VWもカーシェアリング市場に参入 — 所有から共有へ

池永 記代美 / 2018年9月2日

VWは2019年、電気自動車でベルリンのカーシェアリング市場に参入。©Volkswagen AG

世界最大の自動車メーカーであるフォルクスワーゲン(VW)が、2019年からベルリンでカーシェアリングのサービスを開始すると発表した。同社の市場参入によって、この分野で先行していたベンツ、BMWとVWのドイツ自動車メーカー御三家が勢揃いすることになる。VWはこれをきっかけに、モビリティーサービスに力をいれるそうで、メーカーが自動車を製造するだけの時代は終わったと言えそうだ。その背景には、 物を持つより、必要なときだけ借りて使う方が賢いという新しい生活スタイルの普及がある。

現在ベルリンでは10の会社が、合計3000台の車のシェアリングサービスを提供している。だからベルリン市内のあちらこちらで、車体に大きなロゴの入ったシェアリング車を よく見かける。「DriveNow」というのはBMWのブランドで、市内では最も多い1300台。二番手はベンツの「car2go」で、1200台ある。カーシェアリングのタイプには、駅や駐車場など決められた場所で車を借りたり返却したりするステーション型と、路上に駐車されている車を自由に借り、好きな場所で乗り捨てができるフリー・フローティング型の二種類がある。人気があるのは後者の方で、BMWもベンツも、このタイプのサービスを提供している。

公共ステーションで充電中のシェアリング車

VWも「We Share」という名前で、フリー・フローティング型のサービスに参入するという。段階的に合計2000台の車を投入する予定で、ベルリンのカーシェアリング市場は、急激に拡大することになる。ライバルに一足遅れをとったVWだが、提供するのはすべて電気自動車というのが売り物だ。電気自動車の良さを知ってもらい、市場を開拓するのが狙いだが、ディーゼル車の排気ガス不正問題がもたらした悪いイメージを返上することも目論んでいるようだ。今はまだ不十分な充電ステーションの拡充についても、州政府や電力会社と合意したとのこと。ベルリン市内の電気自動車の数も、これによりほぼ倍の4000台になるそうで、ベルリンの空気が少しでもきれいになれば、ありがたいことだ。

ドイツでは2010年ごろから始まったカーシェアリングだが、連邦カーシェアリング連盟が今年の初めに発表した統計によると、ドイツ全国で211万人が165社の車を利用しているという。昨年に比べて利用者の数は23%も増えている。統計を見て少し驚いたのは、ベルリン、ハンブルク、ミュンヘンといった大都市だけでなく、人口2万人以下の336の自治体にもカーシェアリングを行なう会社があることだ。その結果、数字の上では、ドイツの人口の半分に近い約4000万人が、カーシェアリングを利用することができるそうだ。

このようにカーシェアリング市場が急成長していることは、いろいろな理由から、車を持つことに魅力を感じない人が増えていることを示している。その最大の理由は、やはり費用の問題だ。ある調査によると、自家用車の利用時間は平均一日1時間だという。つまり一日23時間は停まっていて、ガレージや路上をふさいでいるわけだ。使わなくても税金や保険は払わなければならないので、ドイツでは年間走行距離が1万キロ以下の場合は、シェアリング車を利用した方が得になるそうだ。それに加えて、環境意識の高まりも後押しした。1台のシェアリング車は4台から10台の自家用車を補うといわれていて、1200KgあるVWのGolf 1台をシェアすることで、4800Kgから1万2000Kgの資源、そしてそれだけの車を製造するために必要なエネルギーの節約もできることになる。

考えてみると、住まいのシェアや車の相乗りなど、ドイツ社会では物をシェアする習慣はずっと前から根付いている。私は見知らぬ人と長時間、同じ車に乗るのに抵抗があるが、節約家で実益をとるドイツ人は、そんなことは気にしない。だから今は車だけでなく、本、おもちゃ、工具、洋服など様々な商品のシェアリングが進んでいる。いろいろな商品のシェアリングを可能にしたのは、スマートフォンや専用アプリの存在だ。だから消費社会を批判して、質素な生活を提唱してきた人たちとは異なる層の人たちの間に、所有するより、好きな時に使える方がおしゃれでスマートという考え方が広まっている。 車についていうと、25歳から34歳の高学歴の人の間で、シェアリングの人気が高いという。これからも技術革新で、意外な商品やサービスのシェアリングが可能になるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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