原発に固執するフランス

池永 記代美 / 2021年10月24日

ドイツでは現在稼働している6基の原発のうちの3基が今年末までに、残りの3基が来年の年末までに停止することが決定している。そのため、「原発は過去のもの」という意識が市民の間で定着している。そんな中でお隣りの国、フランスのマクロン大統領は、小型モジュール原子炉の開発に投資を行うと発表し、ドイツとフランスの原発政策の違いをまざまざと見せつけた。

「原子力があるのは幸運だ」という言葉まで飛び出したエマニュエル•マクロン大統領の演説は、10月12日、産業界の代表や学生を招いて大統領府であるパリのエリゼ宮殿で行われた。この演説でマクロン大統領は、2030年にフランスがどうありたいかを語ったのだが、フランスは技術革新と研究の分野で世界の指導的立場に立つことを目指す、そしてその鍵を握るのは自動車産業と航空産業、それに原子力産業だと強調した。政府はこれからの5年間に総額300億ユーロ(約3兆9000億円)の投資を行うが、そのうち80億ユーロ(約1兆400億円)は脱炭素化に、中でも小型モジュール原子炉(Small Mpdular Reactor/SMR) の開発や核廃棄物処理に関する技術に10億ユーロ(約1300億円)を当て、2030 年までに複数のSMRを建設したいという。

マクロン大統領はこの演説で、原子力だけでなく再生可能エネルギーの促進も約束したが、現在70%以上の電力を原発に頼る原発大国フランスにとって、二酸化炭素をほとんど排出しない原発は、気候保護目標を達成するためにはなくてはならない存在だ。しかしフランスが原発にこだわるのは、エネルギー上、他国への依存を可能な限り少なくするためでもあるという。現在のように国際市場で天然ガスや石油が高騰すれば、電力代や暖房代も値上がりし、市民生活が脅かされる。また不安定な国際情勢を鑑みると、外国にエネルギー源を頼るのは大きなリスクでもあるとの判断からだ。

待ちの姿勢のメルケル首相とは対照的に、次々と野心的な計画を打ち出すマクロン大統領  ©️twitter.com/EmmanuelMacron

原発が事故を起こした場合、その被害は近隣諸国にまで広がる。それだけにドイツは隣国フランスの原発政策に無関心ではいられない。2018年にマクロン大統領が発表した、原発依存度を2035年までに50%に引き下げるというエネルギー国家戦略は、ドイツで好意的に受け取られた。また、1977年に操業開始したフランス最古のフェッセンハイム原子力発電所が昨年6月に停止した時、ホッとしたドイツ人は多かった。この原発はドイツの国境から100メートルも離れていない所にあり、過去に数々の事故を起こしてきたからだ。それだけに今年の2月、フランス原子力安全局(ASN)が、国内にある56基の原発のうち、主に1980年代に建設された32基の古い原発の耐用年数の規定を、従来の40年から50年に延長することを認めたことに、ドイツ人は落胆し、不安を覚えた。稼働期間の延長には、安全確保のために必要なあらゆる措置をとることが条件とされた。しかしドイツのスヴェンニャ•シュルツェ連邦環境•自然保護•原子力安全相は、フランスのエネルギー主権は尊重するとしながらも、「稼働期間延長は、誤った道だ。欧州にある原発の老朽化が進むことを憂慮しているが、その中にはフランスの古い原発も含まれている」と語った。

今回のマクロン大統領の発表に対しても、原発を管轄するシュルツェ氏が率いる連邦環境省はフランスとの立場の違いを明らかにした。マクロン大統領が演説を行った翌日の10月13日、ベルリンで行われた記者会見で同省報道官は、エネルギー政策は各国が自由に行うべきだが、何が持続可能に該当するのか、欧州連合(EU)内で合意の形成が必要だと注意を促した。この発言の背景には、フランスやポーランド、チェコなどEU内の10カ国が原発は持続可能で、EUが助成金を出すに値すると主張するのに対して、ドイツやオーストリアなどがそれに反対するという両者の対立がある。もちろんフランスは、原子力がEUで持続可能な技術と認定されれば同国の原子力産業にEUから多くの助成金が流れ、投資も集まることを期待しているのだ。しかしドイツ連邦環境省報道官は、「もし原発事故が起きれば、その地域に何十年も人が住めなくなり、事故のもたらす損害に対して将来の納税者が費用を払い続けなければならない。それに核廃棄物の貯蔵施設の問題も解決していない。これから3万世代が核廃棄物の問題と取り組まなければならないことを考えても、原発を持続可能とはみなすことは、絶対できない」とはっきり述べた。

