Power to Gas (PtG)

ツェルディック 野尻紘子 / 2018年6月3日

水素と酸素の化合物である水を、再生可能電力を使って電気分解して水素と酸素に分離すること、つまり再生可能電力というエネルギーを水素というエネルギーに変換することをPower to Gasと呼ぶ。往々にして、利用し切れないほどの再生可能電力が生じているドイツで今、こうして作る「緑の水素」が大きな注目を集めている。

太陽光や風力を利用して作られる再生可能電力は、生産量が天候に左右されるため足りない時と余る時がある。余剰電力の吸収方式として一般に考えられるのは、大型蓄電池や揚水発電で、揚水発電は世界的にも各地で利用されている。電力が余っている時に、その余っている電力を使って下方貯水池の水を上方貯水池に汲み上げておき、電力が不足している時には逆に、上方貯水池に貯まっている水を下方に流して発電する方式で、大規模揚水発電所は地形に大きな高低の差のある地域に設けられている。一方、容量が数メガワット(MW)などという大型蓄電池は、まだほとんど普及していない。これは現在、大量の蓄電にも適しているとされるリチウムイオン電池の価格が高すぎること、またリチウムの採掘などに問題があることが理由だと思われる。

余っている再生可能電力をPower to Gas方式で緑の水素に変換した際の用途は、従来の水素と変わりなく多様だ。直接水素として工業生産や水素自動車の燃料として使うことができるし、発電に使って再び電力に戻すこともできる。また、炭素と結合させて天然ガスの主成分であるメタンにすることも可能だ。この水素の用途の多様性のため、余剰の再生可能電力を緑の水素に変換することには大きなメリットがある。

また、緑の水素はそのままで、ドイツに既存する膨大な地下の天然ガス貯蔵庫に送り込み、ドイツ全国に張り巡らされているガス管網システムに取り込んで利用することも可能だ。ドイツ遠隔ガス管網運営会社連盟によると、ドイツに現存するガス管網システムの長さは50万kmもあり、その蓄積可能容量は、現在ドイツのガス消費者が消費するガスの3ヶ月分にも相当するという。これに対し、現存の蓄電能力は41分分しかないと言われる。

現在ドイツでは特に北ドイツ地方で、再生可能電力が増え続けている。一方、従来から電力需要が多いのは南ドイツ地方で、同地方の原発が2022年に停止した後には、大量の電力が北から南ドイツに送られなければならない。そしてそのための送電および配電網の構築は今、ドイツの緊急課題となっている。しかしドイツのエネルギー転換のシンクタンクである「アゴラ」が、コンサルタント会社であるフロンティア・エコノミックスに委託した研究報告によると、緑の水素を既存のガス管網システムに取り込んだ場合には、北ドイツの電力を電力として送電する必要がなくなるので、送電網の60%、配電網の40%の建設が不要になるという。

Power to Gasでこれまで問題だったのは、電力から水素を得る際の効率が悪く、エネルギーの損失が大きかったことだ。しかし現在ドイツで稼働している約30のPower to Gas 試験装置の中には、効率が75%を超すものもあり、先ごろドイツの電機会社シーメンスがオーストリアの製鉄会社フェストアルピーネのために建設を開始した装置では、効率80%が達成可能だろうと見込まれている。ちなみに、余剰電力の蓄電方式として最も広まっている揚水発電の際に損失する電力は通常約3分の1と言われているので、Power to Gasには将来的に十分大きな競争力があるとみなされ、その分、期待が高まっている。

なお、建設中のオーストリアの装置の容量は世界最大規模の6MW もあり、1時間に1200立方メートルの水素が得られるという。

 

 

 

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