住まいのエコロジー、ハイテクとノーテク
最新の技術を取り入れたパッシブハウスに移った居住者の体験談と、技術の代わりに知恵で快適な省エネ住宅を図る、今年の「世界デザイン首都」ヘルシンキ市の例をご紹介したいと思います。
パッシブハウスに住んで一年
「ルックス(LUX、南ドイツ新聞、Süddeutsche Zeitung、エネルギー関連記事のみの付録マガジン)」 2011年第5号
カイ・バルグマン(Kai Bargmann)
今まで住んでいた家との違い
外断熱がしっかりして、家の中の熱がほとんど逃げない。
木製三層ガラスサッシの気密性と断熱性は、通常の住宅の外壁よりも高い。
外の気温がいくら下がっても、ガラスはさわってみると暖かい。
水温15度の地下水の熱を利用してヒートポンプが動く。暖房と給湯はこの設備で十分、化石燃料は必要なし。
暖房期間中は窓から換気をしない。汚染空気の熱をリサイクルする。新鮮な外気を換気装置に設置された熱交換器によって暖めて供給する。
実に快適なこと
大きな窓があちこちにあって、明るい。
日当たりがよく家の中にいても、自然の中にいるようだ。
3人で延床面積が230㎡の空間が楽しめる。
真冬でも家の中は、春の心地。
意外だったこと
窓が大きいので夏は直射日光が入り、室温が異常にあがる。
ダクトの音響効果は実に面白い。地下の個室でドラムをたたいたり、娘がピアノの練習をすると、ダクトを通じて家中に音が回る。
ヒートポンプは休まずに絶えず動いている。そのために電力が必要だ。
ヒートポンプ専用の設備室は小さな発電所のようだ。
プロが毎年一度ヒートポンプの整備をする。その費用は300ユーロ(約3万円)だ。
換気装置の整備、フィルター交換など費用と管理がたいへんだ。
構成設備の名はイーズ(ease)だが、素人にとっては非常に複雑。
アフターサービスや故障の際、専門店が近くにない。
初めのころに困ったこと
この床暖房システムは、気温があがると、冷水が循環して冷房の役目を果たす。自動的に調節されるはずの床暖房の反応がおそい。夏は特に、熱がこもって暑い。
外気の汚れで換気装置の性能が落ちた。そのため住み手の吐く息がフレーム部分に結露した。ガラス戸の下部に水がたまり、フレームの塗料に割れが発生している。フローリングも水分を吸収して床面が膨張してきた。
特に満足していること
以前の家のエネルギー需要量が1㎡当たり年間140kWhだったが、今はわずか17 kWh。
ヒートポンプの電気料金は月に約130ユーロ(1万3000円)、暖房費は以前の半分。
石油やガス料金の値上げは関係ない。CO2排出量も(ほとんど)削減できた。
バルグマン一家はパッシブハウスに住んで、エネルギーシフトへの準備ができたようです。
でも、ちょっと待ってください。この冷暖房に使われている電気ですが、現在はまだ石油、天然ガス、石炭で発電されているのでは? 1kWhの電力を発電するのに実は約3倍のエネルギーが必要です。
「CO2 削減を努めようと考え、ある家庭は家中の電球を全て省エネ電球に替えた。省エネだから、スイッチを入れても切っても同じことだと思い、以前は使わない電気は消していたが、今はつけっぱなしだ。」
このような行動を気候学、環境保護学の上では“モラル・ハザード“というそうです。
ヘルシンキ市は「ワット数を減らそう」だけではなく、「無駄な照明はやめよう」と考える社会をデザインしたいと試みています。
南ドイツ新聞、2012年1月2日、ラウラ・ヴァイスミュラー(Laura Weissmüller)以下記事抜粋
学生寮の改善
床の青い矢印が方向を示す。その上に白い活字で、Garbage room と57stepsと書かれている。この地味な矢印をみても、ひとまず何も想像できない。少し上部を見ると小さなシンボルが目に入る。「エレベーターはやめて階段を使おう」「シャワーを浴びるのは5分間で十分」と表している。漫画でアドバイス?このシンボルが省エネ対策なのか?
シンクタンク、デモス(Demos)は学生寮の管理部から、エコロジカルでしかも“居心地の良い”寮の改善を頼まれた。2010年、彼らが仕事を受注する前は、この寮のイメージは悪く、今の状態の正反対だった。廊下は、置きっぱなしのゴミでいっぱいだった。共同のリビングルームは利用者がおらず、わびしい部屋だった。改修工事が始まる前に、まず細かい調査が行われた。入居者とのインタビューでわかったことは、ほぼ全員が入寮案内書を読んでいないということだった。というのは、大半がフィンランド語がこなせない。地元フィンランド人はごく少なかった。どこにゴミ置き場があるのか、どの部屋が共同の居間なのか、まったく知られていなかった。問題を解決するのではなく、問題点を見つけ出すことが重要だ。何がうまくいかないかが、わかれば、改善方法は簡単だ。イラストで道しるべを作れば、言葉がわからなくても、どの部屋がどこにあるのか、だれにでもわかる。「時間銀行」がつくられて、例えば「ピザを焼く」と、「英語を教える」との間で交換が成立する。そのおかげで入居者同士の触れ合いが以前と比べて3倍以上にもなった。節電コンクールが催されて、エネルギー消費が急激に減った。共同空間が改修されて、魅力的なみんなの集まる場になった。
集団住宅ブロック「Low2No」
ヘルシンキ市内の元港湾地域が“住んで働く町“に変わりつつある。150~200世帯の集団住宅ブロックでは、エネルギー需要をできるだけ下げようと計画された。調査に参加したのは、建築家、都市計画者はじめ、デザイナー、エネルギー専門技士、更に行動分析学者や不動産業者などだった。建築分野では、製造時のエネルギー消費量が多い鉄筋コンクリートの代わりに、地元の木材が主に建材として使用された。そのために防火規制が改正された。国内では初めてのエコ・クリーニング店、自転車修理専門店が歩行者天国区域に設けられることになっている。また、個人が市販のユニットサウナの設置をやめ、その代わりに共同サウナ場が計画されている。古きよき時代の共同サウナは隣近所の憩いの場所になるだろう。
アイデアをデザインする
「学生寮改修工事の際、我々の仕事は社会意識を変えることにあった。これは、いま世界が抱えている大問題の解決方法とは関係がないのでは、と疑う者は考え直してほしい。持続可能な生活とは、長距離飛行をキャンセルすることではない。又、スーパーでビニール袋をもらわないというだけではない。それは、あたりまえとされている生活をひっくり返してみることである。
住まいの延床面積は、こんなに広くなければならないのか?暖房設備の仕組みを理解しているか?交通、通勤方法についてはどうか?今日の献立は何か?民主主義である以上ベジタリアンになることを強制できない。また、車を取り上げることもできない。一人一人が環境を守る生活を望むようにならなければ、社会は変わらない。それは、デザインと関係があるのか?もちろん!デザインでその意志を生み出すことができる」とデモスの研究者であるトミ・ライティオ(Tommi Laitio)氏は語る。