小型モジュール式原子炉 (SMR) プラントのイメージイラスト©️NuScale Power

SMRを推進する人たちは、従来の原発に比べてSMRは小型であるため、冷却機能を失っても自然に炉心が冷却されやすく安全性が高いと主張する。また、規格化された建築部材を現地で組み立てるだけなので建設費を低く抑えられ、工期も短縮できることを評価している。さらにSMRのメリットとしては、 稼働させる原子炉の数を変えることで電力の出力を柔軟に調整できるため、自然条件に左右される風力や太陽光による発電を補うには理想的な発電施設だという点も挙げられている。

しかし、ドイツ南部フライブルクにある環境保護や持続可能性についての研究所Öko-Institut が連邦放射線廃棄物処分安全庁(BASE) のために31種類のSMRの構想を調査して作成した報告書によると、SMRは出力が少ないため、現在世界で稼働している400基あまりの原発を補うために、将来、数千から数万基のSMRの建設が必要になる。また、1基が事故を起こした時に放出される放射能の量は少ないが、原発の数そのものが増えるため、総合リスクはかえって大きくなるかもしれない。その上、核廃棄物の問題は相変わらず未解決のままであり、世界各地に分散して建てられたSMRを管理、監視するのは困難になり、核物質が核兵器に転用される危険性も高まるという。おまけにSMRより再生可能エネルギーの方が1メガワットの電力を安く生産できるという結果も出たそうだ。さらに、ドイツの環境保護団体BUNDのシュテファン•アウフター氏も、SMRは市場での商品化には程遠いと指摘しており、「フランスの計画はロシアンルーレットと同じだ。もしSMRの開発に失敗した場合、フランスは再生可能エネルギーに移行するための貴重な時間を無駄にしたことになる」と警告を発している。

このように、ドイツは「次世代の原発」と呼ばれるSMRに対しても非常に厳しい見方をしているが、ドイツ第二公共テレビ(ZDF)のフランス特派員トーマス•ヴァルデ氏によると、フランスではマクロン大統領の計画は国民に歓迎されているという。原発の推進は気候保護だけでなく、経済成長や雇用も保証してくれると思われているからだ。ゆえに、マクロン大統領の今回の発表も、来年4月の大統領選を意識したものと受けとめることができそうだ。ヴァルデ記者によるとマクロン大統領に負けじと、「国民連合」党首で大統領候補のマリーヌ•ル•ペン氏は、現在フランス北部のフラマンヴィルで建設中の欧州加圧水型炉(European Pressure Reactor/EPR) の原発を国内に6基建設することを、また、日刊紙「フィガロ」の元記者で大統領候補として急浮上している極右のエリック•ザムール氏は、10基の原発の建設を提案しているという。しかしフラマンヴィルのEPR型原発の建設費は当初予定の4倍に当たる120億ユーロ(約1兆5 600億円)に膨れ上がり、完成も11年遅れて2023年になると見られていることを考えると、フランスの政治家や国民がそこまで原発に固執する意図を図りかねる。政治家も国民も、専門家たちの意見にもっと耳を傾けるべきではないだろうか。

それにしても原発政策に関してこれだけ意見の異なるフランスとドイツが、現在のエネルギー価格高騰や、エネルギー供給源でもあるロシアとの付き合い方について、EUの中でどのように一緒に問題解決のために取り組んで行けるのか、調整や仲介に長けたドイツのメルケル首相が引退することもあり、一抹の不安を感じずにはいられない。

関連記事:タブーだった原発稼働の延長の問いかけ/仏フェッセンハイムの原発停止、どうやら本当!?

3 Responses to 原発に固執するフランス

  1. Hiroomi Fukuyawa says:

    池永さん

    記事を読みました。フランスに関してよくまとまっていると思います。しかし、EU内でフランスと10カ国が、原子力電力をグリーン電力として認めさせる動きが触れられていません。もしこれが認められると、巨大な資本が投資されることになります。たとえば、ノルウェーの年金基金などの資金が。これらは現在原子力に投資できません。一つリンクをお知らせします。https://www.manager-magazin.de/politik/europa/streit-in-der-eu-ist-atomkraft-ein-gruenes-investment-a-b309b541-ce4c-4c2e-82cd-cbb65188da46
    よろしく。  福澤啓臣

  2. Hiroomi Fukuzawa says:

    池永様

    先ほどは早とちりをして失礼しました。このことについて触れられていますね。ただ、もう少し詳しく資本の流れが大きく変わる可能性について書いていただけたらと思いました。現在では巨大なノルウェーの年金基金などは原子力に投資できませんが、できるようになります。。
    よろしく。

    ふくざわ

    • 池永 記代美 says:

      福澤様 ご指摘ありがとうございました。EU内で原子力が持続可能と認定されると、原子力産業が魅力的な投資先になってしまうという危険性について、少し触れましたが十分ではないのは確かです。もう少しこれから勉強して、今後の動きに注目して行きたいと思います。なお、フランスの財務•経財相の公開書簡に署名したのは、合計10カ国の閣僚などでしたので、原発を持続可能とみなすことを要求している国の数を、9カ国から10カ国に訂正いたします。