どう知らせる核廃棄物の貯蔵所 - 学者らが討議

ツェルディック 野尻紘子 / 2012年8月5日

誰も知らない、10万年も昔に地下に設置された核廃棄物貯蔵施設を、資源のありかを探る最先端のボーリング機が偶然掘り当ててしまい、放射性物質が地下水や辺り一面を汚染したとしたら!  そんなことが将来起こるのを、今の私達はどうすれば防ぐことが出来るのだろうか。10万年も放射能を放出し続ける核廃棄物の貯蔵場所を、将来の世代に伝えるにはどうしたら良いのか。その問題を考える学者たちが、このほどダブリンに集まり意見を交換した。7月18日付けのベルリンの日刊紙「ターゲスシュピーゲル(Der Tagesspiegel)」が報道している。

「我々は、将来の世代にはっきりと、危険物の存在を伝えなくてはならない」と発言するのはスウェーデン・カルマー市のリネー大学から来た考古学者コルネリウス・ホルトルフ氏。同氏は、スウェーデン放射性廃棄物エージェンシーと共同で、核廃棄物最終貯蔵施設が存在するという知識が、出来るだけ長く一般市民の意識から消え去らない方法を考案しようと研究を始めた。

同種の研究は、既に今までいくつかの奇妙な案を生み出している。例えば、最終貯蔵施設に関する情報が、あたかも人類に アイデンティティーをもたらす神話であるかのごとく、世代から世代に伝えられる一種の宗教とか、 高濃度の放射能に接すると光り輝きだす特別に品種改良された猫、など。 しかし現在の“放射能の危険の通達に関する研究”が以前と異なるのは、言語学者や考古学者など人文科学系の学者も加わっていることだ。

ダブリンの会議ではスウェーデンとフランスからのプロジェクトが披露された。ただし具体的な実現可能な提案が発表された訳ではない。「我々は研究の初段階に立っている。例えば、我々はどの習得方法と伝達方法が歴史上真価を発揮したかを見つけ出したいと考えている。我々は今まで、人類は将来も現在の我々と同じように思考するだろうと考えて来た」とホルトルフ氏。「今から10万年前の人間がどんなことを考えていたか、どんなことを知っていたか、我々は殆ど知らない。10万年後の人間のことも我々には分からない」と同僚のアンダース・ヘーグベルグ氏。同氏は、いかなる最終貯蔵施設に関する知識も10万年は存続しないと確信しており、「それは不可能だ」と断言する。「たとえ一時期情報が伝達できるとしても、最終的には誤解は避けられないだろう。それでも正しい情報を出来るだけ長く保つ努力は必須だが」

フランス放射能廃棄物エージェンシーのパトリック・シャルトン氏は、情報を少なくとも物理的には長期間保存出来るという 記録媒体を持参した。人口サファイアから出来た直径25cmのディスクで、これには貯蔵施設の所在地や廃棄物の種類など4000ページ分の情報をプラチナの粉末で焼き付けることが出来るという。200万年保つそうだが、実証の手段はない。見本品の価格は2万5000ユーロ(約250万円)する。肝心なのは、どこにこのディスクを保存したら、何万年後でも人間がこれを見付け出せるだろうかという質問なのだが、その答えが出て来ないのが問題だという。また、将来の人間が今の言語や地図、方式を理解する保証はない。

そんな問題があるので、専門家たちは最終貯蔵施設のある場所に直接、簡単で分かりやすい通告を残すのが最適だという意見に達した。スウェーデンの放射性廃棄物取り扱いエージェンシーのエリック・ゼッツマン氏は、「米国では長い間、その地域では採掘されない素材の石の塔を建てるのが良いとされて来た」と話す。将来その近辺に住むことになる人たちが、その石の塔が自然現象ではなく意図的にそこに設置された物であると理解し、その下に何かが存在するはずだと気付くだろうと推測されるからだという。しかし、このアイディアも実現性が少なそうだ。例えばネバダ砂漠で、大きな花崗岩の固まりが見つかったら、優秀な建材として使われる可能性の方がもっと大きいのではないだろうか。「出来るだけ低価格で、しかも長く保つ素材でなければだめだ。巨大な盛り土はどうだろうか」とゼッツマン氏。 危険は残る。

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