ベルリンの反コロナ・デモについてのドイツの新聞論調

永井 潤子 / 2020年9月6日

8月29日の土曜日、ベルリンでは政府のコロナ規制措置に反対する大規模なデモが行われ、警察発表で3万8千人が参加した。このデモはシュトゥットガルトのQuerdenken 711というグループが主催したものだが、Querdenken(クヴェーアデンケン)というのは「一般の風潮に逆らった考え方をする」という意味である。こうした名前のもと、「政府の規制措置は個人の自由を制限するものだ」と考える人たちだけではなく、「コロナウイルスは存在しない。コロナ危機は、特定の人物に操作されてつくりだされた」という陰謀説を信じる人、アメリカの陰謀論「キューアノン」支持者、ワクチン接種反対派、神秘主義者、反ユダヤ主義者、反イスラム主義者、ネオナチ、極右主義者、右翼ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の政治家や支持者その他種々雑多な人たちが、このデモのために全国からベルリンに集まってきた。

このデモはベルリン州警察によって一旦禁止されたため、直前まで実施されるかどうか不明だった。当局側がデモを禁止する意向を示したのは、同グループが主催した8月1日のデモで、参加者がコロナ規制措置を守らなかったという理由からだった。主催者側は規制措置を守ると発表し、デモの禁止を不当だとして、行政裁判所に異議申し立てをしたところ、裁判所は前回と同じようにコロナ規制措置を守らないだろうという予想だけでデモを禁止することはできないとして、デモの権利を認める判決を下した。当局側はさらに上級行政裁判所に上告したが、結局、デモ当日の朝になって、デモ禁止は認められないという判断が下された。こうした経緯に、デモ参加者が勢いづいたことは否めない。

デモの警備のため当日は3000人の警官が動員されたが、ロシア大使館前などで騒動を起こしたデモ参加者300人が拘束された。連邦首相府に突入しようとしたデモは警官によって阻止されたものの、右翼のグループがドイツ帝国の旗などを振りかざしながら議会前の柵を乗り越えて階段を駆け上がり、内部に突入しようとした姿がテレビで放映され、人々に大きな衝撃を与えた。

ドイツの新聞はさまざまな観点から、この日のデモについて論評している。首都ベルリンで発行されている日刊新聞「ベルリーナー・モルゲンポスト」は、ベルリン州当局のデモ禁止が行政裁判所によって覆されたことに触れ、「警察は政治的な愚行の後始末をさせられた」と皮肉交じりに次のように書いている。

最初に警察はデモ参加者に対し、デモ参加の条件(訳注:ソーシャルディスタンスを取ること)を守るよう要求した。しかし、全く驚いたことに何事も起こらなかった。そこで、条件がさらに厳しくされた(訳注:マスク着用が要求された)。しかしこれまた全く驚いたことに、全然守られなかった。そのため、デモは解散を命じられたが、さらにまた驚いたことに誰もその命令に従おうとはしなかった。そのため、警官によるデモ参加者の強制的排除が続いた。これだけの無視が続いたベルリンのデモは、今後のデモに影響をもたらさずにはおかないだろう。結果として何が残ったか? デモを禁止しようとしたベルリンの内務相の名誉は傷つき、正確には決して測定できないコロナ感染の増大が残された。そして、最もクレージーで、危険な思い違いや混乱した考えを持つ人たちも、民主主義のもとでは街頭でデモをすることを許されるという、目に見える証拠が示された。

ソーシャルディスタンスを取らず、ほとんどの人がマスクを着けなかったため、警察はデモ行進を中止したが、デモ参加者たちは居座り続けた。

同じくベルリンの新聞「ターゲスシュピーゲル」は、次のように書き始めている。

結局デモに関するテレビニュースで支配的だったのは、連邦議会の建物の階段を駆け上る、いわゆる「帝国市民」を名乗るグループのデモ参加者たちの映像だった。彼らが連邦議会の中まで突入しようとするのを、当初はわずか3人の警官が防いだ。ホルスト・ゼーホーファー連邦内務相は「黒・白・赤のドイツ帝国の国旗が連邦議会の建物の前で振りかざされる映像を見るのは堪え難いことだ」と語った。また、キリスト教民主同盟のアネグレート・クランプ=カレンバウアー党首は「こうした事態に激怒している」と述べた。そしてフランク=ワルター・シュタインマイヤー連邦大統領も「我々の民主主義の心臓部への攻撃だ」と遺憾の意を表明した。

