海を救え! 欧州議会に続いて、理事会もプラスティック規制の基本方針を承認
青い海と白い砂—遠くからは美しい砂浜に見えても、歩いてみるとペットボトルやビニール袋、割れたおもちゃのカケラなど、プラスティックのゴミがあちこちに散乱していて、がっかりするということが増えてきた。世界中の海岸に打ち上げられたゴミの85%はプラスティックのゴミだという。そしてその半分以上は、ストローや使い捨ての食器だそうだ。年々増えるプラスティックのゴミは、景観を損なうだけでなく、海洋生物や生態系にも悪影響を与える深刻な問題だ。こんな現状を改善するために、使い捨てプラスティック製品の販売を禁止することなどを決めた基本方針が、欧州議会で10月24日、欧州理事会(加盟28カ国の代表で構成)ではその一週間後の10月31日に、承認された。
この基本方針は、欧州連合(EU)の行政機関である欧州委員会が今年の5月に提出した案に基づいたもので、その概要は以下のようなものだ。まず、より環境に優しい代替用品のあるプラスティック製品の販売を、EU域内では2021年から 禁止するというもので、ストローや使い捨てのスプーンやフォーク、皿などの食器類、綿棒の柄などがそれに該当する。ハンバーガーの容器やアイスクリームの入れ物など、より環境に優しい代替用品がまだないプラスティック製品に関しては、その量を2025年までに4分の1減らす。また、現在3分の1しか再利用されていないプラスティックの瓶のリサイクル率も、同じく2025年までに90%にひき上げる。ここまでは欧州委員会の案を採用しているが、欧州議会はさらに野心的な目標を掲げた。薄いビニール袋や食事の宅配やテイクアウトに用いられる使い捨てポリスチレン容器だけでなく、酸性型生分解性プラスティックの使用も近い将来禁止するという条項を加えたのだ。酸性型生分解性プラスティックは、太陽光にさらされると自然に分解されるので今までは環境に優しい素材だと思われていたが、実は多くのマイクロプラスティックを生み出すことがわかったからだ。こうした条項を含む案を、欧州議会は10月24日、賛成571、反対53、棄権34で承認した。
その一週間後の10月31日には、ブリュッセルで開かれた欧州理事会も、全会一致でこの使い捨てプラスティック禁止案を承認した。ドイツのスヴェンニャ•シュルツェ環境相は、「これはプラスティックゴミによる環境汚染をストップさせるための大きな一歩であり、この禁止が実施されるよう全力を尽くす」と宣言した。この理事会の決定を受けて、欧州委員会、欧州議会、欧州理事会の三者は、早速、詳細な草案作りに取り掛かる予定だ。現在EUの議長を務めるオーストリアは、年内にもその草案を承認し、2021年に施行することを目標にしているという。
世界中で毎年800 万トンのプラスティックのゴミが海洋に流され、すでに1億5000万トンのプラスティックのゴミが海を漂っているという。そして毎年、クジラやイルカなど10万頭の海洋動物と100万羽の海鳥が、プラスティックのゴミのせいで命を落としているそうだ。そういう現状を鑑みると、EUのこの取り組みは、遅きに失したのではないか、それに使い捨ての食器やストローを禁止したぐらいで、効果があるのかと疑問に思ったが、塵も積もれば山になるという諺もあるぐらいなので、何もしないより良いのかもしれない。しかし専門家の中から、この案ではプラスティックのゴミの弊害を取り除くのは不十分だという指摘がなされている。
例えば、ドイツのフライブルクにある環境研究所のゲオルク•メールハルト氏は、「海の汚染を防ぐためには、プラスティックの食器の禁止だけでは意味はない。化粧品やペンキ、包装などに使われているマイクロプラスティックの量を減らすことの方が重要だ」と主張する。マイクロプラスティックは直径5ミリ以下のプラスティックのかけらで、今、世界中の海で合わせて51兆個が漂っているという。魚を食べることで体内に入った マイクロプラスティック自体は体外に排出されるが、そこに付着している有毒物質が人体に悪影響を与えることが懸念されているからだ。 同じくフライブルクにあるシンクタンク、欧州政治センター(cep)のモーリッツ•ボン氏は、メールハルト氏とは異なる視点から、この案を問題視している。 つまり、「禁止するだけでは、消費者の意識は変わりません。一枚のプラスティックのお皿が海に浮んでいれば、それを投げ捨てた人が一人いるということです。政治はその問題に取り組むべきです」というのだ。
このサイトではプラスティックゴミの問題や、それを解決するための取り組みなどを何度か紹介してきた。プラスティックのゴミはまだ年々増えているが、海洋汚染のことが広く取り上げられるようになって、少なくともドイツの一部の人たちのプラスティックゴミに対する関心は高くなったように思う。しかしそれが、プラスティックをできるだけ使わないように心がけるという、日常の行動の変化にまで繋がったとはいえないように思う。 批判のあるこの方針だが、なるべく早く法として施行され、効果を発することを望まずにいられない。
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