ヨーロッパのエネルギー転換事情

永井 潤子 / 2018年5月13日

このところヨーロッパ各国からエネルギー転換に関するさまざまなニュースが伝わってくる。欧州連合(EU)では、2030年までのエネルギー転換・気候温暖化対策である「クリーン・エネルギー・パッケージ」を成立させるため、目下、欧州委員会、加盟国政府、ヨーロッパ議会の3者の間で議論が進められている。そんななかで、先月伝わってきたエネルギー転換に関するいくつかのニュースをご紹介してみる。

ベルギー政府は、4月20日、フランスとの国境に近い北海に面積221平方キロメートルにのぼる大規模な洋上風力発電パークを建設する計画を明らかにし、それによって洋上風力発電パークは2020年までに倍増すると発表した。ベルギーでは目下のところ、4箇所の風力発電所の容量は870MWに過ぎないが、温暖化ガスの削減を目指し、同時に脱原発に弾みをつけるため、2022年までにこれを2.2GWに、さらに2030年までには4GWに増やす考えだという。ベルギー政府の北海担当次官フィリップ・ド・バッカー氏は「北海は、我が国の再生可能エネルギー転換の決定的なパートナーである」と強調している。

ベルギー政府は、3月末、2022年から2025年までに脱原発を実現させるという計画を改めて確認した。ベルギーでは現在総電力需要の約50%を原発による電力が占めており、約40%がオランダおよびドイツとの国境に近いドールとティアンジュの原子力発電所で生産されている。しかし、これらの原発は老朽化が激しく、ベルギーの住民だけではなく、国境を接するオランダやドイツの住民、そしてオランダ・ドイツ両国政府が早期の廃炉を要求している。しかし、ベルギー政府は、廃炉を実現するためには、原発で生産される6GWの電力を再生可能エネルギーなどで補わなければならないという問題を抱えているのだ。

もともと風力発電に力を入れてきたデンマークも、さらに野心的なエネルギー転換計画を立てている。エネルギー担当大臣、ラース=クリスチャン・リレホールト氏は、4月23日、これから先の10年間に世界最大規模の洋上風力発電所を稼働させると発表した。同大臣はデンマークの記者たちに次のように説明している。

我々が建設を計画しているのは非常に大きな洋上風力パークで、2030年までにデンマークでの総電力需要の約半分をこの風力発電で賄なえるようにしたい。まだどこに建設するかは決まっていないが、このパークは海岸から約50キロ離れたところに建設される見込みで、容量はこれまで最大の800MWになる予定である。これが稼働すれば、デンマークの7大都市の電力需要を風力だけで満たすことができるようになる。この風力発電パークが完成するのは2024年の見通しだが、公的補助金なしで建設される予定である。

なお、デンマークはすでに北海やバルト海にいくつもの風力発電所を稼働させており、去年2017年には電力総需要の43.6%を風力で賄うという記録を立てている。そのうえ目下バルト海に大規模風力発電パークを建設中で、2021年に完成予定のこの発電所の容量は600MWと見込まれている。

一方、フィンランドの環境相、キモ・ティリカイネン氏は、2029年以降、気候温暖化防止のため、火力発電を全面的に禁止する意向を明らかにした。フィンランド政府は、その際、2029年以前に火力発電から撤退した電力会社に対し、その褒賞として、政府の補助金を支出する計画であるとも発表した。ティリカイネン環境相は、脱炭素化に熱心な政治家として知られ、今年1月には今回公式発表された2029年ではなく2025年に前倒しして火力発電を禁止するよう提案しており、目下その影響が調査されているという。

しかし、火力発電からの早期撤退については、フィンニイッシュ・エネルギーなど電力会社から費用がかさむなどの理由で反対の声が挙がっており、そうした抗議の声を和らげるため、早期撤退をする場合には、総額9000万ユーロ( 約117億円)にのぼる政府褒賞金が考え出されたという。

