環境に一番優しい乗り物は何?

ツェルディック 野尻紘子 / 2019年9月22日

この頃ドイツで、モビリティーという言葉をよく耳にする。直訳すると可動性だが、現在は、人がいつでも好きなところに移動できることを意味している。車や旅行が大好きなドイツ人にとって、このモビリティーは非常に大切で、これは彼らが近年勝ち得た生活の質の一つと思われているようだ。しかし地球温暖化が深刻になりつつある今、温暖化の原因である二酸化炭素を多く排出する交通機関、特に飛行機や大型乗用車が問題視されだし、もっと鉄道や公共交通機関を利用するべきだという声が上がっている。そんな中、ドイツ連邦環境庁が意外な調査結果を発表した。長距離の移動には、鉄道よりもさらにバスの方が少ししか二酸化炭素を排出せず、環境に最も優しい移動手段だというのだ。

連邦環境庁によると、2017年の数値で、一人の人間が1 km 移動する際に排出される二酸化炭素の量は、飛行機が一番多くて201 g、次に多いのは乗用車で139 g だ。これより二酸化炭素の排出量がずっと少ないのは公共バスの75 g や路面電車・地下鉄・都市高速鉄道の64 g 。度々停止する市内の交通機関に比べて駅間の間隔の大きい近郊鉄道の場合、二酸化炭素の排出量はさらに減って1 km 当たり60 g になる。通常、移動の際に最も環境に優しいとされるのは長距離鉄道で、二酸化炭素の排出量は36 g だ。しかし、長距離バスの場合はもっと少なくて、32 g だという。

鉄道より運賃が安いので人気のある長距離バス。環境にも優しいそうだ。

連邦環境庁は上の数値を、それぞれの乗り物に通常平均して人が何人乗っているか、乗り物は平均してどれほどの間隔で停止するかなども考慮した種々の他の調査結果から割り出したという。

長距離バスはこの他、「交通事故や騒音の発生、景観を損なうことなど、外部への悪影響も少なく、最良の交通機関だ」という。このほどそう発表したのは、よりによって鉄道関係のロビーグループ「鉄道路線同盟」だ。ただ、例えば騒音による人体や生態系への悪影響は簡単に算出できるものではない。また、バスや鉄道が走れるためには道路や鉄道路線などのインフラ建設が必要だが、連邦環境庁の調査ではそれが考慮されていない。さらに本来なら、鉄道用の機関車や車両、バス生産の際に発生する二酸化炭素も計算に入れるべきだ。というわけで、本当に環境に優しい交通機関を見極めるのは非常に難しい。

なお、ドイツでは各産業分野や生活面で二酸化炭素の排出量を削減する努力がなされているが、増えるトラックでの貨物の輸送や人気の高いSUVなどの増加のために、交通分野での削減は進まず頭痛のタネになっている。ドイツ連邦環境省の発表によると、交通分野の中で二酸化炭素の排出量が全体で最も多いのは道路交通(乗用車、バス、トラックなど)で、全体の96.3%を占めている。航空交通の割合は1.2%、海運の割合は1.0%、鉄道の割合は0.6%、その他は0.8%となっている。

 

 

 

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