ヨーロッパを騒がせたトランプ大統領

永井 潤子 / 2018年7月22日

7月11日からヨーロッパを訪問したトランプ大統領は、ブリュッセルやロンドンで西側諸国を批判する発言をし、7月16日、最後の訪問地、ヘルシンキで、ロシアのプーチン大統領と会談し、帰国した。そのトランプ大統領のヨーロッパ訪問について、ドイツ・メディアの7月17日の論調をお伝えする。「無作法者がヨーロッパを行く」、「トランプ、ヨーロッパは敵!」、「米大統領、各地でヨーロッパの怒りを巻き起こす」「賢明な安全保障政策は、防衛費の額では測れない」などという見出しが、彼の訪問中、ドイツの新聞をかざった。

ミュンヘンで発行されている全国紙「南ドイツ新聞」は、ヘルシンキで行われた米露首脳会談について「プーチンの収穫」という見出しのユリアン・ハンス記者の社説を載せた。

不動産の商人と秘密警察KGBの元職員、非常に異なった背景を持つ二人は、会談の成果についても全く違った判断をするだろう。通商戦争のきっかけを作ったトランプ大統領は、ブリュッセルでも北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議で、誰がいくらお金を出しているかに基づいて同盟国を厳しく批判した。また、これまでアメリカとロシアとの関係が悪かったのは、前任者のオバマ政権のバカな政策のせいで、「いつの日かプーチン大統領は自分の良い友達になるかもしれない」などと、関係改善は自分の功績だと言わんばかりの発言をしている。一方、プーチンは、人間を味方につけようとした。彼はかつて自分が学んだ職業について「人間に関する専門家である」と表現した。人間を知るプーチン大統領にとっては、西側同盟国を口汚く罵り、自分の国の前任者を否定するトランプ大統領との会談前に、すでに彼の目標を達していたということができる。

この社説でハンス氏は、プーチン大統領が西側陣営の結束にこれだけの打撃を与えるには、大変な努力が必要だが、それをトランプ大統領はいとも簡単に実現させたと言いたかったようだ。同記者の社説は、次の言葉で締めくくられている。

ヘルシンキは1970年代のはじめに、ヨーロッパでの戦争の危機を減らそうというすべての国を巻き込んだプロセスが始まった、歴史的な場所である。このプロセスから欧州安保協力機構(OSCE)が生まれた。今日私たちはこのヘルシンキで、時代の揺り戻しを経験している。ここで、多国間の協定は自国の主権を不必要に制限するものだと考える二大国の大統領が、二人だけで会談したのだ。

ノルトライン・ヴェストファーレン州の州都、デュッセルドルフで発行されている日刊紙、「ライニッシェ・ポスト」は、次のように論じている。

トランプ大統領は就任以来、プーチン政権下のロシアが、結束の硬い強力な陣営だとして脅威を感じている西側陣営を、分断させようとしてきた。今やトランプ大統領がNATOやEUという組織だけではなく、大西洋を超えた国々の長年の友情についても根本的に疑問視しているため、プーチン大統領は、彼のハッカーやスパイたちを安心してヴァカンスに送ることができるだろう。プーチン大統領はトランプ大統領という味方を得た。しかし、アメリカとロシア両国の間には、深い利益の対立があり、そうした歴史的な背景を考えると、クレムリンの主にとっては、今回の成果は取るに足りないものではないだろうか。

ドイツ南西部、バーデン・ヴュルテンベルク州のマンハイムで発行されている日刊紙「マンハイマー・モルゲン」は、ヨーロッパにとって警戒すべき兆候だと指摘する。

今回、ヘルシンキでは、二人の大国の首脳が会って、お互いに関係改善をめざすことを約束しただけで、何かきっちりした協定が結ばれたわけではない。少なくとも今回の会談は、米露関係改善のきっかけにはなるだろう。しかし、ヨーロッパの視点からは、自国の利益だけを考える二国の予測のつかない関係が生まれるように見える。これはヨーロッパが共有する価値観からの離反を意味し、安心できるビジョンではない。

ドイツ北部、ニーダーザクセン州のリューネブルクで発行されている日刊紙、「ランデスツァイトゥング」は次のように強調する。

米露の首脳が実際に会って話し合うことは、もちろんそれ自体、成功と見なせる。しかし、今回のヘルシンキ会談が内容的にゼロだったということを、隠すことはできない。具体的な合意は何もなかった。トランプ大統領はヨーロッパの3ヶ所を訪れた。ブリュッセルではNATO首脳会議での混乱、ロンドンでは、恥知らず発言、そしてヘルシンキである。EUはこの事実から教訓をくみ取らなければならない。現在は大きな変化が生まれつつある。この変化を乗り切るためには、ヨーロッパは相互の協調関係を強め、共通の防衛政策、経済政策、社会政策、難民政策で一致しなければならない。

ラインラント・プファルツ州のコブレンツで発行されている新聞「ライン・ツァイトゥング」も次のように主張している。

ヨーロッパの安全保障を象徴するフィンランドの首都ヘルシンキで、米露の首脳が直接話し合ったことは、本来は良いニュースのはずだ。しかし、そこには、ヨーロッパが聞き耳を立てなければならない雑音も混じる。今後はヨーロッパにとって難しい時代になるだろうということである。米国の第45代大統領が、権威的な支配者と奇妙な二国関係を築こうとするならば、ヨーロッパは、偉大な兄貴分の米国なしで、やっていかなければならない時代が本当に来ることを覚悟しなければならない。

 

 

 

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