二酸化炭素1トンの価格はいくら?

ツェルディック 野尻紘子 / 2019年3月24日

今年のドイツの冬は例年になく暖かかった。気温が零度以下になることはほとんどなく、2月には、各地で日中の最高気温が20度近くになる日が続いた。これも地球温暖化の影響だろうか。地球の平均気温を上昇させないためには、二酸化炭素の排出量を削減することが緊急の課題となっているのだが、ドイツ人は、この二酸化炭素を回避するために、どれほどの代金を払っているのだろうか。ケルンにあるドイツ経済研究所(IW、Institut der deutschen Wirtschaft)が面白い報告書を発表している。再生可能電力と電気自動車の導入でそれぞれ回避される二酸化炭素とそれに掛かる費用を提示し、二酸化炭素1トン当たりの代金を計算しているのだ。

報告書では、従来の発電方式ではなく、太陽光や風力という再生エネルギーを利用した際に発電分野で回避される二酸化炭素の量を、ドイツ連邦環境庁の発表に従って1kWh当たり640gと設定している。1kWhの再生可能電力を発電するための費用は、発電技術、装置の規模、装置の設置場所などによって異なる。ドイツの場合、再生可能電力には「再生可能エネルギー優先法(略称:再生可能エネルギー法、EEG)で発電開始から20年間、一定の固定価格(FIT)が支払われるので、報告書ではその固定価格を発電費としている。ただ、この固定価格は再生可能電力の種類によって異なるだけでなく、支払いの始まった時期によっても異なる。例えば、太陽光発電には初期の段階では技術が未熟だったために高額の固定価格が支払われたが、現在は技術が進み価格が下がっている。そこで報告書では、太陽光や風力などの種類別に、しかも高低の差のある固定価格それぞれの平均を発電費の基準としている。

計算によると、二酸化炭素を回避するための費用は太陽光発電が一番高く、1トン回避するための代金は415ユーロ(約5万2290円)になる。次に高いのは地熱発電で345ユーロ(約4万3470円)、これに252ユーロ(約3万1752円)の洋上風力発電とバイオマス発電が続く。経費が軽くなるのは水力発電の108ユーロ(約1万3608円)、陸上風力発電の106ユーロ(約1万3356円)。一番安いのはゴミ処理所で発生するガスを利用した発電で、1トンの二酸化炭素を回避する経費は68ユーロ(約8568円)にすぎない。

IWの報告書では次に、ガソリン車やディーゼル車の代わりに電気自動車を導入した際に回避される二酸化炭素とそれに掛かる費用を計算している。ドイツ政府は現在、電気自動車を普及させるために、電気自動車を購入する人に、その種類により異なるのだが、約4000ユーロ(約50万4000円)の補助金を支払っている。報告書では、電気自動車の導入で回避される二酸化炭素の量は、町を走っているガソリン車の二酸化炭素排出量に相当するとし、それを走行1 km当たり120 gと設定している。そして車が廃車になるまでに20万km走ると仮定している。そうすると、ガソリン車が廃車されるまでに排出する二酸化炭素の量は、120 g x 200 000 km = 24 000 000 g = 24 t 、つまり24トンだ。電気自動車ではその24トンの二酸化炭素が回避できる。24トンの二酸化炭素を回避する費用は4000ユーロなので、二酸化炭素1トンを回避する費用は、4000ユーロ÷ 24 t = 167ユーロ(約2万1042円)となる。

報告書はさらに、2021年から欧州で有効となるガソリン車が守らなければならない二酸化炭素の許容排出量についても考慮している。規制によると、自動車メーカーは2021年から販売する全てのガソリン車の二酸化炭素排出量を、走行1km当たり平均で1台95 gにしなくてはならない。そしてその値が守れない場合には、超過する1gごとに95ユーロ(約1万2970円)の罰金を支払わなくてはならない。罰金の値段を計算してみると、次のようになる。車1台の走行距離を計算上、電気自動車と同じ20万kmとする。二酸化炭素の排出量が1km当たり許容範囲を1g超過する車の場合、この車が廃車までに排出する超過分の二酸化炭素は1 g x 200 000 km = 200 000 g = 0.2 t、つまり0.2トンになる。この二酸化炭素0.2 tのためにメーカーが支払わなければならない罰金は95ユーロだ。従って、この際の二酸化炭素の価格は1トン当たり475ユーロ(約5万9850円)と相当高くなる。そして二酸化炭素の排出量が許容範囲を2g超える場合には、罰金はその倍の950ユーロ(約11万9700円)ともっと高くなる。

上の計算には、太陽光発電や風力発電の設備を作る際に排出される二酸化炭素や、同じく電気自動車の製造や充電のために必要になるインフラ設備の建設のために排出される二酸化炭素は含まれていない。しかしどの例を見ても、二酸化炭素を回避するための代金は非常に高いことがわかる。

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