エネルギー転換、成功の鍵はフレキシビリティー
エネルギー転換の成功は太陽光や風力発電にかかっている。再生可能電力は熱需要や交通分野でも利用できるからだ。在ベルリンの再生可能エネルギー・エージェンシー(AEE、Agentur für Erneuerbare Energien)がこのほど複数の調査結果をまとめた。
複数の調査の分析に当たったのはスイスの有力コンサルタント会社プログノス。AEEの委託で、ここ数年間にドイツの著名な研究機関が発表した電力のフレキシブルな利用とその可能性に関する25の調査の結果をまとめ分析した。
2015年にドイツで発電された再生可能電力は196TWhで、ドイツの総発電量の約30%に達した。調整がうまくいかなかったために、多量の電力が輸出されたり、あるいは発電装置が一時的に電力網から切り離されたりしたこともあり、電力が100%効率的に利用されたとは言えない。そのため、世間にはこの事実を無駄遣いと批判する声もある。しかし自然電力がドイツの電力総需要を上回ったことは一度もない。そして将来的に発電量が電力需要を上回る場合には、それを現在は化石燃料に頼っている熱需要、つまり暖房や給湯、あるいは工業用の熱として、また電気自動車などの交通分野でも活用し、エネルギー転換を進めることができる。
電力の将来的な熱・交通分野での利用のために、再生可能電力の発電装置の新設がどれほど必要となるかは、個々の調査によって異なった。2030~2035年までに140~160GWの新装置が必要だとしたのは8件の調査、もっと多くて170~246GWとしたのは他の8件の調査だった。(ちなみに、2015年にドイツにあった自然電力発電装置の容量は97GW。)その際、どの調査でも最も重要とされたのは風力と太陽光発電で、両発電装置の占める割合は90%前後だった。この容量は、昨年末にパリの気候変動対策の国際会議、COP21で取り決められたCO2の削減目標値の達成にも必要な値である。
再生可能電力の発電量が増えるということは、ドイツの電力システムが高度にフレキシブルでなくてはならないことを意味する。この柔軟性は、従来型の化石燃料を使う火力発電やバイオガス発電、コージェネレーション(熱電併給)などの効率的な利用、また必要な電力網の構築、隣国との電力の交換、時間と量的にフレキシブルな電力の消費、そして蓄電装置(バッテリー)の開発などを通して達成できる。
電力を熱として利用する際にはヒートポンプが重要な役割を果たす。また熱に変換した電力を温水などとして蓄える方法もある。交通分野ではまず、直接電力で走る電気自動車がある。また電力を power to gas 方式で水素に変換して、その水素を使って走る水素自動車や power to liquid 方式で作られた燃料を使って走る自動車がある。
どのフレキシビリティーの可能性がいつ必要になるかは、電力網の構築や蓄電装置価格の展開、その他の可能性との相互関係に左右される。このまとめでは、大型の蓄電装置が必要になり、水素も本格的に車の燃料となるのは2030年以後だろうとしている。それ以前には、より安い可能性で余剰電力が経済的に利用できるからだ。しかし長期的には全ての可能性を駆使することが必要で、それらは2030年頃までには経済的に利用できるようになっているだろうという。
どの調査でも最も重要とされたのは風力と太陽光発電で、エネルギー転換の成功は太陽光や風力発電と、電力システムの高度なフレキシビリティかかっている、という指摘、今後の方向性が確認できるように思います。
去年の11月14日、みどりの1kWhの皆さんにお会いする前に、ベルリン自由大学の研究室でお話をうかがえたミランダ・シュラーズ氏は、『ドイツ脱原発倫理委員会報告 社会共同によるエネルギーシフトの道すじ(原題『ドイツのエネルギー大転換-未来のための共同事業』)』( 大月書店、 2013年7月)で、前書きに代えて「日本の読者のみなさんへのメッセージ」を書き、そこで私たちにに次のようなエールを送ってくれていました。
〈日本のエネルギー効率化とバッテリー開発の専門性を考えれば、日本は電力貯蔵システム開発において、世界のリーダーになることもできます。国内に豊富な風力、太陽光、地熱、バイオマスの資源を持つことは、日本がエネルギー大転換に進む大きなポテンシャルとなるのです。〉
こんなエールをいただきながら、それにほとんど応えられていない日本の現状に、氏は、口にこそしませんでしたが、歯がゆさ、もどかしさ、あるいは腹立たしさ、といったものを覚えているに違いないと思えてなりませんでした。