フィンランド政府は、政府褒賞金によって再生可能エネルギーへの転換を推進する考えではあるものの、今後も原子力を使用していく考えを捨ててはいない。ただし、フィンランド西部に建設中のフランス製原発は困難に直面し、その稼働時期は、またしても2019年5月に延期されている。

EUでは目下、2030年までのエネルギー転換をめぐる総合計画「クリーン・エネルギー・パッケージ」をめぐって議論が続けられている。欧州委員会や加盟各国政府が主張する2030年までに再生可能エネルギーの占める割合を27%にする案に対して、ヨーロッパ議会は「その目標は低すぎる、もっと意欲的な目標を立てるべきで、せめて35%を目標にしないと地球温暖化の傾向に対応できない」と主張して対立している。

そんななかで、ドイツの緑の党に近い「ハインリヒ・ベル財団」などが4月10日「2018年のエネルギー・アトラス (地図)ー ヨーロッパの再生可能エネルギーに関するデータ(資料)と事実」を発表した。これは「ハインリヒ・ベル財団のほか、「グリーン・ヨーロピアン・ファウンデーション」、「ヨーロピアン・リニューアブルエネルギーズ・フェデレーション」、「ルモンド・ディプロマティーク」がまとめたもので、ドイツを含むヨーロッパ各国のエネルギー転換の現状と問題点、課題がグラフなどを使って説明されている。

エネルギー・アトラスをまとめた著者たちは、EUに対し、エネルギー政策の脱炭素化、分散化、デジタル化について、もっと野心的な目標を目指すよう要求し、ドイツのエネルギー転換が成功するかどうかは、ヨーロッパ全体との共同のエネルギー政策、気候温暖化防止政策の成功いかんに関わっていると指摘している。

ハインリヒ・ベル財団の会長、エレン・ユーバーシェール博士は次のように語っている。

気候温暖化防止のための「パリ協定」が結ばれて二年以上経った今も、ヨーロッパ全体のエネルギー供給状況は、「集中的で、輸入に依存し、石炭の利用によって気候温暖化ガスを大量に排出し、環境を汚染し、しかも高くついている」と言わざるを得ない。しかし、ヨーロッパのエネルギー転換を各国間で相互に助け合うことから利益が得られることは明白である。コンピュータを駆使してエネルギーの効率化をはかれば、ヨーロッパの再生可能エネルギーを100%にする技術は今日すでに存在する。

だが、現状ではEU全体で2017年度にはエネルギーの総需要の54%を化石燃料源の輸入に頼り、そのために2720億ユーロ(約35兆3600億円)を支出しなければならなかったという。 また、化石燃料による火力発電に、EU全体で毎年、1100億ユーロ(約14調000億円)の補助金が出されているのに対し、再生可能エネルギーへの補助金はわずかに400億ユーロ(5調000億円)にすぎないことも、エネルギー・アトラスは指摘している。

エレン・ユーバーシェール博士は、さらに次のように続ける。

ヨーロッパにとって重要な意味を持つのは、ヨーロッパ全体で共通のエネルギー転換を押し進めることによって、各地域で新たにローカルな職場が生まれることである。2014年以降ヨーロッパ全体では100万人以上の新たな雇用が創出され、ドイツではその数は33万人に達している。多くの地方自治体がすでにエネルギー転換を自らの課題として取り組んでいるが、今、脱炭素化、分散化、デジタル化という正しい路線を決めて、その目標に向かって努力すれば、将来民主的で分散的なエネルギー供給への道が開かれる。結局のところエネルギー転換の実現は、本質的には民主主義や住民参加の実現に絡む問題なのである

EU各国の課題や問題点についてここで詳述することはできないが、ドイツ語のエネルギー・アトラスは無料でダウンロードできる。

(“Europäische Energieatlas 2018<https://www.boell.de/de/2018/03/20enerugieatlas-2018-daten-und-fakten-ueber-die-erneuerbaren-europa?dimension1=division_pm>“) 。また、近く英語版、フランス語版、ポーランド語版、チェコ語版、ギリシャ語版などが作られる予定だという。

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