イタリアでグローバル化について考える(1) 〜人生、買い物、食べ物〜
この秋、2か月半をイタリアで過ごす機会を得て、いろいろなことを考えた。「同じヨーロッパでもドイツとはここが違うな」と感じる点、「イタリアにもグローバル化の波が押し寄せているなあ」と感じる点、いろいろあった。2か月半とは、1か国を旅行するにしては長いが、滞在としては短い。私はイタリア語も出来ず、イタリア人の知人がいるわけでもないので、ごく上滑りな感想になっている可能性もあるが、自分がイタリアで見て聞いて感じたことを、いくつか書いてみたい。
「ライフ・イズ・ビューティフル」な国
「イタリア人は人生を楽しむのが上手」というのは、日本でもよく知られたステレオタイプ像だが、実際に滞在してみても、それは感じた。常連客とおしゃべりしながら楽しげに働く市場のおじさんや、仕事のあとエスプレッソをクイッと一杯立ち飲みで引っかけて家路につく地元の人などを見ていると、「生活する」ということそのものが、とても愛おしく思えてくる。
ドイツでは「美しくない」とされていること−−例えば、洗濯物を外に干すこと、古い建物の剥がれた外壁をそのまま放置しておくことなど−−にも、イタリア人は美しさを見いだしているようだった。色とりどりの洗濯物がはためく下町、朽ちかけ苔が生えているけれど歴史が感じられる建物の壁などは、私にもとても美しく思えた。
消費は美徳?
またイタリア人は、ドイツ人よりも消費することを素直に楽しんでいるように見えた。美しく飾られたお菓子屋さんやブティックのショーウインドーを見ていると、私も何か買いたくなってくる。
ドイツに住んでいると、「未来完了形」財団のハーラルド・ヴェルツァー教授が放つような消費生活への警告をしばしば目にし、消費は悪徳のように思えてくるのだが、イタリアでは「美しいものを見て、食べて、買って、人生を楽しむ」ということは、むしろ良いこととみなされているようだった。
活気ある市場と過剰包装
イタリアはドイツに比べると、伝統的な「市場」がまだまだ健在だ。ここで言う「市場」とは、「地元の業者が一か所に集まって、屋台のような場所で、近郊でとれた野菜や酪農製品を売る」という形式のものだ。大きな駐車場がついた郊外型のスーパーマーケット・チェーンは、ドイツほど多くはないようだった。
地産地消を実践し地域に密着している市場を、私は大いに気に入ったが、ここの包装は過剰に思えた。いろんなお店を回って、何種類もの野菜やハムやチーズを買うと、小さなビニール袋をいっぱいもらうことになってしまう。
また、例えばハムを買うと、互い違いにハムと油紙を重ねてくれるのだが、私などは「そんなにたくさん紙を使わなくてもいいのになあ」と思ってしまう。これも市場のお兄さんに言わせると、「うちの特製のプロシュート・ディ・パルマを、そんな適当な包み方できるわけないだろう!」ということになるのだろうが……。
イタリア人は、食に対して保守的?
「寿司は今や世界を席巻している」とよく聞く。またドイツや、以前住んでいた英国では、街で和食屋さんをしょっちゅう見かけた。が、私の住んでいたイタリアの60万都市ジェノヴァでは、和食が食べられそうなお店は、ほんの3軒ほどしか見かけなかった。うち2軒は「中華料理店のメニューの一部に寿司や焼き鳥がある」という形だ。
和食だけではない。イタリアでは、大きな街であっても、イタリア料理以外のレストランを見かけることが少ないように思った。なぜだろうか? 「イタリアには、すでにたくさんおいしいものがあるから、他国の食文化を取り入れる必要がないのだ。ろくにおいしいものがないドイツや英国と一緒にしてはいけない」という答えがまず頭に浮かぶ。
しかし、おいしいものが好きなのなら、外国のおいしいものにも興味がわかないのだろうか? たとえば、日本人は食を重視する国民だと思うが、東京には外国料理のレストランがあふれ、田舎出身の70歳のうちの母もスパゲティーを上手に作れる。イタリア人はおいしいもの好きだけど、食に対して保守的ということなのか? この点、何だか不思議だった。
もう一つ、食に関して「ドイツや英国とは違うなあ」と思ったのは、レストランにベジタリアン・メニューがないこと。欧州では、国によっては、環境への配慮から菜食主義になる人が結構いるが、イタリアではあまりいないのだろう。また、イタリアに住んでいる人は、ほとんどがカトリックのイタリア人なので、「宗教的理由で、特定の肉が食べられない」という人が少ないのかなと思った。
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