発言し始めた若者たち 

池永 記代美 / 2019年11月24日

「私たちはここにいる!私たちは大声をあげる!それはあなたたちが、私たちの将来を奪ったからだ!」。昨年末からドイツでも毎週金曜日に行われている温暖化対策を求める生徒たちのデモ、「Fridays for Future (未来のための金曜日)」(略:FFF) では、生徒たちがこのフレーズを歌うように節をつけて大声で連呼する。この行動が象徴するように、今、「若者たちは発言したがっている」ことが、ドイツの若者たちの意識調査で明らかになった。

この意識調査はオランダに本社を持つ石油会社シェルのドイツ法人が、1953 年から3年から5年ごとに発表しているもので、ドイツでは『シェルの若者意識調査』として、よく知られている。この10月15日に発表されたのは、第18回目の調査結果だ。調査の対象は12歳から25歳の若者で、層化抽出法で選んだ2572人に対して、今年の1月から3月中旬にかけて、口頭でインタビューが行われた。シェルの委託を受けて調査にあたったのは、ビーレフェルド大学の政治学の教授マティアス•アルベルト氏が率いる教育学や社会学の専門家とある調査機関からなるチームだ。

調査により明らかになった若者像の一つの特徴は、政治への関心が高いことだ。 政治に関心があると答えた若者は41%で、2015年に行われた前回の調査結果の43%に比べると2ポイント減っている。しかし2002年の調査では、政治に関心があると答えた若者は30%しかおらず、アルベルト教授によると、「今世紀に入って政治への関心が高まっているという傾向が、そのまま続いている」そうだ。政治に積極的に関わることが大切だと思う若者も34%いる。確かにFFFのデモだけでなく、外国人排斥反対デモや、女性へのセクハラや性的暴力を批判する#MeToo運動のデモなどで、 手作りのプラカードや思い思いの服装で、時には楽しそうに、時には怒りを声にしてデモする若者たちを多く見かける。以前ある高校生になぜデモに参加するのかと尋ねたら、「選挙権のない僕たちは、デモをして政治家に自分たちの声を届けるしか方法がないからね」という答えが返ってきて、感心したことを思い出した。

若者たちはドイツの民主主義を高く評価しており、77%が今の状況に満足しているという。2006年の調査では、その数は59%しかなかったので満足度は上がっている。その一方で市民の代表として民主主義を行使するべき政治家や、連邦議会や州議会などの政治機関に対しての信頼度は低い。なんと71%もの若者が、政治家は自分たちの利益を代表してくれていないとみなしている。この結果を受けて、フランツィスカ•ギファイ連邦家族•高齢者•女性•青少年相 (社会民主党)は、「これは私たち政治家への警告です。若者たちを裏切ってはいけません。私たちはこれから若者たちと一緒に政治をやっていかねばなりません」と語った。政治家たちに任せられないという不信感があるからこそ、デモに参加するなど、政治に積極的に関わる若者が多いのだろう。

今までの調査結果と比べて大きな変化があったのは、何に対して不安を持っているかという質問への回答だ。4年前の調査ではテロへの不安が一番大きかったが、今回は環境汚染という回答が71%と最も多く、それにテロ攻撃 (66%) や温暖化 (65%) が続く。調査期間がFFFのデモが急速に広がっていった時期と重なっているので、これは意外なことではないかもしれない。そんな中で興味深いのは、移民が増えることに対する不安は33%と比較的低く、それよりも排外主義への不安の方が52%と高いことだ。 2015年の夏以降の難民の増加を受けて、その後一部に広がった、時には過激で暴力的な難民受け入れ反対の動きを、若者たちが批判的に見ていることがわかり、少しホッとすることができる。

しかし、今後受け入れる移民の数を減らすべきだと考える若者は、2015 年には全体の3分の1強ほどしかいかなったが、今回の調査では増加し、約半数の若者がこの意見を支持しているのも事実だ。難民増加によりドイツではポピュリズムが広まったが、若者たちがその影響を受けていることも、憂慮すべきことだ。

それはポピュリストの主張、例えば「外国人について良くないことを言えばすぐ人種差別主義者だとみなされ、言いたいことが言えない」を、その通りだと受け止めている若者が68%もいること、また、「国はドイツ国民より難民を大切にしている」と感じている人が半数以上いることに現れている。さらに意見の異なる者同士の対立について不安を持っている若者が56%もいることも、気になる結果だ。これもポピュリストたちが、意見の異なる人たちに向けて感情的で激しい攻撃をすることが日常的になったことの影響であろう。

女性として驚き残念に思ったことは、小さな子供がいる間は、仕事時間を半分に減らしたいという女性が65%いて, 68%の男性がパートナーにそれを望んでいるという結果だ。少子化に悩むドイツは、親が家庭と仕事の両立をしやすいよう、保育所の拡充や両親手当の導入など、環境づくりに務めてきたが、父親は仕事、母親は育児という旧来の性役割分担が若者たちにも受け継がれているのだ。ただし、父親の育児参加は進んでいることからもわかるが、子供が小さい間はフルタイムから労働時間を減らしたいと考えている男性が41%いる。この点については、調査チームの一員で教育学の専門家であるヘルティー•スクール•オブ•ガバナンスのクラウス•フレルマン教授は、「女性の自覚は高まりつつあり、家族像も変わってくるだろう」と述べている。

勇気づけられるのは、4年前の調査と比較して不安なことは増えているが、将来を楽観視している若者の割合は58%とあまり減っていないことだ(前回は61%)。そして、59%の若者がドイツは公平な社会だとみなしていることも喜ばしい結果だ。 東西ドイツが統一して29年経った今、相変わらず自分たちは不利な立場にあると考えている東部ドイツの人が多いのだが、東西の若者たちの間にはそのような受け止め方の違いはない。この若者たちが社会の中枢を担うようになる20 年後ぐらいには、心の統一が今よりさらに進んでいることを望みたい。

 

 

 

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