Power to Liquid (PtL)

ツェルディック 野尻紘子 / 2018年6月24日

カーボン・ニュートラル(炭素中立)な液体燃料が話題になっている。水を再生可能電力を使って電気分解して得られる水素(Power to Gas)を、二酸化炭素と合成して作る合成液体燃料のことで、利用する二酸化炭素は工業生産の過程で発生するものでも、空気中に存在するものでも良い。この燃料は、ガソリン、軽油、ジェット燃料などの化石燃料の代替えになるという。製造方式はPower to Liquid (PtL)、製品はSyncrude (人工原油の意味)と呼ばれる。これを燃焼すると、排出される二酸化炭素は、製造に使われた量と同じなので、炭素中立ということになる。

スイスの有力コンサルティング会社プログノスが、ドイツ石油業界の依頼でこのほどまとめた研究によると、交通分野での二酸化炭素排出量を削減するためには、環境に優しいエネルギー源としてのPtLが将来不可欠だという。特に、船舶や航空機には、液体燃料がまだ必要だからだ。「貨物船、飛行機、重い荷物を載せて遠距離を走るトラックなどがバッテリーを搭載・利用することは考えられない」と語るのはプログノスのイエンス・ホーボーム研究責任者。

プログノスは、研究に参加したドイツ・バイオマス研究センターとフラウンホーファー環境安全エネルギー技術研究所と共同で、価格の試算をした。それによると、Syncrude 1リットル当たりの生産価格は、投入する電力の価格と必要な設備投資額によって、2030年の時点に 0.70 〜1.75 ユーロ、2050年には  0.50 〜1.23 ユーロになるという。ドイツ石油中小企業連盟はこれに精製費、販売経費などを合わせて最終価格は2ユーロ程度(約255円)になるだろうと推定している。

この燃料の利点は、既存のガソリンやディーゼルに混ぜて利用できること、また既存の化石燃料用のタンク、パイプライン、ガソリンスタンド、そして自動車などがそのまま使えることだ。電気自動車や水素自動車のように、そのための新しいインフラを構築する必要がないのだ。「マイナス40度のシベリアでも、炎天下のアフリカでも機能する。電気自動車では、そうはいかない」と主張するのはドイツ石油中小企業連盟のエルマー・キューン氏だ。

ただ、このPtLは効率の問題を抱えている。投入するエネルギーの約半分が製造の過程で消費されてしまうのだ。それどころか、ドイツ石油業界連盟のクリスチャン・キュッヘン氏は「直接電力で車を動かす方が3〜6倍ぐらい効率が良い」としている。なお、PtLの研究も進めている電機大手のシーメンスによると、効率を高めることは可能だが、そのためにかかる費用は、現時点では非常に大きいという。

またPtLでは、Syncrude生産に必要な莫大な投資を誰が負担するかということも大きな問題だ。石油業界は、最大の関心があるのは自動車メーカーだろうと見ている。というのは、EU規定では、メーカーが販売する車の二酸化炭素排出量の平均が多すぎると、近々罰金を払わなくてはならなくなるからだ。

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