洋上風力発電パークの送電網への接続に国の援助必須
ドイツで標榜されているエネルギー転換の重要な柱となるべき洋上風力発電パークの送電網への接続が大きな問題になっている。ドイツの4大送電網運営会社の一つであるテネットが、接続に必要な膨大な資金を調達できないと表明し、接続に関わる損害補償の責任も引き受けられないとしているからだ。国の援助が避けられないようだ。
現在ドイツにある約3万5000 km強の高圧送電網は、以前にはドイツ全国を4つに分割し、それぞれの地域で電力市場を独占していた大手電力会社4社が所有していた。しかし欧州連合 (EU) による電力業界の自由化政策の要請を受けて、まず、これら電力会社の送電部門が発電部門から切り離され、4つの独立した送電網運営会社となった。そしてそれらはその後、1社を除き他社に売却された。
2009年に、北ドイツから南ドイツに及ぶ送電網約1万1000 kmをドイツ最大手の電力会社エーオンから購入したのはオランダの国営送電網運営会社テネット。エーオンが自社の送電網運営会社の売却にあまり大きな抵抗を示さなかった理由の一つは、この会社の送電範囲が北海に面した地域を含んでいるからだと言われる。このため、テネットには北海の洋上風力発電装置で発電された電力を陸の送電網に接続する義務がある。
ドイツ政府が原子力発電の廃止後に最も大きな期待をかけているのは洋上風力発電で、2020年までの設置目標容量だけでも10ギガワットとなっている。洋上発電の際には、陸の風力発電とは異なり、騒音や日射問題などで住民の反対が出ることがない。北海沖には大多数の発電装置が設置できるし、海ではいつも強い風が吹くので好都合でもある。ただ、ドイツの場合、北海に面する海岸一帯は生態が豊富で自然公園になっているため、発電装置は海岸線から約30 km 以上も離れた場所に設置される。このため 、送電網はそれだけ長くなり、高く付く。
テネットは、洋上風力発電装置の接続に既に55億ユーロ(約6050億円)投資しているが、当面だけでも更に約100億ユーロ(約1兆1000億円)の資金が必要で、1社で賄うのには無理な額だと見ている。オランダの本社は、ドイツの子会社の資金調達を援助する気持ちがないように見受けられる。一方、テネットは一時、他の送電網運営会社と共同出資で洋上風力発電専用の新会社の設立も考えたが、他社が乗り気でないため、今回、政府に援助を求める書簡を送った。
その書簡のなかで同社はまた、技術的な問題などで発電装置と送電網との接続が計画どおり進まない際の責任・損害補償に関して、早い時期に法的な取り決めをまとめて欲しいと要求している。例えば現在、大手電力会社の一つRWEは、同社の洋上風力発電パークの接続が遅れているため、損害賠償に関する訴訟の可能性を検討中だと伝えられる。「保険会社が(まだ多少未熟で、遅延などの危険を伴う)不完全な技術のために発生した損害の補償を拒むケースに対しては、損害を社会全般で担う可能性がなくてはならない」とテネット。
ドイツ連邦経済相と連邦環境相は数日前に、テネットに国営開発銀行KfWの融資を確約すると同時に、電力網運営会社と装置建設会社との間の損害補償問題に関する取り決めのための法案を夏までに提出すると発表した。
ちなみに、ドイツの4大電力会社は、エーオン(E.on)、エルヴェエー(RWE)、ヴァッテンファル(Vattenfall)、エーエヌベーヴェー(EnBW)。4大送電網運営会社はテネット(Tennet)、アンプリオン(Amprion)、50ヘルツ(50hertz)、エーエヌベーヴェー・トランスポートネッツ(EnBW Transportnetze AG)。