遅れる「電力アウトバーン」の建設

ツェルディック 野尻紘子 / 2016年6月19日

ドイツのエネルギー転換に伴い、ドイツ北部や北海・バルト海のウィンドパークで多量に発電される電力を、電力需要の多い南ドイツ地方に送るために不可欠とされる数本の高圧送電網の敷設が遅れる見込みだ。以前の計画では、ドイツで最後の原発が停止される2022年末までに完成することになっていたが、住民の反対が多かったために、2015年秋、送電網の大部分を地下に埋設するように計画が変更されたことが理由だ。ドイツ連邦ネットワーク庁の発表による。

通称「電力アウトバーン」とも呼ばれる基幹直流高圧送電網にはまず「ズュードリンク(図ではC)」と「ズュードオストリンク(図ではD)」がある。「ズュードリンク」は、ハンブルグの北約60kmのヴィルスター(ここにはブロックドルフ原発がある)と、大都市としては近くにヴュルツブルクのあるグラーフェンラインフェルド(ここにあった原発は昨年夏停止した)を結ぶ。「ズュードオストリンク」はザクセン・アンハルト州のヴォルミアシュテッテからバイエルン州のランズフート(ここにはイーザー原発がある)に達する。

 両者は当初、空中に架けられる送電線として計画されていた。しかし電線の通るドイツ南部、特にバイエルン州政府の強い希望で、地中送電線が優先的に採用されることになった。同地の住民らが「景観が損なわれる」「電磁波の人体に対する影響が怖い」などとデモを繰り広げ、大反対したことが背景にある。

このため、送電網会社は新しい敷設計画を立てなくてはならず、当局への申請も新たに準備しなくてはならない。ドイツ連邦ネットワーク庁によるとこの結果、両送電網が完成するのは少なくとも3年遅れて、2025年になるだろうという。

北海のウィンドパークで発電される電力を、北のエムデン港から現在まだ原発が稼働している南ドイツ、バーデン・ヴュルテンベルグ州のフィリップスブルグまで運ぶ送電網(図ではA)も、当初から地中送電網として計画されていたエムデンとオステラート(ノルトライン・ウエストファーレン州)間の送電網でさえ2025年以前には完成しないという。しかしオステラートとフィリップスブルグ間の敷設は順調に進んでいる。この区間は、既存の交流ケーブル用の電柱に直流ケーブルも載せるようにするので、2021年にも完成するという。

ネットワーク庁によると、エネルギー転換のためにドイツで必要となる送電網の長さは6100kmで、そのうちの約半分は新しく建設されなくてはならない。高圧送電網の出発点と到着点が以前に原発があったり、或はまだ原発が稼働していたりする地点に多くあるのは、既存の送電網や配電網を活用するためだ。

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One Response to 遅れる「電力アウトバーン」の建設

  1. 折原(埼玉県) says:

     ドイツ北部や北海・バルト海で多量に発電される電力を、電力需要の多い南ドイツ地方に送るために不可欠とされる数本の高圧送電網の敷設が遅れる、とのこと。
     おそらくそれが分かりながら、住民は「景観が損なわれる」「電磁波の人体に対する影響が怖い」などとデモを繰り広げ、反対したのではないでしょうか。その結果が、電線の通るドイツ南部、特にバイエルン州政府の強い希望で、地中送電線が優先的に採用されることになったのですね。
     簡単には納得しない完璧主義が、結果として、よりいい結論を導いたのだと思いました。