く。東電社員の一人が席を立ち、書類を抱えて演台に向かう。そこでもう一度紋切り型のお辞儀をするが、東電にとって自社の作業に関する情報を繰り返し伝えなければならないことがいかに負担であるかが、彼の体からにじみ出ている。

 こうして記者会見は読み上げの場となる。56ページにわたるペーパーにびっしりと書きこまれた数値の山を、30秒ごとに1ページのスピードで読み上げる。気温、圧力、放射線量など、事故が続いていることを示すかもしれない数値を、まるで花粉情報を伝えるかのように伝えている。

 記者席ではジャーナリストたちが紙の山と格闘しながら、今読み上げられた数値がどこにあるかを必死に探している。しかし、発表されたこれらの数値の背後には何が隠されているのか。カラフルなダイヤグラムや図には、作業のどんな効果やリスクが示されているのか。毎日、放射性物質を空気中や水に放出している原子炉との戦いの次の段階はどうなのか。何の説明もない。

 技術者や核物理学者だけが、未整理の紙束やデータの中に隠されている真実を語ることができる。しかし東電には、福島で実際に何が起きているかを語る気持ちはない。

 最後に4号機の冷却用プールの写真がさっと紹介された。2011年3月に4号機の屋根が飛び、燃料棒はカバーなしに白日のもとにさらされることになった。そしてやっと暫定的な屋根が完成した。これは重要な進展だ。よかった。

 短い沈黙。質問なし。

 東電社員は立ち上がり、同時にお辞儀をした後、音もなく部屋を出て行った。およそ25分弱で東電は情報公開義務を果たしたことになるのだ。本当に伝えることを何もせずに。

タイトルが示すとおり、「ノーインフォメーションの技法」が見事に示されている。東電は情報公開を形式的に実践している。今後、原発にもし何かが起きても「東電は情報を公開、1週間に3回もやってきました」と言えるアリバイが着々と作られているようだ。

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