このような怒りに満ちた声高な反応は確かに、土曜日とその翌日の日曜日にもベルリンで行われたコロナ政策に反対するデモの一部の参加者の主張(訳注:例えばメルケル政権は独裁政権だなどという正しくない主張など)に対する反応としては当然のものかもしれない。しかし、デモ参加者はそのような人ばかりではなかったのだ。デモ参加者の中には民主的な国家体制を否定するわけでもなく、極右でもなく、神秘主義者でも陰謀説信奉者でもない人たち、それでもコロナ危機に対する政府の政策を行き過ぎだとして反対の意思を表明したかった人も少なからずいたのだ。そういう人たちは、間違った人たちと一緒にデモをすることが、どういう結果をもたらすか、今回よくわかったはずだ。「帝国市民」その他のクレージーな人たちと一緒に行動する人たち自身にも責任がある。

「ベルリンでの反コロナ・デモ参加者の何百人かが議会の建物に突入しようとした悲劇は、不名誉で、恥ずべきイメージを作り出した」と書いているのは、南ドイツのホーフで発行されている新聞「フランケンポスト」だ。

選りに選って、過去の歴史とかかわりのある戦勝記念塔やブランデンブルク門での集会やデモ、それに議会の建物への攻撃は、彼らが民主主義や法治国家についてどう思っているかを明確に示している。つまり、彼らは民主主義や法治国家を全く評価していないことがわかった。彼らは我々が勝ち取ってきたこれらのものを、踏みにじったのである。彼らはこうした行為で彼ら自身の自由も踏みにじったことに、気がつかないようである。彼らの嫌悪すべき行為は、ドイツの最も暗黒の歴史を思い起こさせた。

「土曜日のデモの映像は、民主主義の敵であるナチ的な人たちが強い自負を持って登場するようになったことを示した。そのことに愕然とする」と書いているのは、南ドイツのパッサウで発行されている新聞「パッサウアー・ノイエ・プレッセ」だ。

多数決で物事を決める社会に対する彼らの憎悪は、非常に大きいため、それを隠すことなく、破壊欲を一気に見せつけた。このことから我が国の多数を占める者は、結論を出さなくてはならない。その最も重要な結論は、これは我々の国であり、我々の自由であり、我々の民主主義であるということである。ドイツには議会を占拠する者たちの居場所はない。

東部ドイツのドレスデンで発行されている新聞「ゼクシッシェ・ツァイトゥング」は、次のように論じている。

誰しも連邦政府や州政府のコロナ対策に反対して平穏にデモをする権利はある。ベルリンの今回のデモで見られたように、政治家たちに囚人服を着せ、有罪と書いたプラカードを掲げるなど、悪趣味な手段も許されるかもしれない。そしてコロナウイルスなど存在しないとか、パンデミックの背景には見えない権力がうごめいているとか主張することもできるかもしれない。しかし、彼らはデモ参加の条件であるソーシャルディスタンスをとることやマスクの義務を免れることはできないし、批判されることも我慢しなければならない。彼らは「我々こそ国民だ」と主張しているが、そうではなくて少数派に過ぎないのだ。

同種の別の集会で見かけた網目のマスクをする人。マスクの有効性を否定し、マスクをしている人を馬鹿にしている。

ヘッセン州のカッセルで発行されている新聞「ヘッシッシェ・ニーダーゼクシッシェ・ アルゲマイネ」も次のように指摘する。

今「我々こそ国民だ」と叫びながらベルリンをデモして歩く者は、1989年に同じモットーを掲げてデモした旧東独市民を嘲笑することになる。当時の彼らは本当に自由ではなく、独裁体制に反対して勇気あるデモを行ったのだ。今のドイツ人は民主主義体制の中で生きている。そして国民の大多数は、極右主義者によってこの民主主義に再び疑問符が付けられることなど、考えることもできない。少数派が多数派に対し、独裁政権の中で生きているのだと信じさせようと試みる時に、多数派はこの問題で、はっきりした態度をとり、その態度を表明する必要がある。

なお、日本ではソーシャルメディアを通じて、今回のデモの参加者数が130万人もいたと伝えられ、彼らが多数派であるかのような間違った情報が広まっていると聞く。しかし、それは全く正しくない。筆者自身、20年来集会の行われた戦勝記念塔のすぐ近くに住み、100万人が参加したラブパレードも見てきたが、今回の反コロナ・デモは到底ラブパレードの規模には達していない。ちなみにドイツ第二公共テレビ(ZDF)が8月28日に発表したアンケート調査によると、現在連邦政府や各州政府によって取られているコロナ対策を適切だと評価している人は60%で、もっと厳しくするべくだと考える人が28%もいた。今回のデモ参加者のように、行きすぎだと答えた人は10%に過ぎなかった。また、ドイツ第一公共テレビ(ARD)が9月3日に発表したアンケート調査では、66%の人が政府のコロナ対策に満足だと答え、非常に満足していると言う人の2%を含めると、68%という過去最高の満足度となっている。また、この調査では、コロナ危機が始まって以来、政府のコロナ対策を支持する人が増え、メルケル政権の支持率が、2月3月に比べてほぼ2倍に跳ね上がっていることも明らかにされた。

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