ドイツ、2019年の二酸化炭素排出量1990年比でマイナス35%‼︎

ツェルディック 野尻紘子 / 2020年1月12日

©️RWE

地球の温暖化を抑えるためには、世界規模で二酸化炭素の排出量が減るべきなのだが、現実はそれとはほど遠く、排出量が世界規模で年々増え続けている。そんな中、ドイツでは二酸化炭素の排出量が2年間連続で減った。ドイツのエネルギー転換のシンクタンクであるアゴラによると、ドイツの二酸化炭素排出量は、2019年に前年比で6%も減り、京都議定書の基準になった1990年との比較ではマイナス35%になったという。これで、一度は諦められていた「2020年には1990年比でマイナス40%にしたい」という、ドイツ政府の長い間の二酸化炭素削減目標に手の届く可能性が出てきた。

京都議定書の基準年である1990年のドイツの二酸化炭素排出量は12億5100万トンだった。ドイツはまず、「2008年から2012年までの間に、二酸化炭素の排出量を1990年比で24% 削減する」というこの議定書で 決められた削減目標値を簡単にクリアした。1990年は東西ドイツが統一した年で、統一後に、旧東独地域にあった老朽化の激しかった火力発電所が停止したことや多数の古びた工場が閉鎖したことが貢献したのだ。しかしその後は削減が難しくなり、特に2014年頃からは年間排出量が9億1000万トンを前後していた。

しかし2018年には二酸化炭素の排出量が3800万トン減って8億6900万トンに下がった。理由は気候の影響と欧州の二酸化炭素排出権取引制度(EU-ETS、European Union Emissions Trading System )にあったという。2018年は冬が暖かく暖房が例年に比べて少なくてすんだ。そのため天然ガスや石油の節約ができた。2018年はまた、年間を通して降水量が非常に少なかった。そのために河川の水位が大きく下がり、石炭や石油を輸送船に満載することができなくなってしまった。これが理由で、石炭や石油、ガソリンの価格が上昇し、これも二酸化炭素を大きく排出する化石燃料の節約に繋がった。さらにETS での二酸化炭素の排出権価格が1トン当たり20ユーロ(約2400円)前後まで上昇したので、排出量の多い石炭や褐炭の発電が多く避けられた。付け加えると、工業生産での生産性の向上もエネルギー節約に繋がったようだ。

そこで2018年のドイツの二酸化炭素排出量は1990年比で辛うじてマイナス30%に達した。しかしドイツ政府が独自に立てていた、「2020年に1990年比でマイナス40%という目標値は到底達成できない」とみなされていた。そのため、この目標値は2018年春に結ばれた現在の連立政府の基礎となっている連立協定には含まれていない。

ところが、驚いたことに、ドイツの二酸化炭素排出量は2019年も約5000万トンと大幅に減って、8億1100万トンになった。これは1990年比でマイナス35%を意味する。

2019年もまず気候の影響が大きかったとされる。ドイツ全国再生可能エネルギー連盟(BEE、Bundesverband Erneuerbare Energien)によると、気候変動の影響で、強い風の吹く日と太陽が強烈に照る日が多くなり、結果的に期待以上の大量の再生可能電力が生産されたという。 特に風力発電は大きく伸び、褐炭発電を上回って、ドイツ最大の発電源となった。また、ETS の二酸化炭素の排出権価格が1トン当たり25ユーロ(約3000円)に上がったことも大きく貢献した。そのため褐炭や石炭による発電が割高になり、競争力が落ちたために、発電量が減ったのだ。アゴラによると、2019年の再生可能電力の消費量は、前年比約5ポイント増で、総電力消費量の43%を占めたという。このことは、再生可能電力の消費量が化石燃料による電力の消費量を抜いたことを指す。

アゴラとBEEは、ドイツで二酸化炭素の排出量が減ったのは電力分野に限られているとし、交通や暖房の分野では2019年にもエネルギーの消費が増えたことを指摘する。そしてドイツの全てのエネルギー消費に占める自然エネルギーの割合はまだ15%でしかないことを明らかにする。従って、ドイツが2050年までに「カーボン・ニュートラル」になること、つまり生活や生産をすることで排出される二酸化炭素と、何らかの手段(例えば植林など)を通して吸収される二酸化炭素の量が同量になることは、このままでは起こり得ないと警告し、二酸化炭素削減のさらなる努力が必要であると強調する。

BEEは、EU 規模のETSが効果を示していることを認め、ドイツ国内でも2021年から交通や暖房分野でも導入される予定の二酸化炭素排出権取引制度が、効果を表すことに期待を寄せている。またアゴラは、2018年と2019年の二酸化炭素減少のトレンドがまた上昇に変わることがあり得るので、努力が欠かせないと指摘する。BEEの広報担当は「これまで原発の縮小だけでなく、火力発電の縮小を再生可能電力が補うことで二酸化炭素の削減も実現できて良かった」と語った。

ドイツでの二酸化炭素の削減に、気候の変化が大きく貢献しているということは皮肉だ。ただこのままだと、2020年に1990年比でマイナス40%というドイツ政府の高い二酸化炭素削減目標の達成が、全く不可能ではないように見えることも事実だ。

なお、世界主要国の二酸化炭素排出量削減目標値は、以下のようになっている。

ドイツの目標値がいかに高いものであるか、またいわゆる先進国の中で、日本の目標値がいかに低いかが分かる。日本の二酸化炭素排出量は1990年はおろか、2011年の福島の原発事故以来、急激に増えている。その後2013年には最高値を記録しているのだが、その2013年の値を削減の基準にすることは、まやかし同然ではないだろうか。

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