EU、エネルギー転換促進の重要な基準設定で合意

永井 潤子 / 2018年7月8日

将来目指すべき再生可能エネルギーの割合について対立していたEU委員会と加盟28カ国政府、それに欧州議会の代表は、6月14日ストラスブールで、2030年までにEU加盟国のエネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を32%とすることで、ようやく合意に達することができた。

EU委員会は2年前、エネルギー消費の中の再生可能エネルギーの割合を2030年までに少なくとも27%にするよう提案し、当時EU加盟国政府の大半もこの提案を支持した(この場合のエネルギー消費の中には、電力だけではなく、暖房や交通の燃料などの消費も含まれる)。しかし、欧州議会は今年の1月、27%では温暖化を防げない、目標の数値を35%に引き上げるべきだという社会民主・進歩同盟(社会民主党系会派)の提案を多数決で承認した。EUはパリ協定に基づき、2030年までの温暖化ガスの排出量を1990年に比較して40%減らすことを義務付けられている。それを実現するためには再生可能エネルギーの割合をEU委員会の提案より、もっと野心的な目標にしなければいけないというのが欧州議会側の主張だった。その後、加盟各国首脳からなる欧州理事会は、議会に歩み寄りを示し、欧州委員会の提案より多い30%という数値を提案した。しかし、その後も欧州議会が35%を強く主張して鋭く対立していた。今回32%という基準で、三者の間にようやく合意が生まれたのは、6月14日早朝の午前3時半過ぎだったという。EU全加盟国での現在の再生可能エネルギーの割合は、約17%である。

議会側の要求より低い数値で合意が生まれたものの、欧州議会議員の間では今回の合意に好意的な反応がみられる。それというのも、この合意と同時に付随措置として、今回の合意を5年後の2023 年に再検討することと一般市民や小規模企業の生み出す再生可能電力への優遇措置などが決定されたためだ。ルクセンブルク出身の緑の党の欧州議会議員(当時)、クロード・トゥルメ氏は「今回決まった目標が実際にEUの温暖化ガス削減目標にかなっているかどうか、2023年に再検討することになった。これは、この時点でさらに高い目標が設定される可能性が生まれたことを意味する」として歓迎の意を表した。また、ドイツ出身の欧州議会議員(社会民主・進歩同盟)、マルティーナ・ヴェルナー氏も「欧州議会が主張する35%は残念ながら実現しなかったが、エネルギー転換を前進させるためには三者間の合意が緊急に必要で、厳しい協議の後法制化について意見の一致が見られたのは喜ばしいことである」と述べている。さらに環境保護団体のグリーンピースも「市民の生み出す再生可能エネルギーのエネルギー市場に参入する権利が、全ヨーロッパの法律に初めて謳われたこと」を、評価している。

一方、ドイツ全国再生可能エネルギー連盟(BEE)のジモーネ・ペーター会長は「2030年までに再生可能エネルギーの割合を32%にするという目標は、あまりにも低すぎる。これではヨーロッパのエネルギーの脱炭素化は2086年になってしまう」と批判した。ドイツの環境保護団体であるDUH(Deutsche Umwelt Hilfe)は、特に「今回の協議でのドイツ政府の態度は全く理解できない」と批判した。

これまでドイツは、エネルギー転換問題で先駆的役割を果たしてきたが、事前協議に参加したドイツのペーター・アルトマイヤー経済・エネルギー相(キリスト教民主同盟)が30%という低い割合に固執したことが、他の環境保護派の間でも批判を浴びている。EU加盟国政府の中でも例えば、スペイン、イタリア、オランダなどが野心的な欧州議会案に賛成したが、ドイツが低い数値を強硬に主張して、ブレーキ役を務めたという。アルトマイヤー経済相の主張の根拠は「野心的な基準を、義務を伴う法律として決定して、実際にその目標を達成できなかった場合に、EU加盟国の市民は政治に対する信頼を失う可能性がある」というものだった。アルトマイヤー経済・エネルギー相は「加盟国政府側が、議会に歩み寄って30%という提案をしたのだから、今度は議会側が妥協する番だ」などとも述べていた。同じメルケル政権のスヴェンヤ・シュルツェ環境相(社会民主党)は「EUは、気候温暖化防止政策の重要な点で行動能力があることを示した」と述べて合意を歓迎したが、その一方で「自分は最初から、30%という欧州理事会の提案に留まることのないよう尽力した」とも述べて、連立政権内の閣僚たちが一枚岩でないことをうかがわせた。

 

 

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